43 吸血
最終話です。吸血のシーンです。
◇◇◇
夜の二十一時頃。ギルドマスターからレティアちゃんの部屋に夜行くようにと言われて、レティアちゃんが休んでいる部屋の前にまで来た。
「レティアちゃん。タルトだよ。入るね。」
こんこんとドアをノックしてレティアちゃんが休んでいる部屋に入る。
部屋に入ると、窓から差し込む月明かりにベッドから上半身を起き上がらせたレティアちゃんが照らされていて、とても神秘的な光景に見えた。レティアちゃんは窓から外を眺めていて、まだ私に気づいていないようだった。
「レティアちゃん?」
「!?あ、ごめんね、タルト。ぼーっとしてて気づかなかった。」
レティアちゃんはビクッと体を震わせて驚いてから外を眺めたままそう言った。私はレティアちゃんのところまで歩いていき、ベッドの隣にある椅子に腰掛けた。そして、
「………」
「………」
沈黙が訪れた。
(ギルドマスターが私にレティアちゃんのところに行くようにと言ったんだから、ギルドマスターは私に何かをしてもらいたいんだろうけど……何をすればいいんだろう。)
「えっと、レティアちゃん。私に何かしてもらいたいこととかある?」
「!?」
考えてみてもわからなかったため、思い切って質問してみるとレティアちゃんは再び体ををビクッと震わせた。
「そ、その、タ、タルトに、お願いがあるんだけど、聞いてもらっても、いいかな?」
レティアちゃんはそわそわしながら外を眺めたままそう言った。
「いいよ。聞くよ。」
ずっと外を眺めていて私の方を向かないレティアちゃんに違和感のようなものを感じつつ、私はレティアちゃんのお願いを聞く。
「え、えっとね。わ、私に、タ、タルトの………血を、そ、そのぉ………す、吸わせて欲しいんだ!」
お願いを言い終えるのと同時に勢いよく振り返ったレティアちゃんの目はいつもの金と銀のオッドアイではなく、両目が紅く染まっていた。
そんなレティアちゃんの姿を見て、私は昔読んだ吸血鬼の本を思い出した。
《血に長期間吸わず飢えている吸血鬼は吸血衝動というものに襲われ、本能に忠実となって血を得ようとする。吸血衝動に襲われている吸血鬼の特徴は、両目が濃い紅色に輝いていること。そして吸血衝動に耐え続けるということは命に関わる為、とても苦しい。》
(昔読んだ本の内容と今のレティアちゃんの状況が一致しているから、今のレティアちゃんはおそらく吸血衝動に襲われているんだろう。というか私に血を吸わせて欲しいと言ったんだから確実に吸血衝動だ。そしてギルドマスターのしてほしいことというのがレティアちゃんに血を吸わせるということなんだろう。)
それなら私のすることは決まっている。
「あの、ダメ、かな?」
「いいよ。」
「え、いいの?」
「うんいいよ。私の血を吸っても。」
私は乱雑に靴を脱ぎ捨ててベッドの上に上がり込むと、レティアちゃんと向かい合って首筋を差し出す。
レティアちゃんの視線が私の首筋に惹きつけられている感じた。
「ほら吸って。吸血衝動を耐えるのは苦しいんでしょ。」
レティアちゃんの耳元でそう囁く。
「きゃ、ん!」
次の瞬間、私の体は乱暴にレティアちゃんの方に引っ張られると、吸血鬼特有の長い犬歯が私の首筋の皮膚を突き破り、レティアちゃんに吸血をされた。
◇◇◇
「え、えっとね。わ、私に、タ、タルトの………血を、そ、そのぉ………す、吸わせて欲しいんだ!」
強い吸血衝動に耐えるのが難しくなり、思い切って言ってしまった。いつかは吸わないといけないとはいえ、なるべく迷惑をかけたくなくてギリギリまで耐えていようと思っていたのに。
タルトの顔を見ると、驚いた表情を浮かべ、その後何やら考えているような表情になった。
しばらくタルトは何かを考えるような表情を浮かべていて、私はそんなタルトの顔を眺めていた。そして、タルトは何かを確信したような表情をすると、私と目を合わせた。、
「あの、ダメ、かな?」
私は首を傾げてタルトに問いかける。
「いいよ。」
「え、いいの?」
てっきり断られるかもと思っていた。
「うんいいよ。私の血を吸っても。」
タルトは笑ってそう言うと、靴を脱ぎ捨ててベッドの上に上がってきて、私に首筋を差し出した。
私はタルトの首筋に釘付けになった。吸血鬼の本能がその柔肌に噛みつけと言ってくる。ただ、本当に吸血をしてもいいのかと考えてしまい、立ち止まった。
すると、私の戸惑いを感じ取ったのかタルトが、
「ほら吸って。吸血衝動を耐えるのは苦しいんでしょ。」
と私の耳元で囁いた。それを聞いた途端に最後まで吸血衝動を抑えていた私の理性は砕け散った。
タルトの両肩を掴むと乱暴に私の方へ引き寄せ、犬歯をタルトの首筋に突き刺す。
「きゃ、ん!」
乱暴に引き寄せた時と犬歯を突き刺した時の痛みでタルトは小さく二回声を上げた。
