第114話 ギャー! 目が! 目が!
「まさか、私がポンコツ化しているなんて……」
「いつものリンじゃないかな」
何か言ったかしらフィギュアちゃん。
しかし、今まで散々人がポンコツ化するのを見て来たけど、まさか自分がそうなるとは思わなかった。
これがポンコツ化というやつか、何て恐ろしい。
もしこれが黒髪ちゃんの仕業だとしたら、周りをポンコツ化させるなんて、なんと迷惑な子だろうか。
よりにもよって私がポンコツ化だなんて。
「あの黒髪の女の子の方は、スカートがずり落ちてパンツも半分脱げかけてるけどね」
「ぐぬぬ、こ、これほどとは……侮れない奴」
黒髪ちゃんが何故かこちらを睨みながら、必死にスカートを直している。
どうして私が睨まれなければいけないのか、さっぱりわからないんだけど。私は一方的にやられた被害者だよね?
黒髪ちゃんは私を睨みながら、真っ赤になった顔を拭こうとしてタマネギを出した。
あ、あっちはネギじゃなくてタマネギなんだ。
「ああ! 目が、目が痛い!」
どうしてタマネギでそのまま拭いちゃったかな!
「ア、アケミン殿がやられたぞ!」
「な、なんてこった!」
「無敵だったアケミン殿が!」
「何て恐ろしい少女だあいつ」
いや、私何もしてないから!
一体どういう分野で無敵だったんだよ!
「亡きアケミン殿の仇を討つぞ!」
「おおー!」
「いや、私死んでないから! 勝手に殺すな! 誰かハンカチ貸してよ!」
「おお、これはすまぬアケミン殿、軍人の早とちりだった。私のハンカチで良ければこれを」
「ギャー! 目が! 目がああ!」
黒髪ちゃんがころげまわっている。
だから何でタマネギで顔を拭くんだよ。
「何でまたタマネギを渡したのよ! ハンカチを貸してって言ったのよハンカチ! タマネギとハンカチ、何一つ合って無いよね!」
「も、申し訳ない! うっかりハンカチとタマネギを間違えた。おいお前、アケミン殿にハンカチを差し上げろ」
「了解であります! アケミン殿、こちらをお使いください!」
「ギャー! 目が! 何でまたタマネギを渡したのよ! 私を殺す気!?」
「申し訳ありません! こちらの間違いでした!」
「ギャー! 目がっ!」
なんだこれ。
何だこのタマネギコントは。私は一体何を見せられているんだ。
「さすがのリンでもネギで顔は拭かなかったのにね」
「ねえ、フィギュアちゃんには私はどういう存在で目に映ってるの? 不安になってきた」
『ドオオオオオオオン!』
私が脱力しそうなタマネギコントから逃げようと後ずさったその時、どこかで爆発音が響き軽く地面が揺れた気がした。
「な、なんだ」
「軍が接収して食事を作っていた厨房が爆発しました!」
「理由は何だ!」
「わかりません!」
とうとう厨房も理由もなく爆発するようになってしまったか。
「炊事兵が誤って小麦粉をまき散らした後で、小麦粉が舞う中うっかり火炎大車輪を唱えたら木っ端みじんに吹き飛んだみたいです」
めちゃくちゃ理由あったわ! 何がしたくてどんなうっかりだよ!
「掃除がめんどくさくなって、火炎大車輪で一気に始末しようとしたんじゃないかな」
「私はホウキでお掃除派で心底良かったと、私に感謝しているところだよ」
初等治癒魔法では爆発しないもんね。……しないよね?
「まずいな、壮大なポンコツ化が始まっているのか、仕方ない、占領部隊は一時この町から撤退、進軍中のコードル将軍と合流する! アケミン殿の回収を!」
隣国の兵隊さんが転がっている黒髪ちゃんを小脇に抱えた。
「くっそー! そこのあんた! 私にこんな恐ろしい事をしでかして、どうなるか覚えてなさいよ! 次に会った時は、絶対にあんたもタマネギで顔を拭かせてやるからね! 絶対にあんたも泣かせてやるんだから!」
ええええー、私無実なのに。だいたいハンカチとタマネギを手に持った感触でわかれよ。
余計なコントに巻き込まないでもらえるかな、もの凄く疲れるからごめんこうむりたいんだけど。
コントに巻き込まれた上にとんだ濡れ衣で、既に私も半泣きだよ。
黒髪ちゃんの決意は既に達成されているという事で、ここはひとつ勘弁してもらえないだろうか。
「あの人たち、もの凄い素早さでささーっと町から引いて行っちゃったけど何だったのかな」
「タマネギが顔を拭くものだって初めて知ったよ、世界は広いねリン」
やっぱりタマネギより手ぬぐいの方が便利だと思うけどね、顔も拭けるし人相隠せるし。
何よりオシャレだし。
隣国の占領軍が去った後には、まだくすぶっている焼けたフィギュアの残骸たちだけが残った。
その横ではモブ太君が地面に手をついて号泣しているが、かける言葉がみつからない。
そしてフィギュアちゃんが、じーっとその焼けたフィギュアたちを見つめている。
この子の心境を考えると、やっぱりかける言葉が見つからない。
「あの……フィギュアちゃん……」
「おっちゃんたち、我らの使命を果たしたって言ってるね」
フィギュアちゃんが焼け跡に手を振りながらつぶやいた。
「どういう事?」
「みんなの心みたいなのが聞こえてきた。燃やされたのはおっちゃん人形の皆さんみたいだよ。我らはギャルのフィギュアを燃やされるのを阻止した、孤高の戦士たちだって。可愛い子たちを守れて満足だって」
焼け残った箱をそっと開けてみると、なるほど箱は女の子のフィギュアっぽいけど、中身は何だかよくわからないおじさんの人形みたいである。
つまり女の子のフィギュアの身代わりに散ったって事か。
お店にぼったくり用のおじさん人形しか在庫が無かった疑惑がちらつくけど、この人形たちは頑張って仲間を守ったんだね。
「バイバイ」
フィギュアちゃんが空に飛んでいく煙に向かってまた小さく手を振った。
次回 「だから町を救ったのはタマネギなんだってば!」
リン、うなぎめし屋はどこだあ!