第115話 だから町を救ったのはタマネギなんだってば!
「大きい子ちゃーん、向こうに人がいっぱい集められてたよ」
町の上を飛んでもらっていた利根四号ちゃんの報告を受けて、早速その場所に行ってみる事にする。
利根四号ちゃんは索敵お疲れ様。
町の広場には、この町の住民やこの国の武装解除された兵士が集められているみたいだ。
でもちょっと少ないかな。
「皆さん大丈夫ですか? これで町の人は全員?」
「殆どは戦いになる前に逃げてしまったからな、まだ隠れてる人はいるかも知れないがこれで全員だよ」
近くにいたおじさんが答えてくれた。
「一応この町を占領していた隣国軍は撤退していきましたよ、すぐに戻って来るかも知れないから皆さんは避難した方がいいかも」
「お嬢ちゃんたちが追い払ってくれたのか?」
「あはは、まさかー」
十七の小娘とモブの衆三人とフィギュア一体で何ができるのか。タマネギがあったからこその勝利なのだ。
この町はタマネギに救われたのだ。タマネギが解放した町として、後世に名が残るかもしれないね。
「そこの娘、いきなり敵兵が逃げて行ったが何があったのだ?」
「小娘、説明せよ」
うわー偉そうな貴族っぽい人たちに話しかけられたよ。近づきたくないなー。
「さあ? 目がーって逃げて行きましたけど」
「うむ、わからん」
「おい小娘、適当な事を言ってると処罰するぞ。重要な事なのだ、敵は何故撤退したのだ」
平民と見るやすぐにこれだ。
「タマネギで目をこすって逃げて行ったんです」
「うむ、わからん」
「おい、この娘を捕らえよ」
なんなのこの人たち!
「まあまあウズリー殿、堪えられよ。この子も錯乱しておかしな事を口走ったんだろう。私はラームキー侯爵だ、よくわからないが敵は撤退したという事でよいのか」
「一時撤退しただけみたいですね、なんとか将軍と合流するとかなんとか。その原因がタマネギなんです」
「なるほどなるほど、わからん」
「タマネギはともかく、侵攻軍に合流という話はわからなくはないな。要塞が折れてしまっては、もうここは使い物にならんのだし」
「そうですな、迅速な敵の戦線突破には何よりも速度重視、占領なんて後続部隊に任せておけば良いという戦略でしょう、タマネギはともかく」
「うむ、わしもタマネギは嫌いじゃ」
「ピーマンも嫌じゃな」
何でどいつもこいつもタマネギを信じてくれないんだよ! これだから貴族は嫌いなのよ。貴族はタマネギの何たるかがわからないんだがら。
タマネギが町を救ったんだってば。いい歳こいて好き嫌いせずにちゃんと食べなさいよ!
「このまま追撃した方が良いのでは」
「この人数で? まともに動ける兵の数が二十人くらいしかいないのに」
「うーむそうですなあ」
おい、こっちを見るな。二十名の兵に冒険者四人加えたって何もできないよ。
そんな事よりも、もっと大事な事があるのよこっちには。
それはこの町の名物、うなぎ――
「天まんじゅうだよね大きい子ちゃん」
「そうそうそれ、天まんじゅう――あれ?」
私のつぶやきに反応してきた利根四号ちゃんの最大の関心事は、現在天まんじゅうなのだ。
幸い貴族連中はあーだこーだ今後の戦略を討論中で、もうこちらには興味は無いみたいなので、そそくさとその場から立ち去る事にしよう。
それでは皆さんお元気で。
私はぺこりとお辞儀をすると、そこから外れて町の人たちが集まっている所に移動した。
こんな状況でいきなりうなぎめしを寄越せなんて言い出したら、お薬を出されかねない。
とりあえず利根四号ちゃんの為にも、天まんじゅうの事だけでも聞いてあげよう。
「おっちゃんおっちゃん、天まんじゅうは? はやくはやく」
「ふああ、妖精だあ」
利根四号ちゃんが一人のおじさんの禿げ頭をぺしぺし叩いている。私が聞かなくても利根四号ちゃんがとっくに突撃していたようである。
でもその辺の町のおっちゃんに適当に突撃しても仕方ないよねえ。
「俺が饅頭屋だってよくわかったな」
「おまんじゅう屋さんみたいな叩きやすい頭してるもん。この艶、滑らかなカーブ。これはおまんじゅう屋さんの輝きだよ」
よくわからないけど、妖精の子の嗅覚は凄いな。
頭の輝きで判別するのか、どれ私もちょっと試しにやってみようか。あそこにいるあのおじさんがそれ臭いな、これは乙女の感なのだ。
「あなたはうなぎめし屋さんですか?」
「はあん? 俺がうなぎめし屋に見えるってのかお嬢ちゃん」
「違いましたかごめんなさい。頭がうなぎ光りだからてっきり」
「俺はうなぎシメ屋だ」
「あ、もういいです、ありがとうございました、失礼します」
うなぎシメ屋ってなんだよ、というつっこみはもう入れない、速やかに撤収するのみだ。
「まあ待て待てお嬢ちゃん、うなぎをいかにしてシメるか、この話を聞いてくれよ。おーい待ってくれよお嬢ちゃーん、うなぎをシメてシメシメな話だよー」
華麗にスルーである。
女の子は時に、おじさんに対して完全スルーという能力を発揮するのだ。
「あんた、うなぎめしが食べたかったのかい? 私がそのうなぎめし屋なんだけど」
中年の女性に話しかけられた。
なんという朗報だろうか! やはり私はついている。変なおっさんを全力で回避したその先に幸せが待っていた!
「ごめんねえ、さっき黒髪の女の子に全部食べられちゃったんだよ」
悲報である。おっさんを回避しなくても死、回避しても死が待ち構えていたのだ。
あいつか、黒髪ちゃんか。何で全部食べちゃうかな! 少しは残しておくのがイキな美味しい物漫遊人というものなんじゃないのかな!
「でも朗報もあるよ。うちの旦那がまだ一匹、うなぎを持っていたはずだからシメて貰おうか」
「だ、旦那さんはどちらに? その救世主はどちらに?」
シメという言葉に、なにやら嫌な予感しかしないが辺りを探していると、さっきのおっちゃんが近づいてくる。
「おう、お嬢ちゃん。俺がそのカカアの旦那のうなぎシメ屋だ」
それって結局うなぎめし屋なんじゃないのかな! 何で夫婦でそこ分けた! 細分化かよ!
結局うなぎめしコントに巻き込まれたよ!
「あの、うなぎシメてもらっていいですか」
「いいけどよお、さっきお嬢ちゃん、俺の話聞いてくれなかったからなあ、ぷいっ」
あ、拗ねてる、拗ねてるよこの人!
ああもうめんどくさー!
次回 「なんでこの人、ここにいるの?」
リン、うなぎめし~♪