36 それぞれの戦い レティア イルア ハク
夏休みだけど忙しくて書いてられない。
私に僅かに脇腹を斬られた異常種は反撃をすることなく後ろへ飛んで距離をとり、再び剣を構え直した。
「見事だ。お前を格下だと思っていたがその評価を改めよう。」
「それはどうも。」
私も体制を立て直し、剣を再び構える。
「この身に傷を付けたのは貴様らが二番目だ。だから貴様らは格下なのではないな。我と同格の存在と言える。そんな貴様らと我は戦うのだ。だから戦う者の名前を知りたい。」
そんなことを異常種が言うと、
「我の名はアヴァデス!アークゴブリンロード、アヴァデス!さぁ、貴様らも名乗るがいい!」
盛大な名乗りを挙げた。
「レティア。吸血鬼のレティア。」
「イルア。ただの、人間。」
「コォン!」
名乗りには名乗りを返す。それは全世界共通の戦いのルール。
「レティア、イルア、ハク、というのか。さぁ、戦いを再開しようではないか。両者どちらかが死ぬまで終わらない最高の娯楽の時間を!」
アヴァデスが地面を蹴りとてつもない速さで私との距離を詰めて剣を振り下ろす。
私は血剣に更にMPを込めて強化すると、右に移動して振り下ろされる剣を回避し即座に身体を反転させて身体が捻られ勢いが乗った重い一撃をアヴァデスに放つ。
しかし、この一撃はアヴァデスの切り返しの剣で止められ再び鍔迫り合いになる。この状態だと先ほどの結果からわかるように僅かに現在の私よりもステータスが高いアヴァデスが有利だが、MPが込められ強化された桜の花弁が飛来してきたため鍔迫り合いはすぐに解消され、アヴァデスは何回か後方へ飛んで私から距離を取りつつ桜の花弁を全て斬り落とした。
私は後退するアヴァデスを確認しつつ羽を展開して飛べるところまで急速に上昇すると、今度はアヴァデスに向けて急速に下降する。
私の動きに気付いたアヴァデスが対応しようと剣を上に向けようとして、その動きを妨害するようにイルアが放った五発の風属性の魔法に気付いた。
ギィィーーンと甲高い音が響いた。
「やるじゃないか。」
「嘘でしょ!?」
重力を利用した先ほどよりも重たい一撃をアヴァデスは剣を頭上に掲げて受け止めていた。
「どれだけの馬鹿力なんだよ。」
思わず愚痴がこぼれた。
血剣が受け止められたが無傷とはいかなかったようで、私の一撃を受け止めた際のエネルギーを全て地面に受け流すことに失敗していて、アヴァデスの右腕がおかしな方へ曲がっており、またアヴァデスを中心として三メートルほど地面が陥没した。私への対応を最優先と判断したのか、無視したイルアの風属性の魔法が右腕に全て直撃していてアヴァデスに傷を付けていた。おそらくこの傷のせいで受け流しに失敗したのだろう。アヴァデスの右腕から鮮血が垂れる。
「コォォーン!」
アヴァデスの僅かな硬直を見逃さずに、ハクが【火属性魔法】と【千桜花】を組み合わせた熱風を放った。私はハクの熱風の風を利用して再び洞窟内のギリギリの高さまで飛び上がった。
「見事なコンビネーションだな!」
右の方向へ逃げて熱風を避けつつアヴァデスはそう叫んだ。そのまま走ってアヴァデスが向かう先にいるのはイルア。どうやら狙いをイルアに変えたようだ。
「させないよ!」
私はイルアの前に移動し、直後アヴァデスと剣を何合も打ち合う。それをイルアの風属性の魔法が私とアヴァデスの間を通り中断させると、私はバックステップで距離を取った。
アヴァデスが鋭い感覚で殺気を感じとり後ろに剣を振りつつ身体を反転させると、そこには先程の熱風を腕に纏わせたハクがその腕を振りかぶっていた。
ハクの火と桜を纏った鋭い爪とアヴァデスの剣がぶつかり、一瞬の硬直の後ハクの身体が吹き飛ばされた。
しかし、ハクに身体を反転させて対応したということは私とイルアに背中を向けているということ。私は血剣を心臓があると思われる場所へ狙いを定めて突きを繰り出し、イルアは風属性の魔法を大量に放った。
(これなら、いける!)
血剣と魔法がアヴァデスの身体に吸い込まれるように飛んでいく。血剣と魔法がアヴァデスの身体を斬り刻む、その直前で、アヴァデスは顔だけ振り返ると、
「GAAAAA!!」
「「!?」」
口から大音量の叫び声が出されそれは衝撃波へと変換されて私たちに襲い掛かった。衝撃波は私を吹き飛ばしイルアの魔法を打ち消した。
「あ、あぅ、あ…」
「レティア、ちゃん!」
至近距離で音の衝撃波を受けた私は鼓膜が破壊され、耳や目、鼻といった場所から血が流れ出た。
(早く…立たないと……追撃が…くる。)
「レティア、ちゃん!レティア、ちゃん!」
イルアは私が斬り合っている時に距離をとっていたため大丈夫だったようで、私に駆け寄って来るとふらふらの私を支えて起こしてくれた。
「ありがとう、イルア。」
「大丈夫、なの?」
「耳はもう治した。MPはギリギリだけどこのまま【自己再生】を使い続けて傷を治せばまだ戦え……ゴフッ!?」
「レティア、ちゃん!」
私の口から大量の血が吐き出された。血の演舞の限界が今訪れ、血の演舞を維持する力が私に残っていないため自動的に解除された。
イルアに支えられている私の身体はボロボロで、服は血の演舞の自傷の傷から滲み出ている血によって真っ赤に染まっている。
(このままじゃ、まずい!だけど、身体が動かない!)
アヴァデスが歩いて近づいて来る。イルアが魔法を放って近づいてこれないようにするが、それを全て斬り払って一歩ずつ一歩ずつ近づいてくる。
「この勝負、我の勝ちだな。良い戦いだった。」
「まだ……勝負は…決まってない。」
「負けず嫌いだな。レティア。だがお前はもう戦えない。痛くないように一瞬で殺してやる。これは我なりの良い戦いをさせてくれたお礼ってやつだ。受け取れ。」
「断る。」
残り僅かなMPを消費して、流れ出た大量の血を【操血】で一つの大きな杭にして至近距離まで近づいてきていたアヴァデスに打ち込む。それと同時に今までタイミングを測っていたハクがアヴァデスを後ろから狙った。
「最後の足掻きとしてはこれほどのものはないだろうな。しかし、無駄だ。」
アヴァデスは剣を振って血の杭を半ばから斬り落とし、後ろを見ずに放った左の拳がハクの胸を穿いて吹き飛ばし洞窟の壁に叩きつけた。
「これで終わりだ。」
剣が振り下ろされる。
(あぁ、レティシア。)
私は目を瞑り心の中で創造主の名前を呼んだ。
(願いを叶えられなくてごめんなさい。)
最後にレティシアへの謝罪を思って終わりを迎える。そのはずだった。
「遅れてごめんね。」
ふと、温かい声が聞こえた。私とイルアに死は訪れず、声が気になって目を開く。
そこには蜘蛛の脚と糸で包んだ左腕で剣を受け止めるアラクネに変化しているタルトの姿があった。
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