第123話 ドラゴンドラゴン
「リン、僕たちは敵兵が突破してきた場合に備えて、町の人を守る為に門を守ってるよ」
「よろしく、ごめんね一緒に乗せてあげられなくて」
「い、いやいいよ、どうせ風呂敷包みの中になるんだろうし」
「風呂敷の中で男三人がひしめき合っているのは、軽い地獄なんだブヒ」
「違う世界を体験してしまいそうになります」(メガネくいっ)
そ、そうなんだ。
あの中でそんな恐ろしい世界が広がっていたとは想像できていなかったよ。
「では参りましょう、リンナファナ様」
え? 何?
突然後ろから声をかけられて振り向くと、そこにはお姫ちゃんの姿があるではないか。
「あの、殿下も猫に乗って出撃なさるのですか?」
「ええ、私も猫に乗って参るつもりです」
「そうなんだ、いいかな? 白猫」
白猫が私をマルに置く。
「だから前足を置いてくれないかな!」
「いえ、私はそちらの猫ではなく、こちらの猫に乗って参ります」
そう言ったお姫ちゃんの横の地面から、モグラじゃなかった、でっかいトカゲが這い出てきた。
土ドラゴンである。
「そいつは猫じゃねーから!」
「あらあら、そちらの白猫と何が違うのでしょうか」
全然違うわ!
トカゲは猫じゃないから!!
「ねえリン、土ドラゴンも白ドラゴンも、どっちも猫じゃないからってつっこみを我慢している私を褒めてくれないかな」
さて、い、行こうかフィギュアちゃん。
私が白猫に乗ると、お姫ちゃんも土ドラゴンに乗った。
いざ出陣だ。
「あのーリン。ごめん、僕たちは門を守るってさっき言ったけど、どうやら僕たちもドラゴンに乗って出撃する事になったみたいだよ」
モブ男君の声にその方向を振り向いた私は、盛大にブーっとなった。
何故なら、モブ男君たちが巨大な猫に乗って現れたからである。
「どこのドラゴンよそれ! いきなり新ドラゴンを登場させて搭乗してんじゃないわよ! どこの誰よそいつ!」
「それが、あはは、新顔では無いみたい」
「あれ? なんだか見た事あるわね、この白と黒のブチ猫。お前私と会った事ある?」
『にゃー』
うむ、わからん。
よく見ればこの子、いつもいつも猫探しで捕まえてた、子爵のお嬢様んとこの逃亡猫ちゃんじゃないの!?
小金稼ぎに助けて頂いてちょっと感謝してたのよね。
「あなたも気が付きましたか、この前足を舐める回数。これはもう間違いありませんよね」(メガネくいっ)
そんなとこで気が付いたんじゃねーけどな!
「あなたドラゴンだったの?」
『にゃー』
うむ、わからん。
「自分はモブパーティー第六の四角だニャーと申しているみたいです」(メガネくいっ)
『にゃー』
「申し訳ありません、四角ではなくて刺客だそうです」
「猫に言葉を正されてるんじゃないわよ!」
「ふむふむ、音が一緒の言葉辞典の完成を急がなくてはいけませんね」
ノートを出すのは終わってからにしてもらえないかな!
「じゃあ行こう! モブパーティー全力出撃!」
「おー! モブパーティー出撃ですね!」
お姫ちゃんが返事しちゃってるけど、モブパーティーに一国の王女が入っちゃって大丈夫なんだろうか。
まあ細かい事はいいや。
初等治癒魔術師(私)、剣士、萌えオタ、メガネ師、格闘少女、剣士少女、中等治癒魔術少女、王女、動いて喋る謎のフィギュア一体。
黒猫ドラゴン、白猫ドラゴン、白と黒のブチ猫ドラゴン、土ドラゴンのドラゴン四体。
そして上空にはドラゴンをも撃墜する、二百を超える交通事故飛翔体なのだ。
冷静に考えたら、こんなものがモブパーティーであっていいわけが無いのである。
これはぶつけられた側からしたら、もはや悪夢と言っていい。
「やっちゃえ――!」
「うおおおおおドラゴンが大量に襲って来たあああ!」
「何だこれは! 一体何が起こっている!」
「あちあちあち!」
「冷てええ」
「穴に落ちた!」
「助けてくれー転がされるー!」
相手が大混乱なのも仕方がない。
黒猫は飛翔しながら炎を吐きまくり、白猫は氷を吐く。
土ドラゴンは地面に穴を開けまくって、ブチ猫が転がす。
ブチ猫は空は飛べないし何も吐かないけど、素早さだけはもの凄い。
町から町へ逃亡しまくった猫だけはあるのだ。
燃やされて凍らされて落とされる、そしてついでに猫パンチとコロコロ攻撃である。
「こ、これが光姫の威力なのか」
いや、あんたたち普通にドラゴンにぶっ飛ばされてるだけだけどね。
最強生物舐めんなよ。
「戦争でドラゴンをけしかけるなんて卑怯だぞ!」
「ドラゴンの親戚数百体で侵略してきた人たちの言うセリフじゃないわね!」
でもさすがに十数万の軍勢を相手にしたら、本当ならドラゴンもやばいのかな?
なぜか矢を射ろうとした弓兵がくしゃみをして、指揮官の軍帽を吹っ飛ばしたりしてるもんなあ。中には矢とネギを間違えている強者もいるし。
「アケミン殿! 敵の光姫を押さえてくだされ!」
「は! そうだった! こらータマネギ返せー。私のお小遣いで買ったんだぞあれ!」
ぽかーんとドラゴンたちを見ていた黒髪ちゃんが我に返ったようだ。
どこのかの農村でも襲ったのかと思ってたけど、ちゃんと買ってたのか。実はいい子なのかな、タマネギ取っちゃってごめんね。
黒髪ちゃんの前に白猫を降ろした。
正直、この子をなんとかしないとこの戦争に勝てない気がする。
闇姫である黒髪ちゃんの相手は光姫のお仕事だろうに、どこで何やってるのかな。
お仕事しない人のせいで、私が代わりにやる羽目になったよ。
「な、なによこんなドラゴン、私に手を出したらこのドラゴンもただじゃすまないんだけどー」
うん、確かにそんな気がするな。
私は降りて黒髪ちゃんの前に出る。
「な、何? 私と殴り合いでもする気? フフ、いよいよ雌雄を決する時が来たみたいね」
次回 「リン VS アケミン」
リン、ハンバーガーは国宝だと言い切る