4話 世界は残酷で...
「なんだと!!魔王がこのキルト町を襲撃しているのか?!」
「はい、その通りです!!、現在町の兵士や冒険者が応戦していますが何せ突然の事だったので...」
「対応が遅れているのか?」
オルガは少し考えると大きな声を上げた。
「私はオルガ!!、上級魔道師だ!!この中で戦える者は私についてこい!!。魔王からこの町を守るぞオオオ!!」
「「「「オオオオオオオオ!!!!」」」」
オルガは自分の杖を掲げて宣言すると冒険者らしき人が雄叫びを上げながら拳を天井に突きだす。
「(流石、上級魔道師。僅か数秒で冒険者をまとめて士気を上げたるとは)」
想像以上の速さで討伐隊を結成させたオルガの手腕にリュウは感心する。
「で、現在魔王の位置はわかるか?」
「えっと、現在の情報では...」
受付嬢が町のあちこちから集まった情報が書かれた紙をパラパラめくり魔王について探していると、突然、爆発音が聞こえ、オルガ率いる討伐隊とリュウ達は冒険者組合の外飛び出した。そして目の前に広がる光景に唖然とする。
「なんてこった!!」
誰かが呟いた。
「嘘だろ?」
リュウの口から言葉が漏れる。そしてリュウがそう思うのも無理は無かった。何故ならオーガやトロール、ゴブリンと言った魔物がすでに冒険者組合の前まで進入していたのだ。冒険者組合は町の中でも中心に近い所にあるため、魔物がここまで進入すると言うことはこの町の半分が魔物に占領されたことになるのだ。
「うろたえるな!!」
うろたえる冒険者達にオルガは一喝する。
「まだ勝機はある!!」
オルガはそう言うと目の前にいる魔物達を同時に雷で撃ち抜く。
「グアアアア!!」
「ギイイイイ!!」
「ジジジジジ!!」
魔物達が奇声を上げて倒れると冒険者達に歓声が上がった。
「スゲエ!!一撃だ!!」
「上級魔道師はだてじゃない!!」
「カッコいい!!」
いつものオルガなら歓声に照れて体をクネクネさせるのだがオルガは魔物の進入が異常に早い事に悪寒を覚えていた。
「(もし、私の想像する最悪のケースだったら...)」
オルガは右手の爪を噛み険しい顔をすると杖を掲げて歓声を抑える。
「みんな聞いてくれ!!、今回来た魔王は勇者様を倒すほど強い!!」
オルガの言葉に人々は暗くなる。
「だが、勝機はゼロでわない!!、あの勇者様が手も足も出ずに負ける訳が無いからだ!!」
暗くうつ向いてた人々に少し明るさが戻る。
「しかし、皆を守りながら戦って勝てる相手でもない!!。そこでは我々は逃げ遅れた住民を助けながら避難場所に指定されている中央広場に向かい、魔王を討伐する組と町民を町から避難させる組に別れて行動する!!。今は時間が無いからあとは広場で指示する!!。それでは広場に向かって行くぞおお!!」
「「「「オオオオオオオオ!!」」」」
オルガ達に続いてリュウやローズも中央広場に向かって走った。
十数分後...
「まさかこんなことが?!」
中央広場に着いたオルガは唖然とした、予定では町民や兵士が集まっているハズの広場に誰もいなかったからだ、いや、正確には生きている人が誰もいなかったのだ。
「もっも恐れていた最悪の事態が起こってしまった」
広場は様々な人の死体で埋め尽くされ、中にはリュウやローズのような幼い子供の亡骸もあった。
「やれやれ随分と遅い到着ですねぇ」
広場の中央に黒いモヤモヤした人影があり、真っ赤な目でこちらを見ている。そして黒い人影が右手で人の首を掴んでいることにリュウは気づき顔が真っ青になった。
「嘘だろ?!、嘘だと言ってくれ!!」
「まてリュウ!!」
リュウはオルガの静止を振り切り黒い人影に向かって走る。
「氷蓮花!!」
リュウは綺麗な花の模様が描かれた氷の刀を作ると自分の持てる最大の魔力を刀につぎ込んで切り付ける。
「遅い...」
黒い人影はリュウの一撃を軽く片手で受け止める。
「母さんを放せ!!」
「ほう、これはお前の母親かぁ?」
黒い人影は薄気味悪い笑みを浮かべるとリュウに母親を投げ付ける。
「グハッ!!」
「リュウ!!」
ローズが叫ぶ。
「悪い悪い、つい手が滑ってしまったよ」
黒い人影は全く反省する素振りも見せずに笑って言う。
「お母さん!!お母さん!!」
リュウは母親を揺さぶるが母親はすでに息絶えていた。
「かあさあああああんんんんんん!!!!!」
リュウの脳裏に生きていた母さんの姿がよみがえる。
「リュウ、愛してるわ」
「リュウ、無茶しちゃダメよ」
「リュウ、こんな所で寝てたら風邪引くわよ」
「リュウ、リュウ」
リュウは立ち上がり復讐に満ちた目で黒い人影を睨み付ける
「おのれぇ...よくも母さんを...」
リュウはゆっくり歩きながら黒い人影に近ずく。
「リュウ落ち着け!!、相手は恐らく魔王だ!!お前に勝ち目は無い!!引けえ!!」
怒鳴るオルガを無視してリュウは黒い人影に向かう。
「フフフ、俺が憎いか?人間の子供よ...」
「ああ、憎いさ...だが安心しろ楽に殺してやらないからなぁ」
「それはこっちのセリフですよ哀れな子供よ...」
言い終わったとたんに黒い人影は視界から消えリュウの頭を蹴りつけリュウは人形のようにぶっ飛び数十メートル離れた建物に衝突し土煙をあげる。
「ああ、何て脆いんだ人間は...」
黒い人影はまるで劇を演じる役者のように振る舞う。
「よくもリュウを!!」
「まて、ローズ!!」
黒い人影に向かおうとしたローズを引き止めオルガはローズに小声で言った。
「恐らくリュウはまだ助かる、あの子は強い子だからな...だけどあの魔王は私達では倒せない。だからローズはリュウを連れて一部の冒険者達と市民を連れて逃げて...」
「そんな!?じぁオルガさんは?!」
ローズはオルガの顔を真っ直ぐ見ると、そこには優しい顔をしたオルガさんの笑顔があった。
「どんな人でも遅かれ早かれ死ぬわ...それに可愛い教え子をこんな所で死なせてたまるか!!ってんだ!!」
オルガはローズの頭を優しくなでると、黒い人影に向かって堂々と立つ。
「私の名前はオルガ・カノン!!、Aランクの冒険者で上級魔道師だ!!」
「おっと上級魔道師様でしたか...俺は魔人の魔王ザラキ、人間に復讐する者だ」
「フッ、皮肉なものだな。人の町を襲った魔物の王が元人間とは」
オルガは鼻で嗤うと木の根っこのような杖を構えた。
「人間同士で争うなどいつもの事でしょう...俺は復讐するだけだ俺を裏切った人間達に...」
二人はお互い歯を見せると瓦礫が崩れた音と共に戦闘を開始した。
「ザラキ!!お前は私が倒す!!」
「倒せるものならやってみるがよいオルガ!!」