Part5 黒禍団壊滅
Part5「黒禍団壊滅」
タカスカの町から北に1日ほど、ホッカ王国の正規軍の輜重隊が遥か北のワッカを目指し進んでいた。もちろん正規軍の護衛隊が同行しおり、盗賊共に襲われることなどありえなかった。しかし、黒禍団が無謀とも思われる賭けに出た、もちろん正規軍の敵ではない、早々に壊走した。
「者どもつづけ!!」
護衛隊の指揮官は愚劣にも深追いした。そして黒禍団別働隊が輜重隊をまんまと出し抜いた。
☆☆☆☆☆☆
タカスカギルドの食堂で僕達は今朝も意見を交わしていた。
「だから、お二人はどう見ても只の女子供には見えないっす。」
「遠目には判らないんじゃないか?」
「だから、鎧着てそんな長い剣を背負っている女は普通いないっす。」
「だから、ちょっと変装してさ。」
「いくら変装しても、リリッカさんとシャルさんは有名すぎるんっす、下手したら、女、子供と言うだけで避けられそうっす。」
「どうだ、男に変装するってのは。」
「本末転倒っす。」
「大仕掛けするほど金は無いしのう。」
「はい、それに見合う報酬もないっす。」
「ところで、ダンナ、まだLv1なのか?結構頑張ったよな。」
「はい、残念ながら。」
「普通あんだけ魔法使ったり、喧嘩場走り回ったりするとLv上がるよな?」
「ふーむ、ちょっと見せてみよ。」
<シャルさんの鑑定スキルで、頭の奥まで見られてしまう。>
「う~む、やはりのう。本来魔法力と体技は相反する物ぢゃ、亭主殿は魔法剣士故両方の経験値が上がらないとLvアップできぬようぢゃ、つまり魔法力の経験値と、剣技の経験値が打ち消し合って経験値が貯まっておらぬのう。」
「それじゃ一生Lvアップなしっすか?」
「いやそうでもない、得た経験値より相反し無効になる経験値の方が若干少ないようぢゃの、頑張ればなんとかなるwwww。」
<あのくそ女神、それで魔法剣士と言ったとたん冷たくなったのか。>
「ハイハイ、そのへんにしておいてね、今日も護衛の仕事があるわよ。」
「ナナさん、今日の護衛賃はいくらだ?」
「そうね、アサカワまで馬車4台と12名で合計760ギルね。」
「馬車1台100ギル、人ひとり30ギルすっかり相場になちゃったすね。」
「あら、貴方達は特別相場よ、なにせ貴方達には黒禍団でさえ道を譲るってすっかり有名になったから。」
「余所でも貴方たちは有名よ、アサカワギルドに顔出してみてね、タカスカまでの護衛が有ったら往復稼げるわよ。」
「その上タカカワギルドや、フカカワギルドからも問い合わせが来てるわ♡」
「流石にタカカワやフカカワは、日帰りはきついぜ、ナナさん」
「あら、あごあし付の依頼よ、なにせ貴方たちは今売れっ子なんだから。」
「有難うございます、助かりますナナさん。」
<ナナさんの事だ如才なく話が付いているんだろう、そしてギルドも潤っているはずっす。>
「さあ今のうちに出発すれば暗くなる前に帰ってこれるっす。」
「あー、行こうぜ。」
「うむ。」
☆☆☆☆☆☆
後日、日が大分西に傾いた頃、ギルドに非常招集が有った。
ギルドにはホッカ王国の正規軍が来ていた。
「はいはい、皆聞いてちょうだい。とうとう黒禍団討伐に正規軍が乗り出したわ、貴方達にも協力して欲しいそうよ。」
「私は第2師団第2大隊長ヒュバート・デグレスであります、此度の黒禍団討伐作戦についてご説明いたします、黒禍団の一味はここから南のシュンコウの森に立て籠もっています、わが大隊は日の出と共に南から攻め入ります、西側は急峻な崖であります、わずかな手勢を伏せておけばよいでしょう、北側には手勢は置きませんが、ヨハン・スミソン率いるA騎兵中隊が時間差で突入します。タカスカギルドの諸君には東側に逃げる者をお任せしたいと思います。」
「さあ皆稼ぎ時よ、頑張ってね。」
「おー!!」
「貴殿は有名なフールファス殿とお見受け致した、此度の戦について御高見を賜りたい。」
<えっ、有名?>
「はい、黒禍団の壊滅は間違いないものと、さらにこちらの損害も極めて軽微と見ました。」
「おー、者ども聞いたかフールファス殿が我らの大勝利を保証してくださったぞ。」
「おー!!」
それから、さすがに正規軍は帰ったが、ギルドメンバーは皆機嫌よく大勝利の前祝になだれ込んだ。
☆☆☆☆☆☆
僕達は早々にギルドを抜け出し、リリッカさんの借家に帰ってきた。
「ダンナ、大勝利を安請け合いして良かったのか?」
