ⅩⅠ
「何を聞きたいの」
アルビノを広間へと帰らせ、サイロはレオナルドに向き直った。ちらちらと後ろを気にしているあたり、レオナルドと話すことよりもアルビノの方が彼にとっては重要である、と言葉にしていなくとも伝わってくる。正直レオナルドには気持ちのいいことでは無い。
「全部だよ。アルビノから聞いた。お前、魔法使いなんだろ」
「そう呼ばれてるみたいだね、僕は知らないけど」
自分のことであっても他人事である。サイロの興味は全てアルビノに注がれているように、レオナルドにはそう思えた。
「俺はな、お前がその魔法でどんなことが出来るのかが知りたいんだよ。事実だと言われただけじゃ納得しねぇ。魔法使いってのが、どんだけ一般人に近づけさせないようにされてるのか、俺がよく知ってることだからな」
レオナルドはナクラを思い起こした。高く、威圧するように伸びる王城の塔、堂々たる姿。その背後に、民から隔離するようにある、あの魔法使い達の住まう棟。学者として重んじられているレオナルドの両親でさえ、入ることは許されなかった。
「…………君は何を見せれば気が済むの。あぁ、こうすればいいのかな」
そう言うと、サイロは緩慢に右の掌を空に向けた。そして、その空中を睨みつけて小さく、鋭く呟いた。
「燃えろ」
レオナルドははっとしてその一点を凝視した。サイロがその言葉を発した次の瞬間に、拳二つ分程の火の玉が浮かんでいたのである。その火は、あのあの化け物を襲った火玉に酷似していた。大きさが違うだけだろう。
「…………お前はそれであれを焼いたのか」
「そうだよ、これで満足?」
相変わらず、サイロは背後を気にしていた。話している相手であるレオナルドのことなど、眼中に無いのである。失礼だと怒ってもよかったように思うが、それさえも無駄なのだろうとレオナルドはため息を漏らした。
「まだあんだよ、勝手に終わらせるな。…………お前、俺に言わなきゃいけないこと、ねえのかよ」
「言わなきゃいけないこと?…………あ」
胡乱気な顔も、少し考え込んだだけで何か気がついたように変わった。話す手間が省けたとレオナルドが思っていたら、サイロは口にするのを躊躇うように、声にならなかったものを出した。
「…………君の名前自体はちゃんと知ってたよ……レオナルド。呼ばなくても大丈夫だったし、機会も無かったから呼んでなかったんだけど、知ってたか……何その顔」
居心地が良くないらしく、サイロは捲し立てるようにそう言った。レオナルドは唖然としたのと、何故か違和感がしたのをどう処理すればいいのか分からず、大きな何かに襲われていた。
「……お、前」
レオナルド。生まれてから何度も呼ばれた、この名前。何故かサイロに呼ばれた時に、何かに縛られるような感覚がした。しかしそれも一瞬のことで、その小さな違和感よりも目の前の事実の方が、彼には衝撃的だったのである。
「はあぁあああ?! 名前知ってただぁ? 当たり前だろうがよ俺が何回名乗ったと思ってんだそれで知らないっつったらお前どんだけ注意力ねぇんだよ!! 機会無かったなんて嘘だろ呼ぼうと思えば何時でも呼ぶ機会なんてあったわ馬鹿かお前!! てか話それじゃねぇよ!!」
「え」
「これで言うのがえだけかよお前何なんだ」
「サイロだけど」
「違ぇわ!!」
「は?」
どこまでも会話が通じない彼らである。こっそりと様子を伺っていたアルビノが首を傾け、それを迎えに来たノースは会話の内容を聞いて笑っていた。アルビノにはレオナルドの大声が聞こえても、何を言っているのかは分からなかった。幸いと言うべきか否か、この里が高い地にある為にレオナルドの大声は響かず、眠っていた宙人の子供たちは起きなかったようであった。




