チート勇者に成ります
Prologue
☆☆☆
いつもの雑然とした駅のホーム、みんな家路を急ぐのか、それとも大切な用事があるのか、おしなべて急ぎ足である。
そんな中僕は特に急ぐ用事が有るわけではなく、家で待つ人もなく、ゲームくらいしかする事もない、孤独を相棒に<ちょっとハードボイルド風、と自分では思っている。>、ぷらぷらと雑踏の中を漂い歩いている、もうすっかり世間様から疎外されてしまっている。
<あ~あ、人生早々と負け組フラグが立っちゃたな~>
などと不正規雇用の自分の境遇を嘆いていたら、ふとドアが目に付いた。
<こんな所にドアなんてあったけ?>
そのドアは、何もその内側の正体をしめす、何の手掛かりも無く、何の案内も無く、かといって、“部外者立ち入り禁止”等という拒絶感も無い、全くの正体不明然として、所在無さげにぽつんと存在している。
<いつもここを通るけど、こんなドアはなかったよな~>
などと不信感と好奇心のないまぜで、まじまじとドアを見る。
<やっぱり正体不明だよな、でも拒絶されている感じは無いし、開けてみようか
な?>
少しの間躊躇したけど、結局好奇心がわずかに上回った。
そうっとドアを開け、恐る恐る中に入ってみる…
☆☆☆
「いらっしゃいませ~!」
甲高い女性の声に出迎えられ、思わず声の主を凝視する…
「私は、慈愛の女神アリスよ。」
回れ右をして撤退しようと思ったが、すでにドアはどこにも無かった。
「や~ね、変な勧誘はしてないわよ。」
「僕は非正規雇用でお金は持ってないっす。親戚も友達もいないっす、悩みも全くないっす(;´Д`)」<あ~上ずっている>
「だから。宗教の勧誘じゃないってば、私のような本物の神は勧誘なんかしないものよ。」
キョロキョロと探してみたものの、やっぱりドアはなく進退窮まった。
「マジすっか?(((;゜Д ゜))) 」
「そう神様」
<結構可愛いのに、しかも巨乳なのに、痛い人なのかな?>
「あ~んね!神様を前に良い度胸ね!」
「へっ…(゜Д゜!! 」
「なに考えているのか、あなたの顔に書いているわよ!」
「はう…( ;∀;)」
「まあ、それだけの度胸があれは、私の目的にぴったりよ♡」
「あの~目的って?僕なんか、食べてもまずいっすよ(;´Д`)」<たぶん>
「や~ね、変なこと言わないでよ、あなたは選ばれたの、うふっ…♡」
「あの~何に選ばれたのですか…」
「そーね、手っ取り早く言うと、異世界転生のチート勇者ね♡」
< ―――(゜∀゜)キタ――――!! >
「あのねちょっと説明するわよ、あなたの現神の世界でも、異能の人っているでしょ、例えばアレクサンダー大王とか、スティーブ・ジョブズとか、坂本竜馬とかね♡そう彼らも異世界転生のチート勇者たち♡別の世界からやってきて全くその世界とは違うやり方で成功しちゃう人たち」
「僕もチート勇者になれるんですか?(´▽`)」
「そう、神様が言っているんだから間違いなし!」
<オー…人生一発逆転!!>
「それでね、転生先は私の世界♡剣と魔法のRPG世界よ♡あなた大好きでしょ、うふっ♡」
「はい…(#^.^#)コクコク」
「それでね、あなたにチート勇者らしい素敵なスキルをプレゼントしちゃう、うふっ♡まず、鑑定能力ね、これは相手のLvとスキル等色々解っちゃうスペシャルスキルね」
「はぁ…(・_・;)」
「あー!解ってないなもう、あなた転生したらLv1よ、すぐ死んじゃうんだから、生き残るコツは自分より強い相手と戦わない事、相手の特徴、弱点や得意技を見切る事、戦う相手のLvとスキルが先に解っちゃうなんて、まさにチート勇者のためのスキルよ♡」
「えっ…Lv1?って、オレツエーーーじゃないんっすか?」
「うん、私のところは皆Lv1からやってもらう事になっているの。」
「皆って、いっぱい居るんっすか?」
「あなたの居た世界でも、異能者は1人じゃないでしょ、それにしょっちゅう行方不明者が出るじゃない、私たち現神は、それぞれ自分の管轄する世界を、ちょっとかき混ぜてもらう、転生チート勇者が必要なの」
「そういう物なんすか…( ´゜Д゜`)ンマッ!! 」
「まあなんにせよあなたはチート勇者なんだから、好きなスキルを付けてあげる♡言ってみて♡」
「二枚目」<きっぱり>
「あなた解っているの、ゲームと違うんだからね、すぐ死んじゃうのよ、死んだら終わりなのよ、これまで、何もなすことなく死んでいったチート勇者が何人居るかわかっているの?」
「人類の半分は女性っす、その半分から絶大な支持を得ることはきっと役に立つはずっす…タブン !(^^)!」
「なにか女に偏見があるの?」
「いえ、モテモテの気分を一度味わってみたいだけっす。」<きっぱり>
「ふ~ん」
「あと、運命の女…(///o///)」
「なんなのそれ…」
「いやあ~、なんか運命の赤い糸で結ばれている、なんて憧れなんっすよね((w´ω`w))テレッ 」
「モテモテなのに運命の女まで居るの?…あなた苦労するわよ」
「月よ我に七難八苦を与えたまえ!」<きっぱり>
「ふ~ん」
「それから伝家の宝刀」
「なにそれ」