突き刺した犬歯から血を吸う。吸血は自分には幸福感を与え、相手には快楽を与える。
タルトの血が私の喉を通るたびに強い幸福感を感じ、強敵に勝った時のような気分が高揚した。タルトの肩から手を離すと、今度は背中に両腕を回して力一杯抱きつくようにしてタルトが自分から離れられないようにした。体が密着してタルトの体温が伝わってくる。
「あっあぁ。ひっああぁ。」
耳元でタルトの甘い声が聞こえる。吸血の際に生じる快楽で艶めかしい声を出している。
その状態が数十秒程度続いた。
「……ふぅ。美味しかった。」
タルトの首筋から犬歯を抜いて強く抱きしめていた腕を離す。
ある程度血を吸ったことで吸血衝動が収まり、砕け散った理性が戻ってきた。
「おーい、タルト?大丈夫?」
タルトの頬をぷにぷにと人差し指で刺して反応を伺いつつ聞いてみるが、恍惚そうな表情で「えふぁひゃは」と声が漏れているだけで反応がない。
「……タルトが正気に戻るまで待ってるか。こうなったのは私が吸血をさせてもらったからだし。」
少し前まで寝ていたのとそもそも吸血鬼で夜に強い為、全然眠くない。私はタルトの頬を突いたり引っ張ったりしながら正気に戻るのを待っていた。
「んーーー、ん?」
「あ、正気に戻った?」
「うん!もう大丈夫だよ。」
タルトは私の噛み跡が残っている部分を指でさすりながらそう答えた。
「レティアちゃん。」
「何?」
「ぎゅっー!」
「え、ちょっと待って!タルト!!」
いきなりタルトが両腕を私の左腕に絡ませてきて、そのままベッドに倒れ込んだ。それにつられるようにして私もベッドに倒れる。
「今日はこのまま一緒に寝ようね。」
「それはさすがに……というか全然正気に戻ってないじゃん!」
「何言ってるの?私は正気だよ?」
すぐ近くのタルトの顔を見ると幸せそうな顔をしている。明らかに正気ではない。
「じゃあ寝るね。おやすみ。」
「ちょっと待ってって言ってるじゃん!」
私の叫びはタルトに届くことはなかった。結局その日はそのままタルトと一緒に寝た。
余談だが、後日ルアに吸血の詳しいことを聞いた。ルアによると、吸血する相手に快楽を与えるのは強い快楽を与えることで次からは自ら血を捧げるようにする、つまり吸血という行為に中毒性を与え、自ら吸血されにくるようにして血液を安定的に飲めるようにするというちゃんとした理由があるらしい。また、吸血鬼が強い幸福感を感じるのには同じような理由があり、強い幸福感を与えることでまた吸血したいと多く思わせるようにして、血液の不足による消滅の可能性を少しでも減らす目的があるらしい。
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◇◇◇
「久しぶりの外だーー!!」
「コォォーン!!」
私は冒険者ギルドから出ると、大声で叫び思いっきり伸びをした。
「テンション高いね。」
「まぁ、レティアちゃんにとっては、久しぶりの、外、だから。」
吸血した日から三日が経過した。1に戻ってしまったレベルを上げ直したくて早く外に出たかったのだが、ルアに三日間は安静にしてなさいと言われて、室内で退屈な時間を過ごしていた。そもそも三日間寝続けていたから、充分安静にしていたのでは?などと考えていた。まぁ、そんなことがあって身体が結構鈍ってしまっている。
「早く感覚を取り戻して行かないとか。よし、頑張ろう!」
私は目標を決めてから、ハク、タルト、イルアと一緒に、ルアに教えてもらったグレストの近くで最もレベル上げに適している場所へ向かい始めた。
「これからも願いを叶えるために頑張るから。だから、見ていてね。レティシア。」
私は誰にも聞き取れないほどの小声でそう呟いた。よし。これで覚悟も決まった。
私たちは明るい太陽の光が照らす道を和気藹々と進んでいった。
初心者の拙い文章でしたが、ここまで読んでいただきありがとうございました!
42話まででブックマーク49件、累計アクセス数13828、総合評価214ポイントと始めた時に思っていたよりも多くの人に読まれて嬉しかったです。
この話はいずれ執筆の技術が向上して自分が満足できる文を書けるようになったらリメイクをして再び投稿する予定です。その時にはちゃんとしたエンディングを迎えられるように頑張ります。
そしてTwitterでたびたび言っていた執筆の練習を含めた新しいシリーズを始めます。
Realistic Fantasy Online 〜リアルなゲームの世界で鬼の少年は暴れ回る〜
簡単に内容を纏めるとリアルなVRゲームを男の娘の主人公が遊ぶ話です。
よろしければこちらもよろしくお願いします。
では最後にもう一度お礼を。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。




