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最果ての世界へ  作者: 律稀
知る者、知らない者
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  ダリクレア山脈とは、魔の地である。何度も調査団が派遣されたが、どれも帰ってくることは無かった。唯一、一人だけダリクレア山脈の調査から帰還した者はナクラに着いたその日に死んだ。彼の地で何が起きたのか、何が居たのかは死んだ者しか知らない。だからこそダリクレア山脈を目指す者も少なくない。実際、レオナルドもそれを希望している。彼の大望を成し遂げるにはこれ以上無いほどぴったりだった。

  レオナルドを乗せたソリは進む。ダリクレア山脈は雪が降っているのに黒ずんで、禍々しい気配に包まれていた。鋭利に尖った山頂の数々は枯木の枝を思わせた。天を突き刺すような針が高さを不揃いにして並んでいた。


(これが、ダリクレア山脈……本で読むよりよっぽど不気味だ。化け物が出てきても疑わないくらいに。ここに何があるのか、何が起こるのか、誰も知らない。でも、一番最初に知るのは、俺だ)


  レオナルドは自分が夢を叶えた姿を想像すると、自分が誰よりも大きくなったような錯覚を覚えた。自分が富や名声を手に入れ、誰よりも輝かしい存在になる、それが約束されたように思えたのだった。

  しかし、その幻想は爆音によって掻き消された。


「うわっ。何なんだよ、この音! おい運転手、こんな派手にソリを揺らすな!もっと丁寧にやれよ」

「すみません、地面が揺れたんです! そんな状況ではソリを揺らさないのは無理です」

「レオナルド! 音のした方向へ向かってくれ。何かあるぞ、学者の血が騒ぐ!」


  すっかり腰がひけてしまっている運転手を押し退け、レオナルドの父親は綱を握る。爆音がした方向には、ダリクレア山脈の周りにある樹海の入り口があった。ダリクレア山脈を不気味に見せる要因の一つがこの樹海である。

  レオナルドはここに来るのは初めてだった。しかし、樹海の不気味さは温室育ちの野生の勘など無い彼にも本能的に分かるようだった。


「おい、ここ来たら駄目な気がする! 今からでも戻った方がいいだろ、まだ仕事だってしてないだろ!」

「馬鹿者! 今ここで行かなきゃそれは学者なんかじゃない! お前を置いて行ってもいいんだぞ!」

「無茶苦茶なのが学者って訳じゃないだろ、見ろよあの木! 根本からぼっきりだ、自然に倒れたやつじゃない! 何か居るんだよ!」


  レオナルドの視線の先には、二本の大木があった。彼の言葉のとおり、根本から割れ、真っ白な地面に線を引いていた。雪を被っていないところ、新しいと考えて良いだろう。


「だからどうした、やらずに後悔して帰れと言うのか」

「違うっつの!」


  ぎゃんぎゃんと喚くレオナルドを無視し、ソリは進んでいく。彼の父親は折れた大木のそばにソリを止めた。

  そこまでは全員無事だった。

  けたたましい何かの鳴き声が耳をつんざくように聞こえた。次の瞬間、彼は何も分からないまま飛ばされていた。いや、飛ばされたことさえ、雪に埋もれた数秒後に気がついたのである。おそるおそる顔を上げた。近くにあったソリは何とか原型をとどめてはいるものの、もうその役目を果たすことは出来ないであろう。

  けたたましい何かがまた響いた。レオナルドはその声の主を探した。彼の両親も、ソリの運転手もこんな化け物じみた声など出せないであろう。確実に、近くに「化け物」が居るのだ。


「レオナルド、あなただけでも逃げなさい! 私達はあの化け物を何とかするから」


  母親の声が聞こえた。声の方向を見ると、ソリの向こう側に彼の母親と父親が居た。彼らの視線は何かに向いていた。レオナルドが彼らの視線をたどると、空中におぞましい生き物が居た。まさしく、「化け物」である。

  その「化け物」はいつかナクラの市街地の外れで見た、虎のような体に大きな翼を持ち、何故か尻尾は見たことのないような形をしていた。気味の悪いそれはこの世のものとは思えない声で騒いでいた。そいつの真下には、もう命の宿っていない運転手の姿があった。「化け物」に殺されたのだ。レオナルドは全身の血の気が引いていくのを感じた。

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