17 報酬
「んん〜〜。」
温かくざらざらしているものが私の頬を撫でていき、私を揺らす。
『ダメだよ起こしたら。その子は疲労が溜まって眠っているんだから。』
僅かにそんな事を言う声が聞こえて、直後耳元で「コォォン」とごねるような鳴き声が聞こえた。私はゆっくりと目を開け起き上がると、体を伸ばし意識を覚醒させていく。
『あら起きちゃった。よく眠れた?』
「コォォーーーン。」
「ん〜〜よく眠れ、グフッ!?」
体を伸ばしていると、嬉しそうな鳴き声と同時に狐の魔獣が私に突進してきた。目を瞑り両手を広げて体を伸ばしていた私は、突進してくる狐の魔獣に気付かず女の子が出してはいけないような声を出して、狐の魔獣と共にもう一度地面に倒れた。そして温かくざらざらとした感触が私を襲った。
「えっ、何々??わっ!ちょっと、ねぇ、待って!くすぐったいって!一旦待って!本当に待って!」
『ほらレティアが困ってるでしょ。やめてあげて。』
「コォーン。」
桜の声に返事をするように短く鳴くと、狐の魔獣は私から少しだけ離れた。………酷い目にあった。狐の魔獣に数秒間ずっと舐められて、顔が唾液だらけになった。
「なんでこんなことに………」
手で唾液を拭いながら呟き、それに桜の声が答えた。
『レティアに感謝しているんだよ。あの子なりに。あのまま戦っていたら負けていたからね。あの子にとってレティアは、私を守るために一緒に戦ってくれた良い人であって、最後まで自分を助けようとしてくれた優しい人、という認識なんだよ。だから、結構君に懐いてるよ。』
「そうなんだ。でもそもそもの話、最初からあの技を使っていたら私がいなくても倒せたよね。なんで私を呼んだの?」
『あぁそれはね、あの技は私の特殊スキル【千桜花】を使った技なんだけど、牙角猪を倒すレベルの威力を出すには結構な量のMPを使ってさらに制御までしないといけないから発動までに多少時間がかかるのよ。その間にあの子が牙角猪にやられちゃうから、時間を稼いでくれる君が必要だったんだよね。』
「なるほどね。あともう一つ聞きたいことがあるんだけど、なんで私の名前を知っているの?」
『それはね、どうにかして【千桜花】を使えるようになるまで時間を稼げないかなと考えていたときに、私の力が及ぶ範囲内にレティアがいて、その時に【鑑定】を使ったからだね。』
「力が及ぶ範囲に私がいた?」
『私の本体というのかな?私の本体はこの桜の木なんだけど、根が伸びている範囲内ではどこでも自由に力が使えるという便利なスキルを持っていて、最初はこれを利用してステータスの高い魔獣をおびき寄せて、牙角猪と戦わせているうちに【千桜花】を使えるようにして倒そうと思っていたんだけど………』
「そこに私がいたと。」
『そうだよ。【鑑定】してみたら牙角猪と戦えるくらいにはステータスが高かったし、知性もある。困っているようだったから、取引すれば協力してくれるかなって思って。』
「つまり、私はあなたの掌の上で転がされていたんだね。」
『それでは言い方が悪いよ。これは取引。ちゃんと報酬の美味しいものを用意したよ。ほら後ろを見てご覧。』
言われて後ろを振り返ると、宴会をするような空間が岩や大きい植物などで作られていた。その真ん中にはこんがりと焼けている牙角猪と思われる肉があり、周りには私がみたことのない果物や色とりどりの野菜が切られて置いてあった。
「すごい。こんなに美味しそうなもの初めてみた。」
『私とこの子で協力して調理したり準備したりしてね。もう夜だしお腹空いてるでしょ。どんどん食べてね。』
「ちょっと待って!今、夜なの!?」
確かに、辺りを見回すと暗くなっていて、完全に夜だった。どうやら狐の魔獣の火で辺りを明るくしているようで、言われるまで夜になっていると気づかなかった。ということはもしかして私、朝から夜まで詳しい時間はわからないが最低でも10時間くらいは寝ていたことになるのかもしれない。自分が結構長い時間寝ていたことに驚きを感じた。
『死んだように眠っていて、まるで眠り姫のようだったね。』
「コォォーーン。」
狐の魔獣が桜の声に同意するように吠えた。
『こんなに準備したのに肝心のあなたがずっと寝ていてから、この子が待ちくたびれてあなたをずっと起こそうとしていたんだよね。まぁ、早く感謝の気持ちを伝えたかったというのがあったんだと思うけどね。』
「そうなんだ………ごめんね。」
私は狐の魔獣に手を伸ばし、近づいてきた狐の魔獣の頭を撫でてあげる。毛がふわふわしていて気持ち良く、狐の魔獣の方も気持ちよさそうにしていたので、しばらくの間ずっと撫で続けていた。
『料理食べなくてもいいの?』
「食べる。」「コォーン。」
もしかしたら、ずっとこれをやり続けると思った桜の声が私と狐の魔獣との遊び?を中断させた。狐の魔獣がずっと嬉しそうにしていて、やめるタイミングを失っていた私は桜の声に心の中で感謝した。
そして狐の魔獣と、料理の置かれている場所に移動すると一緒に食べ始めた。正面に置かれている肉から周りに置かれている色とりどりの野菜や果物まで満遍なく食べていく。
「美味しい!!」
私はあまりの美味しさにびっくりして、大きな声で叫んでいた。肉は焼き加減がちょうど良く、柔らかくて食べやすかった。野菜や果物は甘いものから酸っぱいもの、辛いものなど様々な味があって、量が多くても飽きることはなかった。
次々と料理に手が出る。それに私と狐の魔獣が夜ご飯を食べている間、桜の声が、どうやってこんなに野菜や果物を集めてきたのかや、狐の魔獣が肉を焼くときに火を強くしすぎて炭にした話など、私が寝ている間にあった出来事を話してくれたこともあり、楽しく食事が進んだ。桜の声が話すのを上手なこともあり、その場から1人と1匹と1体の笑いが絶えることはなかった。
桜の声の話は私が狐の魔獣を毛布にして寝るまで続き、私はとても幸せな気持ちでその日を終えた。
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