きゅうりが好きな僕とかっぱの話
生暖かい目で読んで頂ければ幸いです……!
「僕の好きな食べ物はきゅうりです。なんで好きかって言ったらシャキシャキする感じが最高だし、"あえもの"にするとすごく美味しいし、いくらでも食べられるからです」
「えー、なにそれ変なの。くすくす……」
僕は小学3年生。
クラスで好きな食べ物発表をしていたんだけど、笑われちゃったみたい。なんでだろう?
きゅうりって最高に美味しいのに。
「好きな食べ物はいちごです」
「私の好きな食べ物はぶどうです」
「僕の好きなものはメロンです」
クラスのみんなは果物が好きなのかな?大体みんなおんなじような果物だ。
確かに果物って甘くて美味しいけど、きゅうりの方が美味しい。僕の中ではきゅうりの勝ちだ。
そんなことを思っていたら、先生も僕のことを見て面白そうに笑った。
「おーい!かっぱ星人ー!一緒に遊ぼうぜ!」
「いいよー!!」
そしてその日から僕のあだ名は「かっぱ星人」になった。理由はかっぱも僕みたいにきゅうりが好きだからだ。
なんだか馬鹿にされてる気もしたけど、そんなあだ名を僕はかっこ悪いとは思わない。
同じ好きな物同士でかっこいいじゃないか。
そう思うけど……やっぱりちょっと凹む。
きゅうり、美味しいよね?一番だよね?
僕はこうせいお兄ちゃんにも好きな食べ物を聞いてみた。兄弟だからもしかしたら、きゅうりが好きかもしれない。
「ねぇ、お兄ちゃんの好きな食べ物はなあに?」
「ん、俺か?俺はカレーが一番だ」
「きゅうりは好き?」
「ん?まぁまぁだな……」
なるほど……。
次に僕は妹のららに聞いてみた。
「らら。ららの好きな、食べ物なぁに?」
「らら、チョコすき!」
そっか。ららは甘いもの好きだもんな。
次はおばあちゃんに聞いてみた。
「おばあちゃんの好きな食べ物は?」
「ばぁばはの、漬け物が好きだな」
「そっかぁ……」
「じゃあ、きゅうりは好き?」
「ああ、きゅうりの漬け物は好きじゃぞ〜」
おばあちゃんは漬け物だったらなんでも好きだよね。
どうやら、みんなきゅうりは一番じゃないみたい……。僕は少し悲しくなった。
その時僕は、はて?と思った。
僕たち家族も好きな物がバラバラだけど、かっぱの家族はみんなきゅうりが好きなのかな?って。
きゅうり好きなかっぱだったら、そのかっぱの家族はみんなきゅうり好きなんじゃないかって!
僕は聞いてみたくなったから、かっぱに会いに行くことにした。わくわくする。
かっぱの居場所はおばあちゃんに聞いた。
かっぱの家族は5人家族で、お父さん、お母さん、お兄ちゃんとお姉ちゃん、そして弟だって。
親戚もたくさんいるって教えてくれたよ。
でも怖い親戚もいるから気をつけてねっておばあちゃんは言ってた。
一番最初に家の裏の池に行ってみた。
そこにはお父さんかっぱとお兄さんかっぱがいた。
「こんにちは、かっぱさん。突然だけど、好きな食べ物はなあに?」
「こんにちは。それはもちろん、きゅうりだよ」
やったぁ!やっぱり、かっぱはみんなきゅうりが好きなんだ!!
「どうしてきゅうりが好きなの?」
僕は嬉しくなって理由も聞いてみた。
きっときゅうりの素晴らしさを教えてくれるだろう。
「うーん、それはママかっぱがきゅうりを好きだからかな」
「え?!」
僕はびっくりした。
てっきり、きゅうりそのものが好きなんだと思ってた。
次に、裏山の沼に行ってみた。
そこにはお母さんかっぱとお姉さんかっぱ、弟かっぱがいた。
「こんにちは、かっぱさん。突然だけど、好きな食べ物はなあに?」
「それはもちろん、きゅうり!」
「じゃあなんできゅうりが好きなの?」
「えっと、パパかっぱとお兄ちゃんかっぱが好きだからかなぁ……」
「そっかぁ」
僕は少し残念な気持ちになってきた。クラスのみんなもそんなことを言ってたような……。
とぼとぼと裏山の川のほとりを歩いていたら、突然ザブーン!!!と大きな音がした。
振り返るとそれはそれは大きな、とっても怖い顔をした鬼みたいなかっぱがいた。
そのかっぱはびっくりするような大きな声で
「だぁれだ!!!ワシの大好きなきゅうりの話をしておるやつはー!!!」
と叫んだ。
僕は驚いて泣きそうになったけど、もうお兄ちゃんだから我慢した。おばあちゃんの言っていた怖い親戚かっぱだ……!
その鬼みたいなかっぱは僕に話しかけてくる。
「貴様か!!!きゅうりの話をしていたのは!!!もしや、貴様、きゅうりが嫌いとは言うておるまいな?」
「それはち、違うよ!僕はきゅうりが大好きなんだ!」
「ほう、ではどんなところが好きか言うてみい」
「えと、まずシャキシャキするところ、あとは"あえもの"にするともっと美味しくなるところ、そして、いくらでも食べられるところ、だよ」
「…………そうか」
その鬼みたいなかっぱは少し静かになってうーんと唸った。
「そうかそうか」
「うん……」
「ワシはの、きゅうりのデカくてそれはもう鮮やかな緑色でトゲトゲしているところが好きなんじゃあ!!!」
また急に大きな声を出して、鬼みたいなかっぱは何故か嬉しそうにニカッと笑った。
「お主からは良いことを聞いたのぉ!!帰ったら"あえもの"とやらにしてきゅうりを食べてみよう!!」
な、なんなんだ、このかっぱは……!
僕は腰を抜かしたけど、きゅうりを好きなのに間違いはないらしい。
きゅうりの見た目が好きみたいだけど、食べてくれるって言ってる……。
「お礼にこの素晴らしいきゅうりをやろう!!!」
ドーーン!!!
鬼みたいなかっぱは川の中から、それはそれは大きな眩しいくらいに綺麗な緑色をしたトゲトゲのきゅうりを出してきた。
「あ、ありがとう」
「お主のおかげでまた好きが増えた!!礼を言うぞ!!」
そう言って、鬼みたいなかっぱは川の中に姿を消した。
あまりに突然の出来事だったけど、目の前には本当に大きな素晴らしいきゅうりがあった。
「す、すごいや……!!」
僕はこんなに大きくてかっこいいきゅうりを初めて見た。一目で大好きになった。
僕はクラスのみんなや家族にも見せてあげることにした。こんなにかっこいいんだもん。持って帰るのは大変だったけど、全然苦じゃなかった。
「うっわぁ!!!こんなに大きなきゅうり初めてみたよ!!恐竜みたい!!」
「すごいなぁ!!」
「トゲトゲには気をつけてね!」
みんなもすごくびっくりしたみたいだ。でもだからといってみんなきゅうりを大好きになったわけじゃない。
……僕はなんだかそれでもいい気がした。
それより、もっとみんなの好きな食べ物の話を聞きたいなって思った。そしたら、もっと好きなものが増えるかもしれない!
好きな物はもっと好きになるかもしれない!
僕があの鬼みたいなかっぱからもらったきゅうりを見て、もっときゅうりを好きになったみたいに!
そんなことを考えながら、あの鬼みたいなかっぱのことを思い出した。
もし僕がきゅうりを嫌いって言ったら、どうなっていただろう?
……まぁそれは、考えなくてもいいか。
おしまい