第10話 ボロボロの勇者パーティー
その後は私がすっ転んだ拍子に飛んで行ったロッドが、たまたまモンスターの急所にぶち当たって撃破したり、たまたま私がシャックリをしたせいでモンスターを撃破したり。
たまたま私が寄りかかった岩が倒れて宝箱を発見したりと、そこそこの稼ぎで帰還する事になった。
そして冒険者ギルドで素材を買い取ってもらっていると、なんと我が捨てられ仲間〝ポイズンスパイダーポイズン〟が十倍買取キャンペーン中だったのだ。
更に嬉しい悲鳴が。
なんとミノタウロス等のモンスター界の大物を倒したお陰で、パーティーのランクがEからDに上がったのだ!
とまあ喜ぶべき事なんだろうけど、EからDなんてギルドの依頼でその辺の適当モンスターを狩ってるだけで、その内嫌でも上がるのよね。
今までこの人たち何やってたのって、ああ、草むしり他って言ってたっけ。
因みにギルドから正式に依頼の無いモンスターは、いくら狩ってもパーティーランクは上がらない。素材やお肉を売ってお金を得るだけである。
「やったよ! 数年間Eランクだったのに、リンのお陰で遂にDランクに昇進したよ!」
私みんなの後ろに立ってただけですけど。
「リンが〝早世寺院〟に行きたいって、皆の背中を押してくれたお陰だよね!」
私押した記憶が全く無いんですけど。
「リンさんが立てた作戦が、どれもこれも大当たりでしたからね」
私作戦を立てた記憶も無いんですけど。
「怪我も治癒魔法でどんどん治してくれたブヒ」
転んだ擦り傷くらいしか治してないんですけど。
「「「リン、バンザーイ!」」」
どうしよう……三人組のテンションについていけない……
「ようし、晩ご飯はこのギルド食堂で好きな物食べていいよ! 僕が奢るよ!」
なんですと! じゃハンバーグステーキ! デザートはプリンで!
「私バンザーイ!」
「「「リンバンザーイ!」」」
冒険者ギルドにいた他の冒険者たちが、私たちモブパーティーのテンションについてこれないようだ。キミたちノリが悪いゾ。
「くっそー!」
冒険者ギルドに併設された食堂で、満面の笑みでハンバーグステーキに舌鼓を打っていると勇者パーティーのご帰還の第一声が聞こえてきた。
見ると全員ボロボロの状態である。剣士と魔術師も大怪我をしているようだ。
剣士なんて頭がチリチリになってて、『あー死ぬかと思った』と呟いているほどだ。
魔術師に至っては、お尻にヘルハウンドが噛み付いたままなんだけど。その装備は外した方がいいんじゃないかな。
「高等治癒魔法を頼みます」
勇者が受付で高いお金を支払い、ギルドの出張サービスでやって来た治癒魔法師の回復魔法がかけられている。
治療終了後に喧嘩が始まった。
「カスキースがヒールポーションを全部割るからだよ! 高価なポーションだらけだったのに!」
「仕方無いだろ、こけたんだから! お前は赤ん坊からここまで、おはようからおやすみまで、一回もこけた事ねーのかよ?」
うわ、なんていう屁理屈だ。何言ってんのこの人。
「はあー。今日は全然攻撃が当たらなかったな。魔術師はクシャミ連発で魔法を使えないし、罠にはかかりまくるし、モンスターの集会に偶然出くわすし、最悪のポンコツ日だった」
「クシャミは仕方無いだろ、ダンジョン内が埃っぽかったんだから」
「ついてなかったよ今日は……さっきの治療代とポーション代でド赤字だよ……こんな経験はパーティー結成以来初めての事だよ」
確かに。私がパーティーにいた頃には、こんなアレンタ君たちの姿なんて一度も見た事は無い。
ずっと向かう所敵無しだったはずよね。
凹んでる勇者たちを見ていてある違和感に気がついた。
あれ? 三人だけなの? あの子は? 新しく入ってきたあのロリっ娘ちゃんは、まさか――
