第11話 まだ王子に狙われていたらしい
次の日私たちのパーティーは、中ランクモンスターの討伐依頼を受けて森に来ている。
高ランクダンジョンで活躍できたのだ、今回の相手のクマ型モンスターなんてチョロイものだろう。チョロイはずだよね?
午前中は〝優良物件〟だとリーダーのモブ男君が信じて疑わない『猫ちゃんの捜索』クエストをこなし、暇になったので午後は別の仕事をする事にしたのだ。
というか、二日連続で脱走してるじゃないのよ猫ちゃん。子爵邸の警備はどうなってるのかな。
私がたまたま足元を通り過ぎた猫を拾い上げたら、そいつだったから五分で依頼完了だったけど、いつもなら丸一日の捜索だったみたいだ。
猫ちゃん依頼の後でやって来た森の中はうっそうと草が生い茂り、視界がとてつもなく悪く何も見えない。草しか見えない。
突然モンスターが出て来ても驚かないコンディションである、いや盛大に驚くけどね私は。
リーダーのモブ男君が少しでも視界を確保しようと、近くにあった木に登っていく。
「どお? 何か見えるブヒか?」
「うーん、下よりは少しはましだけど、上もあんまり視界は変わらないねえ。もう少し上に登った方がいいのかな」
「やっぱり体重が軽い姫がその木に登るべきだったんだブヒ」
「そうですね、私もそれが良かったと思います」(メガネくいっ)
私スカートなんですけど!
メガネ君はその時ノートを出して何を記録するつもりだったのか、話してもらおうか。
だがその先に私は見つけてしまったのだ。
それはキスリンゴの実!
甘くて美味しいキスリンゴ。そうかこの木はキスリンゴの木だったか、これはなんとしてでも確保する物件なのではないだろうか!
「あの! モブ男君!」
「な、何。モンスター!?」
私の緊急性の高い声に驚いて、モブ男君が剣を抜いた。
しかし、私の声を責められる者は誰もいないだろう。キスリンゴが目の前にあるのだ。
これは採ってもらうしか無いのである。
「モブ男君、その先の枝に進んで――」
私が指示した通りにモブ男君が進んだ時、枝が折れた。
「うわあ!」
「モブ男君!」
運が悪い事にモブ男君が落ちていく真下にモンスターが登場!
『ガオオオーゴフっ』
運が悪かったのはモンスターだった。
モブ男君が落ちた時のクッションにされた挙句に、手に持った剣が偶然突き刺さってあえなくカクンとなったのである。
「モブ男君大丈夫! ごめんね」
「いや平気だ、手を擦っただけだし」
慌てて駆け寄って擦り傷に全力の治癒魔法をかける、といっても初等治癒魔法しかないけど。
「おーこれ依頼にブヒあったクマモンスターだ」
あなたのブヒの位置、自由すぎるわね。
「凄いよリン! リンの作戦通りに動いたらモンスターを倒してたよ! さすがリンだ!」
いえ、私禁断の果実に目がくらんだだけなんですけど。
素材とお肉を回収して、冒険者ギルドへの報告と集金、売買は三人組に任せて私は市場へと走る。
重要な使命があるのだから仕方が無い。
私は市場に、キスリンゴを買いに行かねばならないのだ!
あの後は結局場の雰囲気にキスリンゴを採って欲しいなどとは言い出せず、後ろ髪を引かれる思いでキスリンゴとお別れした。断腸の思いである。
私のお腹は既にキスリンゴになっているのだ。食べなければ夜にうなされるだろう。
「あ、リンナファナさん。こんにちは」
可愛いロリボイスに思わず花が咲いたような気分で振り返る。
そこにはロリっ娘ちゃんだけではなく、勇者パーティーのオマケまでついていた。花が急速に枯れた。
「おいコムギ、そんなヤツに挨拶なんかしてんじゃねえぞ。チっ、こんなとこでカスの疫病神と出会うとはな。ゴミがうろちょろしてんじゃねーぞ」
「すみませんリンナファナさん。この剣士は今日ちょっと頭の具合が悪いんですよ」
「なんだとこのクソガキ、俺は絶好調だっての」
「そうなんですか、ごめんなさい」
あれーなんか昨夜と違うなあ。
『それじゃ』と言って、角を曲がりすぐに壁に張り付いてみる。
「もう! せっかくお話が出来ると思ったのに! 私はガキじゃないですよ! もう十三歳! 立派なレディーなんです!」
「立派なガキじゃねーか!」
「それになんなんですかあの口の聞き方は! リンナファナさんに向かってゴミとか死ねとか爆発しろとか、何て事言ってるんですか! 信じられない!」
「いや俺そこまで言ってないよ? それにゴミにゴミって言って何が悪いんだよ、張り倒すぞ!」
「ああ? 張り倒すだあ? やってみろよクソ虫が! ゴミはてめえだろうが、ゴミの日に焼却すんぞ!」
「まあまあ二人とも、ゴフっ」
「死ね! ペっ」
勇者チームの新しい幕開けはまだ健在のようでなによりである。
さて、キスリンゴを買いに行きますか。
「リンゴーリンゴーキスリンゴー♪ 今日のお腹はキスリンゴー♪」
謎の歌を口ずさみながら歩き出した私の横を王家の馬車が通過し、中に乗っていた第一王子と目が合ったような気がした。
気のせいだよね、気のせい気のせい。
知らない顔をして去ろうとすると馬車が急停止、王子と兵士がこちらを見ながら剣を握り締めて出てきた。私はそれを見て脱兎の如く逃亡する。
「待て! 捕まえろ! やはり王族が平民ごときにケジメをつけさせないのは悪だからな」
「はっ!」
命令を受けた兵士がこちらに走ってくる。
王侯貴族特有の自分たちの正義を振りかざしますか!
私は全速力で逃げた。
理不尽な正義を振りかざし、権力を振りかざし、ついでに剣も振りかざしてくる相手から必死に逃げた。恐らくどんなモンスターに出会った時よりも速い逃げ足だったに違いない。
『次に見かけた時に続きをしてやる』
かつての王子の言葉である。まだ諦めてなかったのか冗談じゃない、腕を斬り落とされてたまりますか。
すぐに雑踏に紛れてどうやら逃亡に成功したみたいだ。
危ないなあ、もうこの王都にはいられないかも知れない。
ちょっと身の振り方を考えようかなあ。
溜息をつきならが家路、安宿へ帰る道を歩いていく私。
あー、キスリンゴ買ってない!
今夜キスリンゴの夢でうなされ決定だよ。
次回 「王都を出る決意と王城」
王子、自分がしでかしていた過ちを知り顔面蒼白になる
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明日も二話投稿します