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第1話 あはは、私クビだって。え?


「リンナファナ・コルウェス。パーティーから出て行ってもらう、クビだよ」


 面食らった。

 今日の冒険が終わって勇者パーティーが拠点として借りている屋敷に戻り、これから皆で晩ご飯を食べに行こうかと居間に集まった時だ。


 私は突然幼馴染こと、パーティーリーダーこと、勇者のアレンタ君にクビを宣告されたのだ。

 いつもは〝リン〟と呼んでいたのに、かしこまってフルネームで言われる事にちょっとショックを受けた。


 それよりもショックを受けたのは、これから晩ご飯を食べに行こうかという時に宣告された事だ。


 そこはご飯を食べてからで良かったんじゃないかな! いつものようにパーティーの支払いで!


「今日は私の大好きなハンバーグステーキを食べる日だったんだよ。それを知っててこんな嫌がらせをするなんて酷すぎるよ」

「知らないよ」


 勇者のアレンタ君は同じ村から一緒に出てきた幼馴染で、共に十七歳。

 村の仲間たちから祝福されて応援されてパーティーを組んで旅に出たのだ。


「二人で一緒に作ったパーティーなのに、どうして一方的にクビを宣告をするの?」


「仕方無いだろ、リンは全然役に立ってないんだから。それにここは僕の〝勇者パーティー〟だ、リンのパーティーじゃない」


 私のジト目にちょっと臆したアレンタ君は、戦えばもの凄く強いけど勇者になった今でも優柔不断で頼りない所がある。

 つまり押しに弱い。


 クビ宣言はうやむやの内に丸め込んで、無かった事にすればいい。そしてハンバーグステーキを食べればいいのだ。


「村で毎日犬に咆えられて私に助けられてたくせに、おねしょしてからかわれてたのを助けてあげてたのに、おやつのバナナもあげたのに」

「そ、そんな昔の事を今更」


「いつも私の後ろに隠れてたアレンタ君が、私をクビ? 私がいないとどうしようもなかったのに」

「それは……昔は感謝してたけど今は違うし」


 押せ押せ、もう少しだ。

 今こんな所でパーティーから追い出されるわけにはいかないんだから。


「うるせーなクソが、てめーは本気で役立たずなんだよ。勇者パーティーのお荷物のゴミが。クビなんだよ、パーティーの総意なんだよ、さっさと出て行けよクズ」


「そうだお前は本当にいらない、存在するだけで目障り、邪魔、消えろ」


 勇者に代わって口を挟んで来たのは、パーティーメンバーの剣士と魔術師だ、因みに両方とも男性である。


 こいつらが元凶なのよね。

 勇者アレンタ君と二人でいい感じで冒険できてたのに、無駄に優秀なこいつらが入ってから肩身が狭い狭い。


 だいたいこの二人、パーティーで紅一点の私を自分の物にしようと自信満々に、『俺の女にしてやるぜ』とかわけのわからない事を言いながら部屋に無理矢理入ってこようとするから、おもいっきり振ったら態度を豹変してきたんだよね。


