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Part4 黒禍団

Part4 「黒禍団」


暫らく何もせずぶらぶらと過ごした僕たちは、久しぶりの仕事を求めギルドへやってきた。


「ナナさん、もう動物の依頼は無いのかあ?」


「そうね、貴方達が皆片付けちゃったわね。」


「いよいよ、黒禍団を的にしなきゃならねえか?」


「黒禍団ってリリッカさんと出会った日の右耳のピアスの人達すっか?」


「そうだ、この辺に巣食っている盗賊団だよ、かなりあくどい奴等で、有り金全部吐き出せば、命だけは何とか助けてくれるらしいが、黒禍団というだけで賞金首さ。」

「俺は命の遣り取りなんか、物心付いた頃からだけどよ、ダンナは今までに人を殺したことが有るかい?」


「もちろん無いっす。」<キッパリ>


「だよな、ダンナは優しいからな、相手が人だと嫌がるだろうから、今まで避けてきたんだけどな。」


「気を使ってもらって有難うございます、でもここで生きて行く為には避けては居られないんっすよね。」


「まあ、そういう事だ、ダンナも腹括ってくれ。今までの様に相手は逃げてくれねえ、おとなしく捕まっても吊るされるだけの賞金首だ、死んで元々だからな、下手すれば相打ち狙いってのまであるからな。」


「ハイワカリマシタ」<ヒキッ>


「シャルは…俺の10倍ぐらい殺ってそうだなハハ。」


「うむ、いちいち数えてはおらぬ。」


「黒禍団相手だと上手くいっても、逃げ帰ることになる、馬が必要だ。」

「ところでダンナ馬には乗ったことはあるかい?」


「いいえ、全く。」<キッパリ>


「あー、早く馬にも慣れてくれ、今日は奥の手使うけどよ。」


「ハイワカリマシタ」<ヒキッ>


馬屋のバートさんの所へやってきた。


<馬って結構でかい。>


「バートさん、メルル出してくれ、それと早い奴を2頭たのむ。」


「リリッカ、メルルは特別料金ってのは知っているよな?」


「もちろんだ、今回はしょうがない。」


バートさんは僕を繁々と見てうなずく。


「この色男がそうか?漂流者だって?成る程そういう事か。」


バートさんは厩の方へ歩いて行く。


「ダンナ、メルルは恐ろしく賢い馬だ、全くの初心者を乗せても勝手はしなし、それどころか細心の注意を払って運んでくれる。ダンナは鞍にしがみ付いているだけで良い。だから特別料金なんだ、高いから早く普通の馬に乗れるようになってくれよ。」


「最善を尽くします。」


バートさんは3頭の馬に鞍を乗せ手綱を引きながら連れてくる。


「御嬢さん方はうちの足自慢を任せる、色男はこっちに来な。」


バートさんは3頭の内一番小ぶりで、褐色の馬の手綱を柵に結わえて手招きしている。


「まず跨る練習からだ、いいか色男このメルルはすべてを心得ている、お前が間違って蹴飛ばしても顔色一つ変えない、だから安心して思いきって飛び乗れ。」


僕はリリッカさん達を横目で見た、鐙に足を掛けひらりと跨っている。


<シャルさんあんなにちっこいのに、カッコよく馬に乗っている。>


見よう見まねで鐙に足を掛け、鞍に手を伸ばす。


「色男思いっきり飛べ!」


僕は鞍の上で何度もジタバタして何とか跨る、メルルは知らん顔してくれている。


<さすが、特別料金。(*^。^*)>


「そうだ色男その調子だ、今日1日何回か跨れば慣れる。」


「はい、有難うございます。」


<それにしても、僕の二枚目スキルはなぜ男相手にしか効かないんだろう。>


「いいか色男手綱を操るのはまだ先だ、今日の所はメルルを信用して全てまかせろ、こいつは道を間違ったりしない。」


「はいぃ…」


「いくぜ、ダンナ。メルルついてこい。」


3頭は並足で街道を行く。


<思ったより、ケツが痛い。>


「ちょっと休憩しようぜ。」


馬を下り安堵のため息をつく。


<ケツが痛いよ。(T_T)>


「ダンナ帰りは急ぐことになる、今からケツ擦っている場合じゃないぜ。」


「はうっ。」


「さて、どこへ行こうかのう?」


「当てはないんっすか?」


「ダンナ盗賊団の居場所なんて本人達以外は知らないぜ。」


「なるほど、街道筋で、適度に人が通り、町からは離れていて、ちょっと広めの場所っすか?」


「ほほう、亭主殿はまるで経験者のようぢゃのwww…」


「ダンナ?」


「獲物となる商人の荷馬車が通る街道筋、すぐ応援が駆けつける様な所は論外、できれば戦闘は避けたいから、数で囲める広めの場所。ちょっと考えれば誰でも解るっす。」


「戦闘は避けたい?」


「死に物狂いの人間は危ないって教えてくれたのはリリッカさんっす、そんなの相手にするより、黙って有り金置いて行ってくれた方が楽っす。」


「うむ、有り金置いた者の命は助ける、そういう事ぢゃな。解ったか脳筋。」


「だけどよ、商人たちも護衛団を雇っているぜ。」


「裕福で、護衛団を雇ってもそれに見合うだけの商品を運ぶ、そんな商人はざらには居ません、始めから対象外なんっすよ。」


「そういうもんか?この先の峠の途中におあつらえ向きの場所がある。」


「問題はどうやっておびき出すかっすね。」


「そこは俺に考えがある、任せてくれ。」


「ほう、我らは良い獲物には見えんが、リリッカの考えとやらを見ようではないか?」


☆☆☆☆☆☆


峠を1時間ほど登ったら如何にもといった場所にでる。


「ふむ、結構な数が潜んでおるのう、どうするつもりぢゃ。」


「俺は、“紅蓮”のリリッカだ、俺の相手になる奴はいないのか!!」


<あー、これで出てくる奴は馬鹿っすよ。シャルさん吹き出したらダメっすよ。>


「応!!“剛腕”ドルジス様が相手になろう!!」


<あっ、馬鹿が居た。>


わらわらと30人程が現れた、ドルジスと名乗った熊のように馬鹿でかい男以外皆腰が引けている。急いでドルジスの鑑定をして見る、Lv44!リリッカさんとシャルさん以外でLv40超えは、始めてみた。スキルは“怪力”等パワー系だけだ。