「いや~、エクスカリバーとか菊一文字則宗とか、チート勇者には付き物かなって思っちゃって(´▽`)」
「ふ~ん、きくいちもんじ、ね?」
「え~とそれから、それから…\(゜ロ\)(/ロ゜)/」
「まあ…これで良いわね」
<なぜか、女神のご機嫌を損ねたようで、急に僕に対する興味が引いたようだ>
「最後に自分のジョブを決めてね、剣士とか戦士など自分の体を究極武器とすることを目指すのか、深遠なる真理を探究する魔法使いとか、ちょっと脇役だけど、パーティには必要不可欠な治療士とか、普通は色々転職するものだけど、チート勇者は、転職不可だからね、ちゃんと考えてね!」
「え~(+_+)、なぜ、転職不可なのですか?(((c=(゜ロ゜;qホワチャー 」
「そういう物なの、いいから早く決めなさい」プンプン
「はい、それじゃあ、魔法剣士、でお願いします」
「マホウケンシ、ナニソレ(棒読み)」
「いやあ、剣と魔法の世界だから両方楽しまなきゃ損かなって?(((〃ω〃))テレッテレッ((〃ω〃))) 」
「ふ~ん、解ったわ、ちゃっちゃと行って、ちゃっちゃと死になさい。」
物凄い威圧感だ、なぜか女神のご機嫌を損ねた僕は、現神への恐怖を感じた
「ハイワカリマシタ」<ヒキッ>
暗転…、どこかへ落ちてゆく…
☆☆☆
目が覚めたら空が青かった。
<どこだここ>
あたりを見回してみると。
<山の中だけど、そんなに鬱蒼としているわけではない、人里が近いのだろう、木の切り株も目立つ>
「冷静に状況判断している場合じゃないっすよ…(――;)」
<そうだ確か、僕チート勇者になったんだ ついでに女神のご機嫌を損ねたことを思い出す。>
「あー、しょうがない。」
<女神が言っていた、鑑定スキルってどう使うんだ?>
「自分の状態を確認したかったのに。」
すると目の前に文字が並ぶ。
名前…フールファス
ジョブ…魔法剣士
性別…♂
レベル…Lv1
二つ名…なし
スキル…二枚目、運命の女、名剣“きくいちもんじ”、剣を振り回す。
魔法…ファイア、サンダー、ウォーター
どうやら僕の鑑定結果らしい。意外と簡単だな、見たいと思うだけで発動するみたいだ。
「フールファスって名前なんだ~なんかな~?(;´Д`)」
「剣を振り回すって…Lv1じゃ、しゃ~ないか」
「二つ名ってなんだ?」
「でも、早速魔法が使えるみたいっす (^<^)」
とりあえずもう一度辺りをキョロキョロと見渡す、特に不審な物はないようだ、僕の服装も、安物のスーツから、地味な作業服に変わっている。
<まあ、Lv1の装備なんかこんなものか>
今度は入念に辺りを見渡す。
ふと。白いヒノキの棒が目についた、拾ってみるとなんか凄く良い感じ、手にしっくりと馴染み、振りやすい。
<なんか良いもの拾ったかな?>
改めてよくヒノキの棒を眺めると、何か文字のようなものが彫ってある。
“きくいちもんじ”
そう読めた…<あのくそ女神!!(* ´―`)_/))”バシバシ >
気を取り直して、魔法を試してみよう。ちょうど目の前にある立木を眺め
「ようし、あれが的っす!」
立木に意識を集中し
「ファイア!!」
と言ってみると、立木の根元から火柱が渦を巻き立ち上がる、どうやら意識するだけで魔法は使えそうだ。
<スゲー (*^。^*)>
的になった立木は涼しい顔で立っている。
「ん? (-.-)」
的には全く変化が見られない。
気を取り直してもう何度か試してみる「ファイア!!」<どうやら消えろと意識するまでは火柱が立っているらしい。>
盛大に火柱が立ち上がるが、的は涼しい顔をしている。
恐る恐る的に近づいてみると<ん?熱くない>更に恐る恐る手を伸ばしてみると
<全然熱くない!!>
「ビジュアルだけか~い!! (――;)」
<あのくそ女神!!>
気を取り直して「サンダー」を試してみる。
「ガラガラ、ビッシャーン」
またしても的は涼しい顔をしている。
「サウンドだけか~い!! (――;)」
もう取り直す気も残っていないが。
「ウォーター」と言ってみる。
すると、直径1メートル程の水球が出現し、不思議なことに宙に浮いている、手で触れて確認してみると確かに水である、飲んでみると結構旨い、<どうしろっていうんだ>なんとなく、的に向かって水球を投げつけるイメージで手を振ってみると、ふらふらと水球が的に向かい飛んで、触れると弾けた、的は気持ち良さそうである。
…ちょっと泣いた
<あのくそ女神…>
しばし呆然としてから、立ち直った、<ともかく、何度魔法を使って見ても何も消耗した感じはしないので、たぶん使い放題だ、ビジュアルとサウンドは陽動に使えそうだし、重たい水を持ち運びしなくても、飲み水に苦労することはなさそうだ>
「よし…」
なにが“よし”なのかは解らないけど、とにかく歩き出そう
<ともかく明るいうちにどこか安全な場所を見つけたい>
更に周囲を見渡し、木の切り株を観察する、<ふ~む北は向こうらしい>でもそれが何の問題の可決になっていない事に気が付き、呆然とする。
<もうどっちでも良いから移動しよう、ここに居てもしょうがない>
ぼくは“きくいちもんじ”を腰に差し、てきとうな方角に向かって歩き出した。