私が嫌な想像をした時だ、『バーン』と勢い良くギルドの扉が開かれたのだ。
現れたのは一人の少女で、彼女はずんずんと勇者パーティーに詰め寄っていく。
「酷いですよ皆さん! 何で私を置いて行くんですか!」
「勝手に迷子になったからじゃねーか」
「迷子になんてなってませんよ! 勇者が閉めた空っぽだった宝箱の蓋に服が挟まって動けなくなった私を、さっさと置いて行っただけでしょうーが! だいたい私、リンナファナさんと一緒に冒険が出来ると思ってパーティー参加を受諾したのに、勝手にクビにした後だし。もう信じられない!」
「ああん? うるせーなこのクソガキが、しばくぞこら」
「なんだとこのクソが、しばくだとお? やってみろよ、ブチ殺すぞてめえ!」
剣士のみぞおちに、それはそれは見事なパンチが決まったようだ。
「ごめんなさい……」
「死ね!」
ペっとツバを吐いて、ロリっ娘ちゃんは扉から出て行った。
素晴らしい。新しい勇者パーティーの幕開けを見た気がする。
ご飯を食べ終わって安宿に帰る途中で、占い鑑定士の屋台をまた見つけた。
「ねえ、ちょっとあそこでパーティーを鑑定してもらおうよ」
占いとか女の子は好きなのだ。
実は特に興味も無いけど、やっぱり可愛い女の子としてはどんどん乙女ポイントは押さえておきたいところだ。
「うーん前に見てもらった時の、運にことごとく見放されたってのがトラウマなんだけどなあ」
「今でもたまに夢に見るブヒ」
「私も戒めとして、ノートのあの日の部分は封印してあります」
「まあまあいいからいいから、見てもらおう。おっちゃん一発頼むわね」
「うむ、どれどれ、は! むにゃむにゃ」
なにやらむにゃむにゃと呪文を唱えだした占い鑑定士のおっちゃん。
最初は寝てるのかと思って張り倒しそうになったんだよね。
「張り倒しそうになったんじゃなくて、実際あんたに張り倒されとるけどなわしは。なるほど、お前さんたちのパーティーは、幸運の女神に取り憑かれておるな」
ここにも取り憑いてきたか幸運の女神め。
あっちこっち節操の無いヤツよね。
「凄いブヒ、姫が取り憑いてるだけじゃなくて、女神にまで取り憑かれたブヒ」
おいこら、姫って私だよね、私が取り憑いてるってどういう意味よ。パーティー的には正しい表現で涙目になったよ、ちくしょう。
「このクソオヤジ! どういう事だよ!」
その時、勇者パーティーが突然飛び込んで来て怒鳴り散らしだした。
うるさいなあもう、突然真後ろで怒鳴るから心臓が飛び出すかと思ったよ。
「何だよ疫病神も来てたのかよ、ザコモブパーティーはしっしっ」
「私たちが見てもらってるのに、何なのよ」
すごく迷惑だけど、とりあえずどいてあげた。
一応鑑定は終了してたしね、鑑定結果が良かったから気分もいいのだ。
「俺たちは占い師のおっさんに文句を言いに来たんだよ」
「なんじゃい騒々しい連中だな、わしに文句だ?」
「あんたこの前俺たちには幸運の女神の加護があるって、偉そうな事言ってたよな」
加護じゃなくて、取り憑かれてるって言われてたんだけどね、一言一句正確にね。
「そうじゃったか? そんな気もするが、どれどれもう一回見てやるわ」
占い師のおっちゃんはまたむにゃむにゃ始める。
「ほう、お前さんたちパーティーには、もう幸運の女神がおらんようじゃな。憑き物は落ちとるわ」
プー、こいつら女神様に捨てられてやんの。ププー。
やーいやーいバーカバーカ。女神は私たちが頂きました! たぶん。
「何、見捨てられたのか俺たち?」
「はて、見捨てられたというより、お前さんたちが寄ってたかって追い出したと出とるがな。もったいない事をしとるのう、アホだろ」
「はあ?」
次回 「まだ王子に狙われていたらしい」
リン、禁断の果実が食べたくなる
本日夜に投稿します