第104話 敵の名は白銀のドラゴンスレイヤー! でもポンコツ化した
村に入って来た侵略軍は、思ったほど数は多くないようだ。百人くらいはいるのかな、多分これは軍の尖兵だね。
隣国軍がいる村の反対側では、モブ男君たちが村人を誘導して逃がそうとしてくれている。
そこに隣国の兵士が迫りつつあった。
逃げ遅れて隣国兵に追い詰められている母子がいた。
お母さんに手を引かれて走って逃げていた、小さな男の子が転んでしまった。
慌てたお母さんが男の子を立たせ走らせようとするが、行く手にも隣国兵である。もう逃げる場所が無いのだ。
男の子が震えながら両手を広げて自分のお母さんを庇っている。まだ小さいのに偉いよボク、頑張れ男の子!
「ギャハハ、いっちょ前に女を守ってるぜこのガキ」
「小便漏らして泣いていればいいものを、なんかムカツクな」
「どうしたクソガキ。母ちゃんもろ共串刺しにしてやろうか」
「ひゃはははははっ、そりゃ面白ぇ」
庇われていた母親が子供を引き寄せて自分の後ろに隠した。
「どうか、どうかこの子はお許しください! 私は殺されても構いません、でもこの子の命だけは!」
「だめだ、盾突いたのがムカツクからこのガキはお前と一緒に槍で突き殺す」
「ああそんな!」
「かーちゃん!」
絶望したお母さんが男の子を抱いて、自分の身体で我が子を守ろうとした。
その母子目掛けて隣国の兵士が槍を投げたのだ。
槍は一直線に母と子供に飛んでいき――
その中間に私は降り立った。
正確には猫に乗った私である。因みに投げられた槍は猫の前足の下敷きと化している。
「ふぁ?」
隣国兵たちから漏れ出た声である。
突然目の前にくそでかい白猫と美少女が現れたらそんな声も漏れるだろう。
「おいこらヒャッハー共、あんたたち今この人たちに何を投げたのかわかってるのかな!」
こいつらは何の罪も無い母子に対して、とんでもないものを投げつけやがったのだ。
「ドドド、ドラゴンだ!」
「ドラゴンがひゃべったああ!」
どうやら背に乗った私には気が付いていないか。
でもこれは好都合かも知れない。
「聞け! 人間どもよ! 我は山の神である! 大人しくこの地から立ち去るがよい、でなければ天罰を下す!」
『にゃー』
「なんか声と鳴き声が二重に聞こえたぞ」
「おい! よく見たら背中に怪しい奴が乗ってるぞ!」
「あいつか、あいつの仕業か」
「何が人間どもよだ、恥ずかしい奴め」
あっさりバレたわね! ちょっと恥ずかしいんだけど! こっちを見ないで、恥ずかしいから私を見ないであげて!
白猫は何で私の声に被せて鳴いちゃったかな!
「何事だ!」
「子爵様!」
「〝白銀のドラゴンスレイヤー〟子爵様が来られたぞ!」
「これでドラゴンなど恐るるに足らんな」
「我らの勝利だ!」
なんか大層な二つ名を持つ指揮官らしいのが来た。
変なヒゲだな、恥ずかしくないのかな。二つ名で呼ばれてる時点で羞恥心は無さそう。
「何だこの状況は!」
「ドラゴンとその背中に乗った怪しい奴が、我らの任務を邪魔だてしたのであります!」
ヒゲのおっさんはじろりと私を睨む。笑っちゃ失礼だからヒゲは直視できない。
「ねえリン、あのヒゲ」
「だめフィギュアちゃん、それ以上はだめ」
「誰だあいつは、火事場泥棒か?」
ほっかむりは泥棒スタイルじゃねーわよ!
ちょっと頭が痛いからと巻いたらこの有様だよ。
「あんたたちの任務って罪のない人を殺す事なの? 無抵抗な女性や子供を槍で突く事なの?」
「黙れ小僧!」
小娘ですけど。
「今までにドラゴンと何体も戦ってきたこの〝白銀のドラゴンスレイヤー〟である吾輩が来たからには、もう貴様ごときに好き勝手はさせん! 残念だったな小僧!」
小娘だって言ってんだよ。
「好き勝手してるのあんたたちでしょう!」
「そうだそうだバーカバーカ」
「く、なんか知らんがグサっと刺さるな」
お、効いてるよフィギュアちゃんの攻撃。フィギュアちゃんみたいな子から悪口を言われると、地味に刺さるんだよね。
と思ったらトゲを投げつけてたわ、おでこに刺さってるよ白銀のおっちゃん。
「フ、とうとう吾輩を怒らせてしまったようだな。貴様をドラゴンごと串刺しにして、祖国の広場にて晒し者にしてくれるわ!」
指揮官らしき人物は他の兵士が持つような槍ではなく、巨大な禍々しい槍を持っていた。
二つ名を持つだけはあるのだろうか。その名前の通り、本当にドラゴンとやり合ってきた〝ドラゴン殺し〟だとしたら、こちらが不利かも知れない。
でも怒ってるという意味では、私だって怒ってるんだからね!
「弓兵構えろ! ドラゴンは一体だ! どうせこいつも我が軍の前にすぐにポンコツ化する! ポンコツ化した連中など我らの敵ではないわ! この白銀が付いておる! 臆するな、かかれ!」
「オオー!」
兵士たちがそれぞれ弓を引き槍を構え、剣を抜いた。
その統制の取れた動きは、こちらの国の軍隊を一瞬で壊滅させただけはありそうだ。
「白銀!」
「白銀!」
「白銀!」
「白銀!」
「吾輩に続け!」
猫が氷を吐いた。
一瞬で指揮をしていた白銀のドラゴンスレイヤーさんが氷の彫像である。
「うわああ子爵様!」
「氷を解かせ! 間違えて手足を折ったりするなよ」
「わあ、しまった。ヒゲを折っちまった!」
「子爵様自慢のヒゲだぞ、ボンドでくっつかないかな?」
「ギャー、子爵様の家宝の槍を折っちまった!」
どうやらポンコツ化してるのはあんたたちだったみたいだよね。
本当にドラゴンと戦って来たのかと問い詰めたい。
猫にも負けちゃってるじゃないの。
白猫がまた私にかき氷をくれた。
これ作るために氷を吐いたのか。
隣国兵たちは氷の彫像を抱えて『冷てえ!』と悲鳴を上げながら逃走していった。
くれぐれも折らないように気を付けて運んでね。
それを見送りながらフィギュアちゃんとかき氷を食べる。
冷てえ!
「二人とも大丈夫?」
私は猫の上から母子に声をかける。もし怪我をしているようなら初等治癒魔法をかけてあげなきゃね。
しかし二人とも特に身体に問題はなさそうだ。
ただポカーンと猫と私を見上げていた。
「や、山の神様」
「山の神様が泥棒を乗せてやってきた」
ほっかむりは泥棒スタイルじゃねーわよ!
次回 「囚われた村人を救出しよう」
リン、犯人にされる(冤罪)