第117話 お姫ちゃん出陣! そしてモブになった約一名
久し振りに妖精のみんなと会いたいなと思っていたら、会いたくない人に会いました。
あなたは妖精ではないのでお帰り願えませんか。
「な、何故こちらにいらっしゃるのですか殿下、てっきり王都に帰ったのだと思っていました」
「うなぎめしを食べていたら敵軍の捕虜になったのです。不幸な出来事でした」
何やってんのこの人!
ポンコツは首都で大人しくしていればいいのに。
「幸い敵軍は私を王族とは見抜けなかったようです。最近の旅のおかげで、私の偽装能力も高くなっているのかも知れませんね」
いや、どんどんモブ化していってるんじゃないですかあなたは。
王族として捕虜になっていたら、とてもめんどくさい事になっていただろうから、今回はポンコツ化とモブ化に感謝した方が良さそう。
「何故この町に?」
「リンナファナ嬢がこちらに来ていると聞いて、近衛隊を引き連れて助けに参上したのですよ。さあ私が来たからにはもう安心です」
不安しかない。
あなたさっき、助けに来てくれたのですかって言ってましたよね。逆になってますけど。
「私は王座の事は諦めても、まだあなたの事は諦めていませんからね」
「と言われましても……」
迷惑なので帰ってもらえませんか。皆にポンコツ病がうつったら大変じゃないですか。
要塞の状況をみるにとっくにポンコツ化してるっぽいけど。
「さ、ここは危険です、リンナファナ嬢。私と共に安全な後方へ参りましょう」
「まだ私は帰れないんですよ、ルーアミル殿下から賜った重要な使命がありまして」
助けに来てくれた事は感謝したいけど、私はまだ美味しい物、じゃなかった困ってる人を助けたいんだよね。
「貴女に怪我でもされたら私は一生後悔します、さあ帰りましょう」
王子には申し訳ないけど、ここはひとつ。
まだ私は土の中に埋まりたくないので。
「ああーなんという事でしょう! まさかまさか、殿下じゃないですかあ! 殿下が援軍にいらしたなんてとても心強い限りですわ(チラ)」
「どうしたのです突然、いやリンナファナ嬢に喜んで頂けて光栄です。はっはっはそうでしょうそうでしょう」
「キャー素敵! なんと、殿下が近衛隊を引き連れて? まあまあ殿下ったら(チラ)」
「ええ、途中ではぐれてしまいましたが」
どこまでいってもポンコツで心配になってきたわ!
こいつ、ただの迷子じゃないか!
「これでこの要塞も大丈夫ですわね! 殿下が来てくれれば百人力です(チラ)」
「おお! これは殿下! わざわざ援軍を引き連れてお出で下さったのですか!」
「お久しゅうございます殿下!」
ようやく気が付いたか。
何とか貴族のおっちゃんたちを呼び込む事に成功したぞ。
「ん? ああ、うむ、くるしゅーない。ウズリー辺境伯にラームキー侯爵、皆息災でなによりだ。こちらの戦線の事は非常に気になっていたのだ」
「もったいないお言葉痛み入ります殿下。このウズリー、ここまで頑張った甲斐もあったというもの」
「我々が戦線を維持できず、誠に心苦しく思っております」
貴族のおっちゃんたち嬉しそう。
王子がモブ化してたから、気付かれなかったらどうしようかと思ってたよ。
「で、味方の部隊はどこですかな?」
「う、うむ我が精鋭であるが――」
その精鋭とはぐれちゃってるんだよね、この人。
あ、王子の目が泳いでいる。
私を見ても知らないよ! どこではぐれたんだよ!
「報告します!」
その時伝令の兵士が町に入ってきたようだ。
よくない知らせかと思ったが、兵隊さんの顔が心なしか明るい。
王子の近衛隊の到着でもあったのかな。
「ルーアミル王女殿下の反撃軍がトファンガを出陣! こちらに援軍として向かっています!」
お姫ちゃんだった――!
遂にこの国の主力部隊が動いた!
「おお!」
「素晴らしい!」
「ルーアミル殿下万歳!」
「ルーアミル殿下に祝福を!」
あっという間に王子が忘れ去られたよ。
踏ん張れ王子! このままだとモブ化してしまうぞ!
「ははは、我が妹もなかなかやるではないか。兄としては誇らしい限りだ!」
「左様でございますな、殿下」
おお、なんとか踏みとどまったぞ。
貴族のおっちゃんたちが王子の事も思いだしたみたいだ。
「それはそうと、殿下の部隊はどこですかな?」
「うむ、その精鋭であるが――」
あ、王子の目がまた泳いだ。
だから私を見ても知らないよ。探しに行けよその精鋭を。
「報告します! シュムーア公爵の反撃軍がコッカーを出撃! こちらに援軍として向かっているとの情報です!」
「おお!」
「ルーアミル殿下に続いてシュムーア公爵も動いたか!」
「我が軍もいよいよ反撃体制に入りましたな!」
「これで敵の侵攻軍を撃退できるぞ!」
あの公爵も遂に出撃したんだね。
おい、王族が公爵にインパクトで負けてんぞ。
頑張れよ王子。
「公爵は頼りになる男だからな、我が王家も一目置いておる!」
「左様でございますな、殿下」
「それで殿下の部隊は?」
とうとう王子が喋らなくなった!
こんな無表情初めて見たってくらいの無表情だ。一切知らぬ存ぜぬで通す気だな。
「殿下? どうされました殿下?」
「報告します! ルーアミル王女殿下の反撃軍が敵の先陣と交戦! 見事に勝利を収め、敵の先鋒部隊を撃破しました!」
『うおおおおお!』
お姫ちゃんすごい!
この国の救世主の予感!
「うむ、我が妹ながらなかなかやるな。私も負けては――」
「ルーアミル!」
「ルーアミル!」
「ルーアミル!」
「ルーアミル!」
ありゃー王子の存在をみんな見事に忘れたみたい。
「さすが王女殿下ですな」
「ここから先は我が軍のターンである!」
「うむ、ここに私、エミール・フリードリヒ・グスタフもいるしな!」
「ルーアミル!」
「ルーアミル!」
「ルーアミル!」
「ルーアミル!」
もうやめてあげて。
もうその人は完全にモブ化したのでやめてあげて。
「神官によると、王女殿下には光姫の加護が付いたとか」
「なんと、それは素晴らしい!」
「ルーアミル殿下は光姫の加護付きですか!」
「これで敵なぞ物の数ではありませんな!」
あーなるほど、お姫ちゃんにそんなのが付いたんだねえ、知らなかったよ。
まあ、お姫ちゃんは王侯貴族だけど、ちょっと憎めない所があるしね。私も微力ながら応援してるよ。
「我が軍の勝利間違いなしだ!」
「報告します! シュムーア公爵軍が敵の別動隊と交戦! ボッコボコにやられて敗退!」
「あああ~」
「なんてこった公爵」
公爵には光姫の加護は付かなかったか――
次回 「ルーアミル王女 VS コードル将軍」
お姫ちゃん、敵の主力と対峙する
すみません明日はお休みします
次の話を組み立て直します