25 嫌な予感
どんどん面白くしていくぞぉー。
「おかしいよ、イルア。人が全然いない。いつもなら門の前に行列が出来てるのに。」
先頭を走っていたタルトが門の数百メートル前で急に立ち止まり疑問を口にする。
「いつもなら街へ入るための行列がここら辺までできているはずなのに……誰もいない。」
「今更、気づいたの?遠くから、でも、少しおかしい、くらい、わかった。とりあえず、何か、あったかも、しれない、から、門番に、話を、聞いてみて。」
「わかった。」
そう言って、門の出入りを監視する場所へタルトが駆けていく。
そのやりとりを二人に追いついた私は後ろから眺めていた。
「街の外の道なのに、以外と整備されているんだね。」
私は門まで繋がっている長く広い道を見て、そう言った。門の出入口から一キロ程の距離まで綺麗に石畳で整備されていて、結構整っているなという印象を受けた。
「グレストは、商人とかが、街に来やすいように、グレスト付近の、道や橋の整備に、お金を使っている。」
タルトとのやりとりを終えて戻ってきたイルアが私の質問に答えてくれた。
「そのおかげか、グレストは、いろいろな、分野のアイテム、が、売っていて、お店が多いから、王都で見つからない物は、グレストで探せ、って言葉まで、作られてる。」
「そうなんだ。グレストに入ったらいろいろなお店を回ってみようかな。」
「その時は、タルトと、案内してあげる。」
「楽しみにしておくね。」
私はグレストでの予定を考えながら、ゆっくりと綺麗に整備された道を歩いていた。
ふと、足を止める。
「天気が悪くなりそうだね、ハク。」
空を見上げると、黒い雲が森からグレストの方に流れてきていて、辺りが暗くなってきていた。風もだんだん強くなってきている。これから何かが起こりそうな……嫌な感じがする。
「コォォン」
「どうしたの、ハク?」
ハクも何かを感じ取ったのか、森の方をずっと見ている。そして、さっきのハクの声は少し強張っていた気がした。
「コォン」
ハクが小さく鳴いた直後、
「WAAAOOON!!」
大地を揺るがすような生存本能を刺激する魔獣の咆哮らしき声が聴こえた。
「何!?」「!?!?」
全身に鳥肌が立ち、蛇に睨まれたかえるのように体が一瞬だけ硬直した。
「タルト!イルア!無事だったのね!説明は後でするから、とりあえず今は早く門の中に入って!」
知らない声が聞こえ振り返ると、門の一部が開いていてそこから一人の女性が顔を覗かせていた。
「ギルドマスター!?」
「レティアちゃん!イルア!」
イルアがギルドマスターと呼んだ女性と一緒にいるタルトが、門の中から私とイルアを呼ぶ。
「レティアちゃん!」
「ハク、行くよ!」
私は何かに怯えるハクを両手で抱きしめると、誰もいない広い道をイルアと一緒に全速力で走り、開いている門の一部に駆け込む。
「ッツ!?」
街の中に入り門が急いで閉められる前に振り返ると、森からこちらを睨みつける数多の魔獣の目が爛々と輝いていた。
―――
――
「レティアちゃん、イルア、大丈夫?」
「大丈夫だよ。結構怖かったけど……。」「……同じく。」
「大丈夫ならよかったよ。」
タルトの質問に答えつつ、全力疾走した後の呼吸の乱れを治す。
「タルト、イルア、この少女はどうしたの?私と同じ吸血鬼みたいだけど?」
先程イルアにギルドマスターと呼ばれていた女性が私のことをジッと見つめてくる。
この女性は私と同族だ。不思議な感覚……吸血鬼の本能とでもいうものが、この女性が吸血鬼があることを証明する。
「レティアちゃんだよ。とても強くて私たちが森でピンチだった時に助けてもらった。」
「そのことで、ギルドマスター、に、報告がある。」
「じゃあ、その報告を聞いてから今の状況について説明するわね。戻ってきて休みたいだろうけど、状況が悪くてやることが多いから報告を急ぎで頼むわ。」
「わかりました。では早速本題ですが………ゴブリンのスタンピードが発生しました……。」
「そんな!このタイミングで!!それは事実なの!?」
「これは、事実。通常の集団に、何体も、上位種が、混ざっていた。」
イルアのゴブリンのスタンピードを裏付ける発言を聞いて、吸血鬼の女性は顔を一気に青ざめた。
「今もまずい状況っていうのに、さらに状況が悪くなったわね……」
「何が起こっているんですか?」
私が問いかけると、吸血鬼の女性は苦虫を噛み潰したような顔で、
「………フォレストウルフのスタンピードが発生しているわ………」
と呟いた。
「「「!?!?!?」」」
「ど、ど、どうなっているんですか!?普通なら違う種の魔獣のスタンピードが同時に発生するわけないじゃないですか!?それに、フォレストウルフはスタンピードにならないように常に討伐が行われているはずですよね!?」
スタンピードは、同じ種の魔獣がなんらかの要因で増えすぎたとき、増えた魔獣の中から一番強い個体が上位種に進化し、他の全ての魔獣を支配することで発生する、魔獣災害と呼ばれる現象の一つだ。
一応対策法としては、個体数を少なく保ってスタンピードを発生させなくするというものがあるが………。
(今の状況では手遅れだね。)
「えぇ、討伐は常に行われていたわ。冒険者と騎士団が協力してフォレストウルフを減らしていた。」
「じゃあ、なんで、スタンピード、は、発生、したの?」
「それはわからないわ。騎士団と協力して原因を調べてはいるけど、全くわからないわね。唯一わかったことといえば、突然フォレストウルフの数が、スタンピードが発生する個体数を満たすまでに増大したということだけね。」
「つまり、一日で個体数が何倍にも膨れ上がったということですか?」
「えぇ、そういうことになるわね、レティアちゃん。」
「……えーと、名前をお聞きしてもいいですか?自分の知らない相手から名前を呼ばれると、なんというか反応に困るので。」
いきなり名前で呼ばれて少し驚いた。表情には出さなかったけど。
「確かにそうね。そういえば自己紹介をしていなかったし。私はエルノア。グレストの冒険者ギルドのギルドマスターをしている吸血鬼よ。私のことは好きなように呼んでくれて構わないわ。よろしくね、レティアちゃん。」
「改めまして私はレティア。こっちはハク。こちらこそよろしくね、ルア。」
「ルア、か。始めて呼ばれるわね。」
「嫌だった?」
「全然。嫌じゃないわ。」
「なら良かった。」
「ところで強い強いレティアちゃんにお願いがあるんだけど………聞いてくれるかな?」
エルノアの顔を見上げると、反論を許さない笑み。
「………ちゃんと報酬を用意してくれますよね?」
ため息をついてそう答える。
「わかってるね、レティアちゃん。」
ニヤニヤと笑うエルノアの顔を見て、上手く話に乗せられた気がした。
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