第100話 隣国軍には光姫以外にも最強の部隊もいると聞いた
「それではルーアミル殿下、後ほど!」
「ええ、勝ち戦の戦場で再会いたしましょう!」
二日前の伯爵家のクーデタ―で軍を終結させて殆どそのまま待機させていた金髪縦ロールちゃんは、あっという間に出撃準備を整えると国境線へと進出していった。
僅かな守備隊すら残さずに全軍である。
トファンガの町に残ったのは私たちとお姫ちゃんの近衛隊となった。
今からこの町は軍の終結地となるし、信頼のおける王女の近衛隊もいるのだから後方に憂いなしとみての全軍出撃なんだろう。
潔い金髪縦ロールちゃんはどこまでもかっこいい。最初見た時、何だこの子本当に貴族か? と思ってごめんなさい。
「輜重隊を編成し、前線への補給を確保してください。王都と各領主当てに使者を、各軍の出撃を要請します」
お姫ちゃんがてきぱき指示する中、私たちパーティーは一旦幻覚ちゃんたちと伯父さんの家に戻った。
幻覚ちゃんたちはどうするのか話し合いをしたのだ。
もし元の町に戻るのなら、誰か一人くらい護衛に付けてあげた方がいいと思ったからだ。
しかし伯父さんたちも含めて、全員この町に暫くは留まるのだそうだ。
なんでも軍隊が終結するのなら町のレストランとしては絶好の稼ぎ時らしくて、皆で手伝って一儲けしようという事らしい。
平民、そして商売人はたくましいね。
王侯貴族たちが起こした戦争にただ巻き込まれるだけではなくて、最大にあがいてやろうという精神は尊重したい。
「モグラメニューを作ろうと思うんだ。今回を利用してモグラ協会の拡大を狙ってみるよ」
なんだか一人だけおかしな野望を抱いてる子がいるけど、そ、尊重するわね。
モグラ協会って何かしら?
翌日、さて出発しようかと思っていたお昼に、お姫ちゃんがレストランへやって来た。
頭にはオシャレアイテムのほっかむりをしている、気に入ったのかな。
「何か緊急事態でもあったのですか?」
「あらあら、お昼ごはんにハンバーグステーキを食べに来ただけですよ?」
戦争の真っ最中に、次期国王が呑気に一人でハンバーグを食べに来ないでください!
「皆さんもご一緒にどうですか?」
「来て頂いて誠にありがとうございます」
お姫ちゃんの奢りでハンバーグステーキを堪能してしまった。奢られるハンバーグは何故にもこんなに美味しいのか。
食事の余韻も冷めやらぬ中、お姫ちゃんが世間話を始めたようだ。
「一番厄介な相手は敵国の光姫様なのは間違いないのですが、それに匹敵する強敵の報告が入りました」
全然世間話じゃなかったわ。
デザートのさくらんぼを、スプーンで転がしながらする話じゃないよね。
「厄介な強敵ですか」
「敵の軍勢の中に、竜騎兵の部隊が配備されているようなのです」
「竜騎兵って何?」
それとなく隣に座っていたモブ男君に聞いてみた。
今回はちゃんと隣に座っている事は認識してたんだよ、私も成長したものだ。
「飛竜に乗った騎士だね。空を駆け回って攻撃してくるからとんでもなく厄介な相手だよ」
モブ男君の答えが、私が聞いた反対側から聞こえたのは何故だろう。
私がモブ男君だと思っていたのはモブ太君だったようだ。まあ、大した違いは無いからいいよね、毎度お馴染みの間違いだよ。
そのモブ太君がメガネを取り出してかける。
「私はメガネ師の人ですが」(メガネくいっ)
モ、モブ太君もメガネ君も、た、大した違いは無いから。太っているかメガネをしているかの違いでしかないから。
「何でメガネ外してたのよ、メガネ君がメガネを外したら本当に誰だかわからなくなるからやめてよね」
「メガネをしていると、ハンバーグが透明でわからないからですが?」
メガネを普通のに変えろ!