「隊長?リリッカには関わるなって、お頭が!」


「ぐゎはは、このドルジス様に任せておけ!」


これまた、馬鹿ほどでかい戦斧をブンブン振り回し、やる気満々だ。


<間違いなく馬鹿。>


「リリッカさん油断しないでください、あのパワーは本物です。」


「へへっ、手出し無用だぜダンナ。」


馬鹿の戦斧と、紅が火花を散らす。スピードではリリッカ、パワーではドルジス、誰の目にもそう見えた。


「この、チョロチョロしおって。」


「てめーの芸は馬鹿力だけか、自慢の力を見せてみろ!!」


紅が、真っ向上段から振り下ろされる、ドルジスの戦斧が頭上で紅を受け止めそのまま膠着する、ドルジスは両腕で戦斧を構え、紅の圧力に耐えている、どれだけの力が入っているのだろう、ドルジスの額や首筋に太い血管が浮き出ている。


<リリッカさん、そのパワーは反則っす、馬鹿力相手にパワーで押し切るつもりっすか。>


バガッ!戦斧が真っ二つに割れ、ドルジスの額に紅が食い込む。

ドルジスは奇妙なマリオネットの様にダンスする。

右耳を削ぎ落しながら、リリッカさんの獰猛な笑みが黒禍団の集団に向けられる。


「皆さん!逃げる人は追いませんよ!!」


集団が動揺する中、一人の長身のエルフ族の男が前に出る。


「どうやら、そうもいかぬらしい。」


大きな弓を持ったそのエルフ族はドルジスを無表情に眺め。


「私は“瞬弓”のリュートだ、ただで帰る事は出来ぬな。」


「ふむ、呪いの子か?汝の相手は妾ぢゃ。」


「そういう貴様は穢れた血、“爆炎”のシャルロッテか?」


「如何にも、宿命ぢゃな、いつでも良いぞ。」


リュートの右腕が後方にぐんと引かれる。


<何時矢を抜いた?>


刹那、リュートの体が爆発した。

リュートの居た場所は大きな血だまりだけが残っている。


「シャル~、右耳まで吹き飛ばしちゃだめだ。」


シャルさんは鷹揚に歩き、血だまりの中から、ピアスが3つ付いた右耳を拾う。


「ちゃんと心得ておるわ。」


「何したんっすか?」


「ふん、彼奴の血液を一瞬で沸騰させただけよのう、それで爆発したように見えたのぢゃ。」


僕は、凄まじい血臭に吐き気を覚えながら、もう1度黒禍団の雑魚に向かって叫ぶ。


「追わないので、逃げてください!!」


雑魚たちは今度こそ先を争うように逃げ出す。


「僕たちも早く逃げましょう。」


「そうだな、急ぐぞ。」


僕たちは急ぎ峠を下り、広い街道に出たところで休憩する。

<ケツが痛いよ!!>


「ダンナ、なぜ逃がしたんだ、奴ら腰が引けていた狩り放題だったのに。」


「あの人数に死にもの狂いになられたら、厄介っす。盗賊の応援が来る前に逃げる、始めっからの予定っすよ。今後のためにも今日の所は逃がしておいた方が良いっすよ。」


「うむ、亭主殿が正しいのう。」


「そうか~?」


ドルジスとリュートの右耳を改めて確認する。


「両方ともピアスが3つっすね。」


「ああ、二人とも大幹部だったらしいな、賞金も大分期待できるぜ。」


「大幹部?ピアスの数で盗賊団の階級が判るんっすか?」


「ああ、ぺーぺーは1つ、首領は4つらしい。」


「思ったより統制がとれているんっすね。」


「首領は切れ者って噂だぜ。」


「なるほど。」

「ところで、シャルさん呪いの子ってなんっすか?」


「ふむ、もともとエルフ族は魔法と弓術を良くするのぢゃが、その昔エルフ族のなかのある一族が、ダークエルフを穢れた血と称して殊更に迫害してのう、何故かその一族の子孫で全く魔法を使えぬ者が生まれる様になったのぢゃ。」


「それが呪いの子?」


「まあそういう事ぢゃ、リュートとか申したの、あ奴の弓はごてごてと飾り付けてあったがのう、魔法的な力は何も感じられなかったのぢゃ。」


「なるほどっす、一族の因縁と言う訳っすね。」


「ふむ、あ奴もエルフの中で爪弾きにされ、盗賊に身を落としたのぢゃろう、そして妾と巡り合うとは因果な事よのう。」


「おい、今日はもう帰ろうぜ、もう仕事はできないぜ。」


「そうっすね、これからはどうやって黒禍団を誘き出すか考えないとダメっすね。」


「ふむ、そうぢゃな、今日みたいに馬鹿がいるとは限らぬからのう。」


「馬鹿馬鹿言うな!ダンナ帰り道馬の扱いを教えてやる。」


「はい、お願いします。」


大幹部の賞金は思ったよりずっと高かった。僕たちは暫らく遊んでいられる、その間に黒禍団を誘き出す算段を整えなけらばならない、さらに僕はバートさんに授業料を払い手綱捌きを教わった。


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