第101話 戦争中にお祭りやってんじゃねーわよ!
町から出てすぐの周辺の村は避難勧告が出ていてもまだのんびりとしていた感じだったが、いよいよ国の端に入ってくると様子が違ってくる。
「進軍を受けた町や村が破壊の限りを尽くされたそうだ」
「女子供は奴隷として連れて行かれる」
「男も奴隷として連れて行かれて、村には猫しか残らなかったそうだ」
「最終的には猫も奴隷として連れて行かれたってよ」
「隣の国では労働力不足に悩まされていたみたいだしな」
猫の手も借りたいって事かしら。猫は火を吐いたりするから便利だもんね。
しかし怖すぎだろ隣の国、これらの噂が本当なら根こそぎ持っていくって事か。
こんな感じで各地が噂に振り回されて戦々恐々としている中、ある村だけは違ったのだ。
その村は――
「何でお祭りやってんのよ!」
それはモブ男君が自分のスキルだか地図だかを見て見つけてくれた村で、山間にあった。
村人たちが集まり店を出して、綺麗な民族衣装を身に纏った娘たちが踊っている。
祭りの屋台のおっちゃんたちも商売に精を出して、声を張り上げていた。
「饅頭~饅頭はいらんかえ~、敵国が侵攻してきた記念の戦争饅頭だよ~美味しいよ~」
嫌な記念のお饅頭よね!
商売人がたくましいのはいいけど、とりあえずお饅頭を作っとけってのはやめようよ。Tシャツとかペナントとかどうだろうか。
「ガイコツのキーホルダーとかもかっこいい」
お、フィギュアちゃんはそっち系か。
「僕は木刀を買った事があるよ、パーティー結成当時はしばらくそれを装備してたんだ」
よくそんな装備で冒険者をやろうと思ったな、チャレンジャーだねモブ男君は。
「私も最初はお祭りのお土産で買ったメガネを装備していました」(メガネくいっ)
「最初はお土産のフィギュアを装備していたんだブヒ」
冒険者の装備品ですらないよね! チャレンジャーを通り越してるよ!
お饅頭というと、可愛いあの子を思いだすなあ。元気かなあ。
「おっちゃん、おまんじゅうちょうーだい! はやくはやく!」
「ふああぁ妖精だあぁ」
げ、元気そうでなにより。
「あ、大きい子ちゃんと新入りちゃんとモブ族の人たちだ。大きい子ちゃんもおまんじゅうを買いに来たの?」
「お久だね利根四号ちゃん、そんなわけのわからないお饅頭をわざわざ買いに来るのは妖精くらいなもんでしょ。よく見つけたねえ」
「諜報機関Mに教えてもらったんだよ」
優秀すぎるぞ諜報機関〝饅頭〟。
「子供たちの楽園の様子はどう?」
「たまに見に行ってるけど、みんな平和に過ごしてるよ。貴族からお菓子とかオモチャとか貰って喜んでる」
ちゃんと約束は守ってくれてるみたいだね公爵は。
でもこれから公爵も戦争に行くんだろうし、大変そうだ。
「荷物の中には大きい子ちゃん宛てのドレスとかアクセサリーとかも入ってて、次に帰ってきたら渡すんだって保管してるよ」
「そ、そうなんだ」
何故に私へのプレゼントも入ってるんだ。口止め料だろうか。
「光り輝く我らの希望の姫って書いてあった」
公爵に求婚されてるのかしら。私を姫呼ばわりなんて、モブ太君と同じ生き物なのかな。
あんた奥さんいるだろう、チクるぞ。
私が困惑していると、先ほどの困惑の元が屋台から話しかけてきた。
「ところで饅頭はどうするね、お嬢ちゃんたち」
「あ、忘れてた! おまんじゅうの仕入れだった! はやくはやく!」
利根四号ちゃんがさっそく屋台の親父さんの禿げ頭に取り付き、ぺしぺしと叩いている。
とりあえず私も覗いてみる事にした、なんだかんだ言ってもやっぱりお菓子は魅力的なのだ。
「色々種類があるぞ、どれがいいかな?」
「へー、一種類だけかと思ったら色んなお饅頭があるんだね、何が違うの?」
「これは侵略饅頭、こっちは占領饅頭、そして絶滅饅頭だ」
「縁起でもないお饅頭を作ってんじゃねーわよ!」
「絶滅饅頭が一番売れてるな」
しかも一番とんでもないのが売れてたよ!