ああ、懐かしいなこのやりとり!
「そしてメガネを外していると、ハンバーグが二重に見えて豪華感が増すのです」(メガネくいっ)
く、なんて羨ましい目を装備しているのよ。
ハンバーグが二倍になるだと? お腹も膨らむじゃないの。
「飛竜ってのはドラゴンなの?」
疲れるので速やかに話を戻そう。
「ドラゴンの親戚ではあるけど、飛竜は人間でも使役できるのが大きいね。普通のドラゴンを人間が従えられるわけがないので」
「ドラゴンなんて、そう人前にポンポン現れるような代物じゃないブヒ」
「そうですね、私もドラゴンの噂はよく耳にしますけれど、実際に見た事はないですね」
あなたはこの前まで、土ドラゴンからオヤツのお芋を貰ってたでしょうが!
あれ猫じゃないからね、お姫ちゃん。
ドラゴンからオヤツを貰えるなんて、さすが王侯貴族と言ったところだよね。
ん? どうしたのフィギュアちゃん。何故つっこみを我慢してるようなポーズを取ってるのかな?
「飛竜を使役している竜騎兵が相手では、地上軍は手も足も出せず。あっという間に壊滅させられるのです」
うわー、軍事的には光姫よりもやばい相手じゃないのかなそれって。
お姫ちゃんが私の方を向いて何かを訴えたそうにしている。
頼み事かな。どんとこい。でも隣国軍を壊滅させて来いとかは無理だよ。
「皆さまはこのまま出発なされるのでしょうか」
「ええ、私たちに何ができるかわかりませんけど」
「出来ましたら、各町や村、集落を回って危険を呼び掛けて頂きたいのです」
「そのつもりです。私たちが敵の軍に立ち向かったって、三秒で壊滅する自信がありますから。とても戦闘はできません」
「二秒ですね」(メガネくいっ)
「一秒ブヒ」
二人とも何故ドヤ顔なのか意味がわからない。
「ル、ルーアミル殿下、お探ししましたぞ。何故一人で出かけてしまわれるのですか!」
あ、お姫ちゃんの側近の近衛隊の隊長さんだ。隊長さん、半泣きじゃん。
「いつの間にかいなくなるのはやめて下さい。誰にも見つからずにどうやってこちらにいらっしゃったのですか」
「あらあら、あなたの前を普通に堂々と歩いて来ただけですけど」
ほっかむりか。
相変わらずこのオシャレアイテムには謎の効果があるみたいだ。
「よくここがわかりましたね」
「この前もほっぺたにハンバーグを付けてお戻りになられましたから、今日ももしかしてと思ったのです」
「あらあら、ちゃんと私の事に気が付いていたのですね。ボーナスの査定は元に戻してもいいかも知れませんね」
こりゃわざとだなお姫ちゃん。わざとハンバーグを付けてた疑惑があるよね。
「ありがとうございます、じゃなくて。一人で出歩かないでください、皆さんからも何かおっしゃってください」
平民が王女に何を言えというんだよ。まあでもハンバーグ姉妹の姉として、一言あってもいいかな。
「そうですね殿下、では私からも――」
「あなたもハンバーグを食べなさい、皆さまもハンバーグのお替りなどいかがでしょうか。何かおっしゃりましたかリンナファナ様」
「ありがとうございます。と言いたかっただけでございます」
お姫ちゃんの奢りでハンバーグ二戦目に突入だ。
ハンバーグが二倍になった。なるほど、さっきのメガネ君のはこういう事か。
ちょっと乙女的にはきつかったので、お弁当箱に詰めて貰ったよ。今夜もハンバーグ確定!
「お願いしますよ殿下……」
疲れた感じで隊長さんがハンバーグを頬張っている。
隊長さん、美味しいハンバーグを食べて頑張れ。
半泣きの男性にエールを送りつつ、私たちは出発した。
次回 「戦争中にお祭りやってんじゃねーわよ!」
リン、戦争饅頭を食べる。そして饅頭と言えば諜報機関M
遂に100話いきました!