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第107話 要塞はギャルの話で盛り上がっていた


 ――ウズリー要塞――


 隣国ダスキアルテ王国との国境に面しているウズリー辺境伯爵領。真っ先に敵の侵攻を受けたこの地で、まだ反撃の拠点となる場所が残っていた。


 国境線から少し離れた位置に要衝の都市を守るように作られた、通称ウズリー要塞である。

 ここを避けるには森を大きく迂回せねばならず、また迂回したとしても後方から敵を突ける場所でもある為に、隣国軍としてはどうしてもここを落とさなければならない。


 そこに緒戦で敗退してきた辺境伯軍と、援軍として同じく国境を守っていたラームキー侯爵軍の生き残りが終結していた。


「まさか精強を誇った我が王国軍がここまで痛めつけられるとは思っておらなんだわ」

「ご安心下され侯爵殿、この要塞は我が領内でも屈指の頑強な砦にて、敵を粉砕できますでしょう」


 要塞内の司令部には、この地の領主であるウズリー辺境伯、援軍のラームキー侯爵、そしてそれぞれの要職に就いた面々が集まっていた。


「奴らの竜騎兵共には散々やられましたからな」

「あれは戦争を左右する新兵科であろうな、いつまでも馬による騎兵科に頼っていては戦争には勝てんという事だ。それなのにだ」


 侯爵はやれやれといった感じで、持っていたカップを机に置く。


「陛下には今までも散々申し上げてきた事なのだ、これからの戦争は地上ではなく空を制した者が勝つとな。だが有効性を実証されていない新兵科など、ただ空を飛んでいるだけで取るに足らないと言われるばかりで、困ったものだ」


「飛竜を軍用にするには手間も金もかかりますからな。何、この要塞で迎え撃てばいいのですな」


「うむ、現在姫殿下が反撃軍の編成をされているとか、バコ伯爵の援軍もこちらに向かっていると報告もあった」

「バコですか、あの伯爵領とは水を取ったの取られたのでいざこざが絶えず、あんまり頼りたくは無いのですがなあ」


「ウズリー様の言う通りだ、あいつら少しずつ畑を拡張してうちの領を侵食してくる」

「うちの名物うなぎめしや、味噌手羽煮込みも自分たちの物にしやがったからな」

「天まんじゅうもパクられた」

「わしもあの男は嫌いですじゃ」

「王子と懇意にしておるからと、天下の辺境伯を舐めとるのだあの伯爵は」

「あのうんこめ」


 いきなり味方を非難し始めた辺境伯側の面々に、侯爵は頭を抱えた。

 隣同士仲が悪いのはよくある事だが、有事の際に足並みが揃わなければ勝てるものも負けてしまう。


「ま、まあまあ、援軍は援軍だ。それに報告によるとバコ伯爵は隠居して、今は令嬢が新領主として軍を率いてこちらに向っているとの事。若き勇敢な令嬢に免じて、些細な事は水に流してはいかがか」


