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第113話 黒髪の少女は笑う


 やって来た黒髪の少女は続ける。


「私はこの国に来るのは同意したけど、別にあんたたちの小間使いじゃないんだからね。いちいち呼ばないでもらえるかな。自由に美味しい物漫遊に来ただけで、あんたたち軍隊とは何の関係もないんだから」


 こ、この子はまずい!

 私の感覚がそう訴える。


 し、しかし。

 危険なのはわかる、が、その危険を乗り越えてでも手に入れなければいけない物があるのだ。今は戦争という非常事態なのだから。


「さっきうなぎめしとおっしゃいましたか、それはどこに行けば食べられるの?」

「え? 何こいつ、誰?」


「た、食べたんだよね? うなぎめし。私の美味しい物漫遊にも是非加えたいから、場所と食レポもお願い! 黒髪ちゃん!」

「黒髪ちゃんて誰よ!」


 詰め寄る私に対して、黒髪ちゃんはすっと後ずさって逃げた。

 そのまま副官の人のところまで行ってしまった。うなぎめしの重要情報を取り損ねてしまったよ、誠に残念である。


「おお、アケミン殿。お呼びたてして申し訳ない、実は――」


 マントとお尻が焼けた副官は黒髪ちゃんに背を向けてこちらに向いたと同時に、後ろから黒髪ちゃんに蹴られた。

 まあ、そうなるよね。


「な、何をするのか。まさか私のポンコツ化はやはりあなたの仕業なのか、どうしてなんだ」

「こちらがどうしてと聞きたいわよ! どうしてお尻丸出しなの! 私に見せたいの? もう一回蹴るよ!」


「も、申し訳ない、これは先程あの焚火で」

「だからこっちにお尻を向けるな! お尻は向こうに向けておいて!」


 おいこら、向こうってこっちかよ。

 とんだとばっちりがお尻と一緒に飛んできたよ、私も蹴りに行くよ? 可哀想だから蹴らないけどさ。


「とにかく、私がポンコツ化したのはアケミン殿の仕業ではないんだな? 私のお尻を丸出しにした犯人はやはり他にいるという事か」

「どこの誰がおっさんのお尻を丸出しにしたのよ、そいつとんでもない変態じゃないの? 頭のネジが外れてるよ」


 私もその意見には同意します。


「それが光姫ではないかと……、この辺りに光姫の気配がするので来ていただいたのだ」

「え? この国の光姫出ちゃったの? それってまずくない? どこどこ?」


 黒髪ちゃんはきょろきょろと辺りを見回して、こちらをじーっと見ている。


「もしかして」


 濡れ衣だからね、私はそんなおかしな関係者じゃないからね。

 女の子が他に私くらいしかいないから疑うのもわかるけどさ。


「そこのメガネが実は女の子とか?」


 こっちかよ!

 でもわかるんだ、この中で変な存在がわかるんだ。


「私はただのメガネ師ですが」(メガネくいっ)

「ふーんメガネ師なんだ、なら違うか」


 おい、どういう事だよ。


「残念なお知らせですが、女の子ではない事は一月前に記載したこのノートが証明しています」(メガネくいっ)


 確認したのつい最近じゃねえか! 何のために確認したんだよ!


「そこのあんた」


 黒髪ちゃんは私に視線を向けた。次に私を疑っているのか、彼女の鋭い眼光が怖い。

 思わず少し後ずさってしまった。


「メガネ師って何?」


 さっき何で納得したのか説明してもらおうか。


「メガネ師はともかく、私にはもう光姫の存在はわかってるけどね」

「おお! さすがアケミン殿! そやつは今どこに?」


「恐らくこいつだよ!」


 とうとう私を指さした黒髪ちゃんはドヤ顔である。

 この子、何かの能力を持っててそれで察知しているとでもいうのか。


「だって他に女の子いないじゃん、だからこいつでしょ?」

「さすがはアケミン殿! 見事な推理だ!」


 とんだポンコツ推理だよね、もう行っていいかな? うなぎめしを食べたいんだけど。

 女の子という理由でメガネ君の次に疑われたのがちょっと釈然としないが、知らんとだけ答えておこうか。


 黒髪ちゃんの名推理で、兵士たちの包囲が更に厳重になった。

 濡れ衣を着せられて捕まるなんていい迷惑なんだけど。


 モブの衆がすかさず私を囲んでくれた。


「何よこのモブ連中、邪魔よね」

「リン、僕たちの後ろに」


 モブ男君たちが変な疑いをかけられた私を庇って、黒髪ちゃんの視線から自分たちの背後に隠してくれた。

 守ってくれてとても嬉しいんだけど、嬉しいんだけど――


「みんな、何でお尻出ちゃってるのよ!」


「うわあ、ズボンのベルトが外れてた!」

「全然気が付かなかったブヒ! やけにそよ風が心地いいと思ってたブヒ!」

「とんだ失敗で失礼しました、メガネのずれを直さなければ」


 メガネより、ズボンとパンツのずれを直してよ!


「僕たちがポンコツ化している!?」

「そんな、あり得ないブヒ」

「ポンコツとは無縁の精鋭である私たちが」(メガネくいっ)


 いや、あなたたちって大概ポンコツだと思うんだけど。


「私の邪魔をするとこうなるのよね、その程度で済んでるのがむしろ驚きだけど。まあ、この国の光姫が出ようが出まいがこのアケミンちゃんの敵じゃないけどね!」


「おお! それでこそ我らのアケミン殿だ!」

「アケミン殿!」

「アケミン殿!」

「アケミン殿!」


 何者なんだよこの黒髪ちゃん。

 逃げて! なんだかよくわからないけど、やばそうだから光姫は逃げて!


「あははははは! 私の力を食らうがいい!」


 黒髪ちゃんが笑った時、なんだか私の目の前の空間がぐにゃりと歪んだような気がした。

 嫌な冷や汗が出るような力が、私自身に加えられた感覚。なんだ、これは一体なんだ。


「リン、大丈夫? 顔色めちゃくちゃ悪いよ、汗もいっぱい」


 フィギュアちゃんの声が遠くに聞こえる。

 額の汗を拭こうとポケットから手ぬぐいを出す。


 何故私はポケットからネギを出したんだ。

 美味そうだな。


「リ、リン、スカートスカート」


 モブ男君が目を手で隠しながら私に注意をしてくれる。

 あわわ、私のスカートがめくれてる。ネギを出した時に引っかかったみたい。


 こ、これはまさか――


 私がポンコツ化している――!?


 次回 「ギャー! 目が! 目が!」


 リン、半泣きになる

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