 それからはもう毎日ゴミのように扱われたよ。


「アレンタ君と話してるんだから、カステーラ君は黙っててもらえないかな」


「てめーこのクソアマ、俺の名前はカスキースだ! 次にお菓子みたいに呼んだら張り倒すぞ」


 お菓子の名前の方が美味しそうで覚えられるのに。改名したらいいのに。

 私はカステラ剣士とにらみ合ってバチバチと火花を散らし、仕方なしに目線を外す。殴られたら痛いからね。


 そう、戦ったら負けるのだ、私の実力では防御すらもおぼつかない。

 私だってわかってる。傍から見たら何故勇者パーティーに在籍しているのか、わけがわからない存在だもんね。


 後衛の回復職だから戦闘には使えない、索敵できない、肝心の魔法も初等治癒魔法が使えるだけのサッパリな存在なのだ。


 初等治癒魔法は打ち身・捻挫・擦り傷切り傷・虫刺され、突き指くらいにしか使えない魔法だ。初期の虫歯にも使えるかもしれない。


 こいつらが無駄に優秀なので碌なケガもせず、初等治癒魔法で十分だった。


 それでも一生懸命に上の等級の治癒魔法を覚えようとして頑張ってたし、荷物もなるべくみんなの分を持って必死にクエストに参加してた。


 必死に頑張って一緒にいたいと思ったのは、仲間たちと冒険がしたかったんだ。それは私と……私の家族の夢なんだから。

 在りし日のあの子の顔が浮かんでぎゅっと堪える。


「でも出て行けって今から? もう夕方だけど女の子をこんな時間から放り出す気? お金も無しにこのまま捨てる気なの?」


「知らねーよ、自分でなんとかしろよこのクズの寄生虫が。とっとと出て行って死ね!」


「わかった……」


 もう私の追放は決定事項のようなので、荷物をまとめに自分の部屋に戻る事にした。

 とぼとぼと廊下を歩きながら今までの冒険を思い出す。


 アレンタ君と二人で冒険してた時は楽しかったんだけどなあ。私たちの前には輝かしい未来が待ってる気がしたんだよ、ついでに美味しい物も待ってたよ。


 十三歳で村から出て四年、気が付けばもう十七だ、私の輝く十代を返して、ヒロインは潰しが効かないのよ。

 そりゃあ私はあんまり役に立って無かっただろうけどさ。


 でもさすがに『死ね!』はないだろう『死ね!』は。

 私は傷心のままトイレに入った、トイレでちょっと泣いてもいいかな?


 あらやだ、隣の家の奥さんからさっき貰ったマスタードをトイレの紙に零してしまったわ。

 紙も貴重なのよね、とりあえず伸ばしてマスタード色の紙って事にしておきましょう。


 これでお尻を拭いた人は最高の刺激がプレゼントされてしまうかも知れないけど、やっぱり冒険は刺激が無くてはつまらないのだ。


「てめーまだいたのかよこのゴミ」


 トイレから出てくると剣士に睨まれた。


「うるさいな、トイレくらいいいでしょ」

「ふん、紙もタダじゃねーんだよ、さっさと出てけよザコ。そして死ね」


 また死ねって言った! いちいち侮辱しないといられないのかこの剣士さまは。

 紙もタダじゃないのがわかってるから無駄にしなかったのに! トイレに入って行く後姿に舌を出して自分の部屋に入る。


 荷物をまとめると言ったって、たいした物はない。

 ここを拠点にしだしたのは最近なので、着替えと装備くらいしか持っていないのだ。


 荷物を持って部屋を出て、トイレの前を歩いていると。


「んごっひいいい」


 トイレから小さな悲鳴が聞こえてきた。


 何故か一人撃沈。

 さ、散々フラグを立てたあんたが悪いんだからね! 死ねは他人に絶対言っちゃダメな言葉なんだから!


 居間に戻ると誰もいなかった、出て行く私の見送りもないんかい。

 もうとっくに私は仲間だと思われてなかったのかな。


 追放されがけの駄賃にこの高級酒でも貰っていくか、この壷も持っていこう。なんせほぼ無一文で放り出されるのだ、このくらいの餞別は許されるだろう。

 あはは、見送りすらしなかった己の不幸を呪うがいい。


 ついでにこの箒も貰って行こうかな、これ私が掃除用に買ったヤツだし。

 せめて皆の部屋を綺麗に掃除くらいはしてあげたくて買ったんだよね。


 あらやだ、傷心でよろめいてソファーの隙間に箒が突き刺さってしまったわ。

 抜こうと思ったら途中で折れてしまった。棒が一本、縦にセットされてしまったけど私の力じゃ抜けないしこれどうしよう。


 どうか誰かがジャンプして勢い良く座ったりしませんように。パンパン。


 拍手(かしわで)を打って拠点から外に出ると、夕闇が迫っていた。


 えーと所持金は……ダメだ安宿一回分しかない。

 私は一応顔だけは可愛いと近所でも評判なので、路地裏とかで眠るわけにはいかない。


 路地裏の溝に、頭を突っ込んで寝てるオッサン状態になるわけにはいかないのだ。

 女の子が男の人がうようよいる外で寝るなんて危険すぎる、だって風邪をひいてしまうじゃないか。


 今日は晩ご飯抜きだなあ……


 ああ、どこか私を拾ってくれないかなあ、三食昼寝付きで。


「んぎゃああああ」


 拠点から悲鳴が聞こえてきたようだ、あれは魔術師かな。

 まるでお尻に大事件が起きたような叫び声だったけど、一体何が起きたのかな。


 次回 「王族が私の腕を斬りに来た」


 リン、高級酒と壷を売りに行く




 本日は何話かアップします

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[良い点] 応援してます!
[良い点]  最序盤からキャラが立ってる主人公、絶え間なく挟まれるギャグ、そして軽妙でノリの良い文章と第一部分を読んだだけでも非常に完成度が高い。  さらに追放シーンがシリアスになりすぎないことで追放…
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