第116話 なんでこの人、ここにいるの?
うなぎみたいな黒光りしたその頭で、ぷいってあんた。拗ねたおっさんはめんどくさい。
でもなんとか説得してみるしかないか、うなぎめしの為だ、がんばるぞ。
「いえ私は生まれてからここまで、うなぎのシメ話は是非とも一度聞いてみたいと思っていたのです」
「よし、話そう」
話したくて仕方ねーのな!
「第一章。何故俺がうなぎをシメようと思うに至ったのか」
そこからかよ、さっさとうなぎをシメろよ。
説明は三文字くらいに縮められないだろうか。
「うなぎをシメるのに必要なのは、統・武・知・政の四つでな、特に大切なのはその中の忠だ」
四つなんだか五つなんだかどっちなのよ!
とかつっこんでいたら、隣から『なるほどなるほど』と声が聞こえてくるじゃないか。
「とても参考になる興味深い話ですね。これはノート案件なのは間違いありません」(メガネくいっ)
メガネ君がおっちゃんの話を真剣に聞いてノートに記載している。
「い、いつからいたの?」
「リンさんがうなぎめしがもう無いと聞いて、絶望のあまり横になったり縦になったり斜めになったあたりからですね」
「そんな事してねーわよ!」
最近身近でそんな人を見かけた気がするよ。
ここはもうメガネ君に任せて、私は向こうでフィギュアちゃんとけんけんぱでもして遊んでいよう。
行くよー、けーんけーん、ぱっ! あ、いけね。フィギュアちゃん踏んじゃった。
「大変参考になりました」(メガネくいっ)
「わーパチパチ」
「おじさんすごーい、感動した」
「お姫様可愛かったねー」
「僕も将来はうなぎをシメて世界平和に貢献するよ」
ぷんすか怒るフィギュアちゃんを宥めている間に、どうやらシメ話は終わったみたいだ。
いつの間にか子供たちの前でうなぎ講座になっていたみたいだね。いったいどんな講座だったのか、ちょっと気になるのが腹立つ。
「どうだったメガネ君」
「また知識が増えてしまいましたね。その内私は全知全能になるのではないのかと危惧してしまいます」(メガネくいっ)
そ、そうなんだ。
「でもこれでこれからうなぎを獲った時に、そのノートがあればうなぎをさばけるね。夢が広がるー! どんな情報を得たの?」
「こちらになりますね」
メガネ君が今回書き入れたページを開いて見せてくれる。うなぎめしレシピかな? ちょっとしたクッキングノートだね。
ふむふむ、どれどれ。
「何故おっさんの骨格を記録してんのよ!」
「他に何を記録しろと?」(メガネくいっ)
うなぎのシメ方を記載しろ!
わかってたよ、このオチはわかってたんだよ、でもどうしてもメガネ――
「おーいお嬢ちゃん、早速うなぎをシメるぞ」
「わーい」
メガネ君? 誰だっけ。
ついにうなぎめし召喚の儀がはじまるのだ!
「今回シメるうなぎはこれだ!」
おい、どこからうなぎを出した。何故懐にうなぎを入れていた。何故なんでもかんでも懐で温めようとするのか。
まあいいか。うなぎめし~♪
あっという間にうなぎが捌かれ、かば焼きにされていく。
そしてそれがご飯と合わさって遂にうなぎめしの完成だ!
因みに途中で〝うなぎ焼き屋〟なるお爺さんが登場したが、めんどくさいので華麗にスルーである。
うなぎシメ屋のお父さんらしいその人物は、現在メガネ君と子供たちの前で壮大な〝うなぎを焼く物語〟を披露している最中である。
ようやく私の目の前にうなぎめしが登場した!
夢にまで見たうなぎめし、まあ存在を知って一、二日くらいしか経ってないんだけどさ。
「思いはかけた時間じゃないんだよ」
「名言っぽいけど、リンの対象がうなぎめしなんだよね」
お皿を五つ貰ってパーティーメンバーで分けて早速食べる。
美味しいー! これは絶品の予感!
フィギュアちゃんはお皿の真ん中だけ先に食べて、お皿の中央に座ってる。
何その全方位うなぎめし。東西南北うなぎめし三昧とはこれまた羨ましい食べ方だ。
「あんたの嬉しそうな食べ方見てたら、町がこんなになったのに救われた気がするねえ」
「おいくられふか? (もぐもぐ)」
「いいよいいよ、ただで食いな。どーせ敵軍に取られまいと旦那が隠し持ってたうなぎだしね」
「おうよ、晩酌に取っといたんだが、どーせ酒も無かったしな!」
「ご、ごめんね」
「町の復興の気力が湧いてきたお礼だ、俺もうなぎシメ話をできてスッキリしたしな!」
すみません、一ミリも聞いてませんでした。
まあいいのならお言葉に甘えよう。うなぎめしを次に食べられるのはいつかな。早く戦争が終わればいいのに。
「大きい子ちゃーん。天まんじゅう屋のおっちゃんが、暫くはおまんじゅうどころじゃないって一杯くれたよ!」
飛んできた利根四号ちゃんが嬉しそうだ。
その後ろにはお饅頭屋さんと、屋台に積まれたお饅頭の山があった。今度は私のリュックに入るかな。
「お店一件分だね」
もういっそのこと店を担ごうか。
やればできるかな?
「無理だと思うから妖精の村に連絡して搬送を頼んだよ。みんな張り切ってた。大きい子ちゃんにも一杯おすそ分けするね!」
何故か妖精の子たちが一列に並んで、お饅頭リレーをしている図が浮かんだ。
微笑ましい図だ。久しぶりにみんなとも会いたいな。
「リンナファナ嬢、リンナファナ嬢じゃないですか! やはり助けに来てくれたのですか!」
ほのぼのした風景を思い浮かべていたのに、一気に妄想が土の中である。
何であなたがここにいるのですか。
ねえ王子。
「この人のイベント、もう終わったのにね」
フィギュアちゃん、可哀想だからやめてあげて。
次回 「お姫ちゃん出陣! そしてモブになった約一名」
リン、王子を貴族たちに押し付ける