第110話 ウズリー要塞のある町へGO!
ここまで約十個の町や村を訪れて避難勧告をしてきた。ただ無為にくしゃみを連発していただけではないのだ。
美味しい名物もいっぱい食べた。
「一番はハンバーガーだったけど、手羽味噌煮込みも美味しかった。コラーゲンたっぷりだったよね、私もフィギュアちゃんもお肌つるつるだよ」
「同じく顔がテカテカブヒ」
「メガネもテカテカです」(めがねくいっ)
「手ぬぐいを貸してあげるからメガネを拭きなさいよ」
「屋台のおっちゃん、やたら元祖って強調してたけど何があったのかな」
確かに必死に元祖を押し付けて来たわね。
なんでも隣の伯爵領に名物を片っ端から取られて涙目らしい。
「次はどこに行って何を食べよっか」
「ねえリン、目的がずれてる気がしないでもないけど、まあいいか」
モブ太君の目がキラキラしだしたよ。
「次はウズリティアの町に行きたいブヒ」
「ウズリー要塞がある町だね。あそこは避難勧告しなくても大丈夫じゃないかな、敵もそう簡単にやってこれないと思うよ」
モブ太君の意見にモブ男君が反対している。
確かに軍隊が集結しているような場所なら、私たちが行っても意味はなさそうだ。
でも行きたそうなモブ太君の様子からは、何か尋常ならざる気迫を感じるのだ。
一体何があるというのだその町に。
「モブ太君はその町で、どうしてもやらなければいけない事があるのね?」
「ウズリティアの町には、有名なフィギュア店があるんだブヒ」
どうでもよかった!
「隣国からの観光客相手にぼったくりで有名ブヒ」
そ、そうなんだ、でもフィギュアがどうこうでは私の心は動かないよ。
もっと人生で重要な案件じゃないとそう簡単に釣られないんだから。
「うなぎめしと天まんじゅうが絶品なんだブヒ」
「ここからどのくらいの距離なのかな!」
「何やら今、ゴゴゴと何かが動いて釣り上げられた音がした気がするのですが、気のせいですか」(メガネくいっ)
どこかで釣り大会でもやってるのかな?
「私も行く! うなぎめし食べたい!」
「こちら利根四号、新たなるおまんじゅうの情報を得る。繰り返す、新たなるおまんじゅうの情報を得る」
うなぎめしと天まんじゅうに、フィギュアちゃんと利根四号ちゃんも食いついた。
「諜報機関Mも情報を入手済みだったみたい、大至急そちらに急行せよだって」
さすがである。
無事次の目的地も決まった事だし、善は急げだね。
「じゃあ、うな天まんの町に出発しようか」
「ウズリティアの町だね。うん、絶対に安全というわけが無いんだし、リンの言う通り避難勧告に行くのが正解かも知れない」
うな天まんの町へ私たちは進んでいる。
さすがに戦争中だけあって、本来なら行き来する人が多いだろう街道にも全く人影がない。
「本当に人がいないねえ、一回大八車に子供を乗せた人が慌ててすれ違ったくらい。田舎だからかな?」
「ウズリティアの町はそこそこ大きな町だから、ここまで人がいないのはおかしいね」
「町で何かあったのかなあ?」
とりあえず町に着いてみればわかるだろうくらいに軽く考えていたが、町が見えてくるにつれやばそうな感じが増してくる。
町を守っているはずの城壁がボロボロなのだ。
「ねえリン、何であちこちにネギが落ちてるの?」
「ネギもそうだけど、要塞折れてない?」
「とりあえず用心しながら壁の崩れた所から町に入ってみよう、みんな警戒を忘れずに僕の後ろをついて来て」
警戒しながら進むモブ男君を先頭に、私たちパーティーはこっそり町に潜入した。
こそこそしたステルス行動に関しては抜群の性能を誇る我がパーティーである、誰にも見つかる危険はない。
「というか誰もいないじゃん、全員大八車で脱出しちゃったのかな?」
フィギュアちゃんがきょろきょろしているが、ステルス性能を発揮するまでも無く町には人の姿が無いのだ。
いや、一応姿があるのはあるのだ。兵士を時折見かけるのだが、どう見てもこの国の兵士じゃなさそう。
「あれは隣国の兵士だね、リン、見つからないように気を付けて」
「占領されちゃってるじゃん。要塞があるから大丈夫って何だったの?」
要塞に比べて町の中は比較的ましだったが、それでも壊された建物や瓦礫がぽつぽつと見る事ができた。
「酷い事するなあ」
「フィギュアのお店は確かこっちだブヒ」
もはやフィギュアとか言ってる場合じゃない気もするけど、とりあえずモブ太君に付いて行ってみる。
どーせうなぎめしどころじゃなさそうだし、私たち自身が占領された町では何をしていいのかわからない。
移動しながら捕まってる町の人を見つけたら救出していこう。
建物の影や瓦礫の間をこそこそ進むと、色々な商店が立ち並ぶ一角にそのフィギュア店はあった。
そこそこ大きな店で、平時なら繁盛していたであろう佇まいだ。
「へーおっきなお店だねえ、ここに私の仲間が沢山いるの? 看板にフィギュアの王国って書いてあるよ、凄いよ、王国だよ」
フィギュアちゃんがちょっと嬉しそうだ。
そう言えばモブ太君のコレクションや、私のシークレット黒水着フィギュアくらいしか見た事無いんだよね。
店内にずらりと並べられた、沢山のフィギュアに会わせてあげるのもいいかも知れない。
問題はフィギュアの中に紛れちゃってわけわからなくなって、販売されてしまう事かな。紐でもつけておこうか。
「はやくみんなに会いたいな、たっのしみー」
「ブッヒブヒー」
はしゃぐフィギュアちゃんとその他一名と、店の正面にまわり入ろうとした時だ。
「な! ブヒ、何てブヒ事ブヒ。ああブヒ、駄ブヒ目ブヒブヒ」
おおお落ち着いてブヒ太君! 違ったモブ太君。あなたのブヒ、ちょっと混ざりすぎだから。
でもブヒ太君が慌てるのもわかるのだ。
なんせ、店の前で隣国の兵士が焚火をしていたのだから。
冬でも無いのに焚火とか頭がおかしいんじゃないだろうか。もしかしてお芋か、お芋なのか?
何とかしてご相伴に預かれないだろうか。
「も、燃やブヒ、燃やブヒてる」
絶望の表情のモブ太君の様子に、一体どうしたのだろうと焚火をよく見てみる。
えーとあれは……
「うわっ」
思わず声を上げそうになった、いや上げてたわね。
燃やされてるのはフィギュアじゃん――!
次回 「そいつは隣国軍の副官らしい」
ブヒ、これは全人ブヒに対する挑戦だと憤慨する