「良いんっすよ、戦の前は戦争のプロの正規軍でも不安な物っす、誰でもいいから、大勝利と言ってほしいんっす。それに本当に大勝利になるっす。」
「そうかな?奴等も必死だぜ。」
「亭主殿そろそろ出かけるか?馬も用意したぞ。」
「えー、攻め込むのは夜明けだぜ、まだ夜も更けていないぜ。」
「えーい、脳筋は考えるな!」
「まあまあ、僕が黒禍団の首領なら、正規軍相手に戦争をするようなことはしないっす、部下たちを囮にして夜のうちに逃げるっす。」
「うむ、今日のギルドでの話はそろそろ伝わっていることぢゃろう。」
「そうなのか?」
「はい、僕らは首領を狩りにいくっすよ。」
☆☆☆☆☆☆
夜更けのシュンコウの森の南、何やら馬に荷物を積んでいる一団を発見した。
「ふーむ、20人くらいかのう。」
「思ったより多いっすね?」
「シャルさん一気に方付くっすか?」
「そうぢゃのう、雷でも落とすかのう。」
地面に魔方陣が出現し、赤、青、紫、金色など様々に輝きだす。
そして、怪しい一団の頭上から赤、青、紫、金色の稲妻が豪雨の様に降り注ぐ。
“阿鼻叫喚”
「壮観っすね。」
「うむ、知っている限りの雷神に声をかけた、奴らも暇ぢゃったのだろう。」
僕らは、一団に近づき様子を見る。
「まあ、黒焦げだけど明るくなったらピアスが確認できるな。」
「そうっすね。」
「首領はおるかのう?」
「多分いないっす。」
「うん?」
「逃げ出すにしては、荷物が多すぎるっすね。」
「ふむ、こやつらも囮と言うことぢゃな。」
「首領はどこに逃げたんだ?」
「おそらくタカカワかフカカワの駅馬車でサッポの都っすね。」
「ふむ、妥当ぢゃな。」
「なんでそうなるんだ、サッポの都って正規軍がうじゃうじゃいるぜ?」
「うじゃうじゃいても黒禍団を探している訳じゃないっす。首領が持ち出したのは小さくて高価な物、多分宝石かなんかっす、それを換金しやすいのはサッポの都っす。」
「うむ、灯台下暗しぢゃのwww」
やがて、あたりがだんだん明るくなってきて、騎馬隊が大挙して押し寄せてきた。
「何者か?」
「ども、タカスカギルド所属のフールファスです。」
「おお、貴殿が。私はA騎兵中隊長ヨハン・スミソンです。怪しい雷光を見ましてな、予定を早め駆け付けたところであります。如何なされた?」
「先程の稲妻は、このシャルさんの魔法です。ここで黒焦げになっているのは、黒禍団の幹部たちです、闇にまぎれ逃げ出すつもりだったのでしょう。」
「成る程、承知いたしました、死体はわが中隊で検分し、貴殿らの手柄として報告いたします。」
「有難うございます、早く着てきて戴いて良かったです、黒禍団が壊走するのは思ったより早そうです。」
「さようですな、幹部が逃げ出したとあれば指揮する者が居ませんからな。」
☆☆☆☆☆☆
指揮官を失った黒禍団は早々に壊走し、正規軍とギルドの混成軍は大勝利となった。
翌日、僕らタカスカギルドに居た。
「あらあら、貴方達他のメンバーや正規軍まで出し抜く大活躍じゃない。」
「なんか人が少ないな?」
「そうね、黒禍団も居なくなったし、ここには賞金首が居なくなったわ、タカスカの町始まって以来の平和よ。」
「そうか、早速余所に稼ぎに行くやつが増えたんだな。」
「ふーむ、我らも失業者ぢゃのうwwww」
「なんで、黒禍団の連中は急に正規軍の的になったんだ。」
「初めからの筋書き通りっす。」
「筋書き?」
「多分、シャルさんのせいっす。」
「ほう、妾が?」
「黒禍団はリリッカさん一人でも手を焼いていたっす、そこにシャルさんまで現れて、黒禍団を狙いだした、しかも護衛の仕事まで始めたから、収入が極端に減ったはずっす。」
「それで?」
「首領はもう潮時だなと思ったっす、そこで、正規軍の輜重を狙ったっす、多分深追いした指揮官は、黒禍団の息が係っていたはずっす、首領の読み通り正規軍が現れ足手まといの部下たちを始末してくれたって、筋書きっす。」
「成る程ねえ、黒禍団が正規軍に手を出すなんて、変だなあって思っていたわ。」
「それより問題は失業の件っす。」
「俺たちも、旅に出るか?」
「あら、貴方達は少しの間町に留まって欲しいって、ヒュバート隊長さんから言伝があったわ、貴方たちの手柄を王様に上奏するって。」
「ヒュバートさん良い人っすね。」
「まったくのう、人の手柄を横取りするものまで居るのに、民間人の手柄を上奏とはのう。」