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最果ての世界へ  作者: 律稀
未知の里、不思議な少女
18/29

  浮遊感が長い間続いているように思えた。しかも、上昇するような。二つ折りのような体勢をしているらしい、下腹部と右半分の身体に何か当たっている感覚がした。レオナルドはそっと目をあけた。黄が混じった白、黒にさえ見える深い、深い緑、新雪のような白。浮遊感とそれら全てで作り上げられる風景が何なのか、気付いた時レオナルドは叫んでいた。


「はあああああ!!?? 浮いてるのか、下にあるの、あれ…………!!」

「大きな声の子供だな」


  知らない声に窘められたように感じ、レオナルドは思わず口をつぐんだ。口調も声も、聞き覚えの無かった人のものであった。低い、大人の男の声は響かずにレオナルドの耳に届いたらその場で消えた。先程のレオナルドの大声も反響などせずに消えたのだから、周囲に障害物が無いようだ。改めてレオナルドは、自分は宙に浮いているのだと痛感した。


「大人しくしててよ。僕達まで変に思われる」


  小さいが、確かにサイロの声が聞こえた。近くには居るらしい。しかし、レオナルドには辺りを見回す勇気が無かった。下を見た直後にすでに目を固く閉じていた。


「それは、俺が変だと言いたい、のか」


  サイロに反撃するためにまた大声を出そうとしたが、謎の圧力により勢いがどんどん落ちていく。


「案ずるな、少年。危害など加えない。じきに私達の里に着こう」


  知らない声の響きは固いが、声の表情は柔らかかった。どんな人物なのだろうか。レオナルドは安心感を覚え始めていた。


「もう地面に足つけられるから……ありがとう、長」

「何、一向に構わん。ほら少年、しっかり立て」


  声のした後、爪先に固い感触があった。久しく踏んでいなかった雪の無い地面に、レオナルドは感動すら覚えた。しかし、空中に浮いていたせいか、膝が言うことを聞かない。二、三秒程でレオナルドは尻餅をついてしまった。


「うえっ」

「レオナルド、大丈夫だったか? 立つんだったら捕まっていいぞ!」


  目の前に飛び出したのは犬の姿のノースだった。ノースはそう言うとおり、毛に覆われた身体をレオナルドに押し付けた。その暖かさにレオナルドは安堵した。


「平気だ、ちょっと驚いただけ。ありがとな」

「なら立って。後ろにここまで連れてきてくれた長が居るから。挨拶くらいしなくちゃ」


  涼しい顔で立っているサイロが大きく見えた。言われてみれば後ろに誰かの気配がするレオナルドは慌てて後ろを振り向き、驚いた。


「うわっ」

「元気な少年だ。サイロよ、そこまで厳しくするでないぞ。お主かて初めてここに来た時は腰を抜かしていただろうに」

「…………どれだけ前だと思って、」

「…………そ、……宙人…………」


  レオナルドの背後にいた人物は、豪快に笑っていた。くすんだ鳶色の髪、細められていてまだ分からないが、きっと菱形に近い形の目をしているのだろう。人間の左右の耳のある位置に、天に向かって伸びる角のようなものが生えていた。数少ない資料にも、不確かな存在とされ、生態が明記されていない人種───その宙人が目の前に居る。

  レオナルドは少し赤面したサイロに気が付かなかった。話の内容さえ半分も理解出来ていない。心臓が早鐘をうつ。頭と心臓が破裂して飛び出してしまいそうだった。


「驚かせたな、少年。宙人の長のヤトと申す。気軽に長とでも呼んでくれ。サイロが連れてきたということは、お主も御樹の童の連れなのであろう? ならば歓迎しない手は無い。じきに皆が来るであろう」


  目の前の宙人の声は紛れもなく、先程空中に浮いていた時に聞こえた声であった。レオナルドの想像よりも若かったその宙人は、愉しげに笑っていた。意味の分からない単語まで飛び交い、レオナルドは混乱していた。


「長……彼女は」

「自分の目で確かめるがよい。もうそこまで来ているではないか」


  サイロの質問に宙人が答える。レオナルドにはサイロの言う「彼女」も、宙人の言う「御樹の童」も意味が分からなかった。疑問符が頭の中で回る。最早流れに身を任せるしかレオナルドには出来なかった。宙人達の視線の先を追う。人影が幾つか見えた。サイロが軽く片手をあげると、それに応えるように細い腕が空に向けられた。ノースの顔が喜色で染まる。


「ご主人、レオナルド! 見えたぞ、俺ちょっとアルビノ様のところ行ってくる!!」

「アルビノ、様……?」


  そう言うなりノースは走り出した。人影も走っているようだ。レオナルドはそっと立ち上がった。遅めに歩き出したサイロについていくように、長とレオナルドが並ぶ。長はレオナルドよりも頭二つ分程背が高かった。歳はレオナルドよりも一回り上くらいだろうか。微笑みがうっすらと浮かんだ顔はナクラで恐れられている宙人の想像図からは想像出来ないだろう。


「暫くぶりの再会なのではないか?」

「そうだね。長は嬉しそうだ」

「御樹の童はお主らがいた方が気分がいいらしいからな。合図が聞こえた時、本当に嬉しそうに笑ってな。御樹の童の慶びは我らの慶びと等しいようなものだ」

「これから会うのが、御樹の童……」


  レオナルドは御樹が何なのか知らなかった。宙人からは御樹の童と呼ばれ、ノースにはアルビノ様と呼ばれた女の子をどうやって想像出来ようか。ただ、レオナルドの心はナクラを支配するナーラ一族の謁見の時のように緊張していた。人影に色がつく。人影の中にノースが混じっていた。人影の中でも目立つ人物が目に入った時、サイロの顔が少し綻んだように見えた。レオナルドは立ち止まった。驚愕を隠せず、棒立ちになったがサイロも長も気が付かなかった。


「………………先天性白皮症(アルビノ)


  人影の真ん中に居る、微笑みを浮かべた少女は真っ白な髪に赤い瞳をしていた。

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