「じゃあ、一番売れてるのもらおうかな」
「や、やめようよ利根四号ちゃん。妖精の村が亡んじゃっても知らないよ」
「でも一番人気って事は、一番美味しいって事だよね? 一番がそこにあるのに二番を持って帰るのは、妖精の辞書にないんだよ」
「そうか、そうだよね」
さすが妖精、お饅頭に対しては一切の妥協を許さないのだ。
でも名前を聞いてストレス感じて絶滅したりしないだろうか。とても心配だ。
「ん? 中身は全部一緒だぜ? だから美味しさの順番も無いな」
「妖精の村が亡ぶか亡ばないかの一大事に、手抜してんじゃねーわよ!」
「ご、ごめんなさい」
「じゃ、一番人気だけ名前を変えて! お花饅頭! いい? これはお花饅頭だからね!」
「は、はい。お花饅頭で販売させて頂きます」
ふう、なんとかお饅頭屋さんを改心させる事に成功した。人には誰でも間違いはあるのだ。
利根四号ちゃんもお花饅頭を貰って喜んでいる。私は妖精の村を救ったのである。
「おいくらかしら?」
「馬鹿野郎! 俺の目が黒いうちは妖精から金なんか取れるかよ! 舐めんなよ!」
商品の代金を支払おうとしたら怒られてしまった。
怒るのなら、強制的に商品の名前を変えさせられた事に怒れよ。
「いや私たちの分は払うけど……」
「持ってけ持ってけ、今日はゆかいなお祭りだ!」
結局、私たちパーティ五人分のお饅頭をもらってしまった。
まあ、その後でお饅頭の屋台に人が群がっているので良しとしようか。妖精(と私たち)の宣伝効果は抜群なのだ。
「妖精が名付け親の大人気〝お花饅頭〟は大出力販売中だよ~」
「おお、すげーぞ饅頭屋、妖精から名前を賜るなんて」
ご、ごめんなさい、本当は妖精(の友達のただの平民の娘)が名前を付けました。
誇大広告は勘弁してよー。
「旅人さん? 私と一緒に踊りましょう!」
村の中央の広場で踊っていた村娘ちゃんに手を引かれて、私も踊り出す。村娘踊りなら得意なのだ。
フィギュアちゃんも私の頭の上で利根四号ちゃんと踊ってるよ。
ただ一つ危惧していることがある。
この状況をどこかで一度経験している気がするのだ。
おいおいまさかこの村も、山のサイクロプスに狙われてたりしてないだろうな。
私が踊り終わった後、村の衆の盛大な拍手が起こった。いやー皆さんありがとう。
村娘ちゃんが私にハンカチを貸してくれて、二人で汗を拭う。
「ありがとうございます旅人さん。最後に村の皆も大変盛り上がりました」
「一つ聞きたいんですけど、このお祭りは一体何ですか。あなたの結婚式?」
「あはは違いますよ旅人さん。これは私の結婚式なんかじゃなくて、この村の、村の皆の門出のお祝いなんですよ」
村娘ちゃんの朗らかな笑みで安心した。村の人たちの明るい笑顔で安心した。
敵が攻めてくるからこの村を出て、皆で安全な場所に避難しようというわけか。村にお別れをするお祭りなんだね。
「あの世までは敵も追っては来れませんからね!」
まてまてー。
次回 「ハンバーグをパンで挟むだと!?」
リン、驚愕の食べ物を知ってうろたえる