39 未来の自分
既にボロボロの身体をどうにか動かすようにして起き上がる。
「龍!?どうして、こんなところに……。」
「コ、コォォーン。」
怯えるハクを私の後ろに隠して龍に睨み返す。
「レティアちゃん!どうしたの!?大丈夫なの!?」
「レティア、ちゃん!返事して!」
タルトとイルアの声が通路から聞こえて来る。どうやら無事のようで安心した。
「ハク。ハクならこの岩の隙間を通って通路に出れるよね?タルトとイルアと一緒に逃げて龍と戦えるような人を呼んできて欲しいな。」
ここへ繋がる唯一の通路は龍の攻撃で洞窟の一部が破壊された時の落石で通れなくなってしまった。ただハクなら【拡大縮小】で極限まで小さくなれば岩と岩の隙間を通ることができるだろう。
「コォーン?」
「私は通れないからここにいるよ。限界が近いというかもう限界だから早く行って呼んできて欲しい。できる?」
「コォォーン!」
「ありがとうハク。任せたよ。」
怯えているハクを頭を撫でて送り出す。ハクが岩と岩の隙間に潜り込んで行くのを見届けると、私は再び龍に目を向ける。
「うっ、」
地上でこちらをずっと凝視していた龍が翼を羽ばたかさせ、洞窟内に降りてきた。羽ばたく時の風が砂利を巻き込んで洞窟内に吹き荒れる。
両腕を交差させて顔に飛んでくる砂利を防ぐ。風が吹き止むと目の前にはこちらを見下ろす龍がいる。
「このまま戦わないですめばいいんだけど………やっぱりそうはならないよね。」
龍が左前足を振り上げる。そして、私に狙いを定めて振り下ろす。
私は左に思いっきり飛んでその一撃を回避したが、既に限界を迎えている身体では着地ができなかった。ゴロゴロと無様に地面を転がる。
「くそっ!」
龍が体の向きを私の方に向け、今度は右前足を振り上げる。
立てない。避けれない。
今度こそ終わりを覚悟した時だった。
(まだ終わらない。終われない。こんなところで終わるのは許せない。)
いつもの私を助けてくれる声とはまた違う声が聞こえた。
その声を聞いた私は無意識にとあるスキルを発動させていた。
称号スキル 【真祖へ至る道】
このスキルを発動させた途端、私の視界は真っ白な光で染まった。すぐに光が消え、目を開くとそこは夢の中にいるかのような世界だった。そして、その世界には沢山の自分がいた。
沢山の自分達は今の自分と違って身長は少し高かったり、髪が伸びていたり、大きな羽を持っていたり、変な魔法陣が刻み込まれてたりと、さまざまな姿をしていた。
その沢山の自分達は私が迎えるかもしれない未来の自分の姿ということを直感的に理解した。
おそらくだが、【真祖へ至る道】の高位吸血鬼の力を宿すという能力は、未来のあり得るかもしれない自分の力を今の自分に宿すという能力だろう。
私は引き寄せられるようにしてとある自分の前に沢山の自分達の間を通り抜けて辿り着いた。
その自分は明らかに他の自分とは違った。
まず全身が黒いもやのようなものに包まれていてはっきりと姿を確認することができない。それに、その黒いもやは禍々しい感じがする。
明らかに異質だった。
私は魅入られたようにその自分を眺めた。そしてその自分にゆっくりと右手を伸ばした。すると、その自分は左手を伸ばしてきて、途中で私の右手と重なると指を絡めてきた。
さらに、その自分は右手も伸ばしてきて、私の左手に触れると同じように指を絡めてきた。
まさか自分と両手で恋人繋ぎをするときが来るなんて思わなかった。そんなことを考えた。
「わっ!」
突然グイッと私の身体が引っ張られた。私の顔とその自分の顔がギリギリまで近づくが、やはりはっきりと顔を確認することはできなかった。
(私は君自身。だけど私は君ではない。……力を貸してあげる。私の力で生き残りなさい。そして、レティシアの願いを……)
「!?」
その自分は私の耳元でそう囁いた。私が驚くのも束の間、水が大地に吸収されるように、その自分は私の身体の中に入り込んだ。
次の瞬間、ドクンと心臓が大きく鼓動した。血の演舞を発動させたとき以上に身体が熱くなって力が溢れ出す。
それと同時に、夢のようなこの世界が端の方から消えてゆく。それが私のところまで届く前に現実に戻される。
現実に戻ると龍は右前足を振り上げたままで、どうやらあの世界にいる間は現実の時間は止まっているようだ。
「この力を試させて!早く潰れたらダメ!」
湧き上がる力を早く使え、使わないと膨大な力が身体が弾け飛ばすぞと、脳が訴えかけてくる。全身にあったはずのアヴァデスに付けられた傷は、既に有り余っている力の一部が使われて治っている。
「私を楽しませて?」
振り下ろされる龍の右前足を、黒く変色した私の血を操作して壁を作って防いだ。
強力な一撃を余裕で受け止めた私を見て、龍はバックステップで後ろに下がり距離を取った。
「ははっ!行くよ!」
右手を虚空に伸ばせば、そこに黒血剣が作られる。
未来の自分の力を宿した私と龍との戦いが幕を上げた。
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