 言ってしまってから侯爵は後悔した。

 こういう問題は根が深いので、些細な事で片づけられては反って火が点いてしまうかもしれない。


 ましてや水戦争をしている間柄で水に流そうなんて、失言が過ぎたか。

 何しろ辺境伯といえば、自分にも引けを取らない実力者なのだ。


「なんと、アルメーレル嬢ちゃんが」

「俺はあの娘好きだ、可愛いからな、いい尻しとるし」

「ドリル巻き毛がたまらんな、いい尻しとるし」

「いつも父がすみませんって饅頭をくれたぞ。あの子は空気が読める娘じゃ、いい尻しとるし」

「やっぱりギャルはええのう、いい尻しとるし」


 稀有だったようだ。

 おっさんは若い女の子には弱いのである。平民だろうが貴族だろうがその世の中の仕組みは変わらない。


 そのままおっさんたちは、〝どこの令嬢が可愛いか談義〟を始めてしまう。


 どこどこの伯爵令嬢が可愛いとか尻がいいとか、どこどこの子爵令嬢は猫好きだとか尻がいいとか、そういうものに特に興味も無かった侯爵は話についていけない。


『もうやだこのおっさんたち』と思いつつも、貴族社会の嗜みとして談笑には参加しなくてはならないのだ。ホモと間違われるのも癪である。

 普段から軍事にしか興味の無かった侯爵が知っている女の子といえば、この国の王女か自分の娘くらいなものである。


 かといって王女をこういった話題に出すのは無礼がすぎる、でも自分の娘の顔や尻を評価させる気もしない。


(そういや何歳になったんだっけ、あれ、この前誕生日だった気が)


 顔も尻も自分の愛娘は最高なのだ。

 でもそんな話題を出した事を後で知られたら、一か月は口をきいてくれないに違いない。そんな事態になったら、この戦争を生き延びても余裕で死ねる。


 誰かいねーか……

 そこで侯爵は思い出したのである。王子とシュムーア公爵が最近ご執心の少女がいた事を。

 会った事は無いが、話題に出すのにちょうどいいだろう。


「ラームキー侯爵殿はどうですかな、気になった可愛いギャルとかいませんか」


 き、きたー。


「うおっほん、最近はあの娘もよく話に聞くな。ほれ、ソンナアホナ嬢だったかアンナコンナ嬢だったかミンナワヤヤ嬢だったか」


「ん? 誰ですかな? カルイタール伯爵のテンヤワンヤ嬢はもうギャルという年齢ではないですしな」

「イスマイル家のスッタモンダ嬢ちゃんはちょっと若すぎですぞ、まだ五歳、さすがにドン引きですな」


「ち、違うわ! ほ、ほら、元勇者パーティーの」

「おお、リンナファナ嬢か」


 そ、それだ!

 ハルバードだのファルシオンだの、武器の名前を覚えるのは得意な侯爵だったが、女の子の名前はさっぱりだったのだ。


「おお、わしあの子好きじゃぞ。会った事は無いがグッズを持っとる」

「わしもくじのフィギュアをコンプリートしたな、嫁に全部捨てられたが」

「悲しい事件だな」

「シークレットの黒水着のフィギュアは曲線美がよくできててなあ、尻もいい」


「あのフィギュアの造形は、胸ももうちっとあったらなあ」

「ばかな、あのくらいがちょうどいいのだ」

「まあ、尻がよければよしとするか」

「そうですな、やはり尻ですな」


 リンナファナの話で盛り上がる面々を前にして、侯爵は罪悪感にさいなまれていた。

(す……すまぬ、見知らぬ少女よ)





「フェックション!」


「リンさん、呼びましたか?」(メガネくいっ)


 召喚してねーわよ!


「リン大丈夫? まだかき氷で冷えたままなの?」

「うう、ちがうよ。なんだかお尻辺りに寒気がしたんだよ」


「毛糸のパンツを穿くブヒか? メイプリーちゃんグッズで一個懐にしまってあるブヒ」

「い、いらない。いや、お腹から出さなくていいから、なんでそんな所で温めてるのかな」




 侯爵が罪悪感で落ち込みリンナファナがくしゃみをしている頃、敵の隣国軍は遂にウズリー要塞に到達してしまった。


「敵が我が要塞正面に出現しました!」


 司令部に入った緊急の報告に、室内は一気に冷静になった。


「全軍に迎え撃つ用意をさせろ!」

「敵は、騎兵か、それとも竜騎兵か」


「は、それが……」


「なんだ、バケモノでも現れたのか?」


 外に出た侯爵や辺境伯たちが要塞の上から見たもの。それは異様な相手である事は間違いなかった。


 それは真っ黒な衣装を身に纏っていた。

 それは長い黒髪を風にたなびかせていた。


 それは黒い姿の少女だった。


 次回 「武器がネギになった!」


 黒い少女は笑う

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