第122話 ヒャッハー航空戦
妖精ストライク――
それは空飛ぶドラゴンですら撃墜する恐るべき交通事故。
そんな物を食らっては飛竜ではひとたまりもないのだ。
「とつげき」
「とつげき」
「とつげき」
「とつにゅるー」
二百機を越える迎撃で、まず飛竜の三分の一が撃墜された。
下からの恐るべき突入で吹き飛ばされたのだ。
攻撃隊は一気に竜騎兵の上空高くまで上昇し反転する。
「こちら赤城隊、続けて第二次攻撃の要ありとみとむ」
「こちら加賀隊も同じく、指示を請う」
「蒼龍隊第二次攻撃の準備良し」
「飛龍隊も攻撃に支障なし」
私は通信係の妖精ちゃんにGOサインを出す。
「第二次攻撃せよ。繰り返す、第二次攻撃せよ、トトトトトト」
「いっけええええ」
「たーのしー!」
「落ちちゃえー」
「わーい、とっつげきー!」
上空からの第二の突撃でまた竜騎兵の三分の一が落ちた。
向こうはもう大パニックである。
「一体何が起きてるんだ!」
「退避! 退避!」
「避けようにも相手が見えん!」
その場で岩を落とす者、魔法炸裂弾を落とす者、ついでに飛竜のお土産も落としている。
パニックなのでそんなものを抱えて悠長に飛んでいる場合ではないのだ。身軽になって逃げるしかないのである。
問題なのは、不幸にもそれが隣国の軍勢の上空で起きた事だった。
岩を落とされ魔法炸裂弾を落とされ、ついでにお土産まで落とされて、地上軍も大パニックである。
「赤城隊これより残敵掃討に移ります」
「加賀隊もいっくよー」
「蒼龍隊も追いかけちゃえー」
「飛龍隊もたっのしー!」
逃げ惑う生き残りの竜騎兵も容赦なく撃墜されていく。
この町が亡んだら、天まんじゅうも亡ぶ。
妖精の子たちからしたら、それはとんでもない悪しき事なのである。それを成す竜騎兵は、悪魔の軍勢なのだ。
「わーい」
「ばーか」
「おちろー」
「ざまー」
お饅頭の敵には容赦ないわね。
そして――
「こちら利根四号機、上空に敵影なし、くりかえす上空には敵影みえず」
「ばんざーい」
「かったー」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハー!」
妖精さんたち楽しそうだけど、ヒャッハーはやめようね。
ほら、城壁の上の人たちが全員ハニワ君人形になってるから。
「か、壊滅だと! 我が精鋭の竜騎兵部隊が壊滅!?」
向こうの将軍らしい人が頭を抱えて叫んでいる。
「敵の恐るべき新兵器です! 一体も残さず飛竜が撃墜されました!」
「くっさ! こっちに来るな!」
ありゃー、向こうの副官さんも飛竜のお土産爆撃食らったんだね。
「くっさ!」
「くっさ!」
周りの兵隊さんたちにも言われてるよ、ここからでは見えないけど泣いてそう。
「ええい建て直せ! 空軍がやられただけだ。まだこちらには十数万の兵が残っている! このまま突入し、敵を蹴散らしてくれる。捕虜などいらん、町の者は全員捕らえて処刑せよ!」
うわーなんだかとんでもない事言ってるよ、あの声がでかい将軍のおっさん。町の人たちを処刑だと!
そんな事を聞いたら、私だって俄然やる気になるじゃないの!
隣国の軍勢はパニックから立ち直ったらしく、こちらに向って進撃を開始している。
本来なら、相手が大パニックに陥っている間に好機と見て、要塞から地上軍が出撃して蹴散らせば良かったんだろうけど、十数万に対して数百人じゃさすがに無理だったか。
竜騎兵をふっとばしても、こちらの圧倒的不利は変わらない。
十数万の軍勢に来られたら、町の守備隊数百じゃひとたまりもないわよね。
普通ならね。
「こらあーそこの金髪! やっぱりお前が光姫か! 私とタマネギ勝負しろ!」
黒髪ちゃんが私に向って何か叫んでるけど、人違いですよ。
金髪イコール光だなんてそんな安易な事言ってたら笑われるわよ。
それにそんな所にタマネギ積んでたら――
「うわー、な、何? ちょっと、私のタマネギ勝手に持って行くなー」
あーあやっぱり。
タマネギの箱を前足で抱えて飛んでいるのは黒猫である。
好き嫌いしがちな山の上の楽園の子供たちに、しっかりタマネギやニンジンやピーマンは食べさせないといけないのだ。
黒猫はタマネギの箱を抱えて私の所まで飛んでくると地面に降り立った。
「お久だね黒猫。元気してた? いつも物資運搬ご苦労様です」
『にゃー』
おやつのキスリンゴをくれた。
「リンナファナさんご無沙汰してます」
「お姉ちゃん久しぶりー」
「私もいるよー」
おや、黒猫はしゃべれるようになったのかしら。これでもうメガネ君は必要なくなったわね。さらばだメガネ師!
「ちがうちがう」
黒猫の上から声がするのでよく見ると、ロリっ娘ちゃんが乗ってた!
その後ろにはミーナスちゃん、更にその後ろにはジーニーちゃんが座っている。
私もそこに挟んでもらえないだろうか。
「みんなも来てくれたんだ?」
「うん、定時見回りの時に利根四号ちゃんが教えてくれたんだよ」
ありがとう利根四号ちゃん。
偵察に見回り、連絡係にお饅頭探索運搬と、本当に有能な子だよねあの子は。
「あれが隣の国の悪い人たちなのかな?」
「あれを追い払っちゃえばいいんだよね!」
ミーナスちゃんとジーニーちゃんも張り切っているみたいだ。
十一歳と十歳の少女に追い払っちゃえばいいと言われている十数万の軍勢って一体。
「じゃ黒猫と一緒に頼んだわね」
「ラジャー」
少女たちを乗せた黒猫が飛んで、隣国の軍隊の方に向っていく。
「うわあああ、なんだああ! ドラゴンだああああ!」
「ひいいいい! ドラゴンが襲ってきたああああ!」
「助けてえええええ」
「こっち来るなああ」
うんうん、みんな楽しそうだ。
さて、わたしはと。
隣に控えていた物体を見上げる。
そこには真っ白なデカブツが待機していた。
さっき飛んで来て隣に着地していたのだ。
『にゃー』
そう、白猫である。
ハンバーガーの村からちょっとだけ出張してきてもらったのだ。連絡係はまたもや利根四号ちゃんである、ありがとう。
かき氷を作ってくれたので、早速フィギュアちゃんと頂いた。
「それじゃあ、私を乗せて貰えるかな?」
白猫は私を咥えて地面に描かれたマルに置いた。
「だから前足を置けよ!」
次回 「ドラゴンドラゴン」
リン、出陣