10話 超過依頼(オーバーリライエッツ)
「流石、超過依頼だどれも明らかに異常な内容だ」
リュウは掲示板にいつから張られているのかわからない物もある依頼書を見ながら苦笑いする。
【超過依頼】
超過依頼とは依頼主が特殊な事情により依頼内容に対して正当な報酬を支払えない依頼やトップクラスの冒険者達にさえ、クリア不可能と判断された依頼の総称である。
そして超過依頼はその特殊性に誰からも受注される事がないため、冒険者組合の全てのランク及び組合以外の人でも希望すれば受注できる唯一の依頼でもある。
「さて、どれにしようかな...」
チリン...
リュウが依頼書を流し見ていると一つの依頼を見たときにローズからもらったイヤリングが鈴のような音色でなった。
「?!」
ノエル町に来る間も一切鳴らなかったイヤリングが鳴った事にリュウは驚いてイヤリングに触れる、そしてもう一度イヤリングが鳴った依頼書を見る。
「ゴブリンキング率いる大群から村を守って欲しい、報酬は大銀貨一枚 依頼主ソルト村、村長ダイゲン」
【この世界の通貨について】
銅貨一枚百円、大銅貨一枚千円、銀貨一枚一万円、大銀貨一枚十万円、金貨一枚百万円、金大貨一枚一千万円、白金貨一枚一億円。
なお各領主や国が独自で発行する金券等もある。
チリン...
「ローズ?...もしかしてこの依頼を受けて欲しいのか?」
チリン...
まるで「お願い...」と言うようにイヤリングが鳴った。
「ローズが言うならこれにしよう」
リュウは嬉しい誤算に上機嫌で依頼書を掲示板から外して受付に出す。
「貴方は正気なんですかぁ?!?!」
受付嬢はリュウの依頼を見るなり驚きの声を上げる。
「はい、正気です。それに超過依頼はランクに限らず何処の誰でも受ける事のできる依頼のはずです」
「確かにそうだけど...」
受付嬢は正当なリュウの言葉に声を小さくする。
「でも、超過依頼は普通の依頼とは違って依頼に失敗、又はキャンセルしても罰金当は無いですが組合の評価は普通の依頼と同様に下がります、いい加減な気持ちで受けると後で後ろ指を指されるようになりますよ」
「ええ、本気で受けようと思っています」
リュウの強気の姿勢に受付嬢は説得を諦めてしぶしぶ受注を承認した。
「どうなっても知らないから...」
受注書を渡す時に受付嬢はボソッと呟いた。
「ありがとうございます」
リュウは受付嬢の言葉を聞かなかった事にして笑顔でお礼を言って冒険者組合を後にした。
数十分後....
「えっとぉ...こっちの方角だよな?」
リュウは受注書に書かれている雑な地図に従って山道を高速で移動していた。
「ノエル町を北に進み山の山道を道なり進んで...」
地図に気を取られながらもリュウの足は迷うことなく快調に山道を走り抜ける。
「山間の村を通過して、湖をこえて、洞窟を抜けて...」
移動途中で何体か魔物に出くわすも華麗攻撃を交わし瞬時に氷刺を撃ち込み氷漬けにする。
「しっかし遠いなぁ...」
もういくつ山と川を越えたか忘れ始めた頃には日はすっかり傾いて薄暗くなっていた。
「これ日が落ちる前につけるか?」
リュウは走るペースを更に上げた。
同時刻、ソルト村は危機に陥っていた。
「何とか明日の朝まで持ちこたえろ!!そうすれば私達の援軍が来るはずだ!!」
銀色の鎧を着た青髪に蒼い瞳のリーダー風格の女騎士が剣でゴブリンナイトを相手にしながら仲間の女騎士達を励ます。
「はい!!シルフィ隊長!!」
「紅の薔薇の名にかけて維持でも死守します!!」
「「「オオオオ!!」」」
女騎士達はそれぞれ肩にある紅い薔薇の紋章にかけて村人達を守ると誓った。
「グオオオオ!!」
「ギイイイイ!!」
「キシャヤヤ!!」
それぞれ斧やハンマー、槍や盾を持ったゴブリン達が奇声を発しながら次から次へと防衛の丸太で出来た冊を突破して騎士達に襲いかかる。
「きゃややあああ!!」
「ミア!!」
一人の女騎士がゴブリンの刀をまともに食らい地面に倒れる。
「動揺するなぁ!!」
隊長がゴブリンナイトを斬り伏せて叫ぶ。
「こうなる事は覚悟の上だったはずだ!!、何としてもソルト村を救い命の恩人、リサーナ王妃に吉報を届けるのだ!!」
「「「はい!!」」」
女騎士達は涙をこらえてゴブリンたちに立ち向かうが再現なく現れるゴブリンにまた一人また一人と倒れていきとうとう村人が隠れる倉庫の前まで追い詰められてしまう。
「隊長!!、流石これ以上は...」
銀髪で緑眼の少女は隊長に向かって弱音を吐いた。
「泣き言言うな...リン...わかっている」
シルフィは長年苦楽を共にした副隊長のリンに苦笑いする。女騎士達はボロボロになり全滅を覚悟したとき、更なる絶望が訪れた。
「コレデジャマモノワイナクナル...」
身長は十メートルを優に越えるゴブリンキングが馬ほどはある巨大な血のついた鉈を引きずって現れた。
「ココハオレノナワバリダァアアアア!!」
ゴブリンキングが吠えるとその咆哮で空気が振動し小さな地震が起きる。
「ハハ...笑っちゃうよ...普通のゴブリン達でさえ、抑え切れなかったのにゴブリンキングまでお出ましとはな...」
「隊長...」
「隊長...」
「「「「隊長!!」」」」
部下達の呼びかけにシルフィは覚悟を決めた。
「みんな...頼りない隊長でごめんな...」
「謝らないで下さい隊長...私達は貴方だからここまでついてきたんです」
「そうですよ、リサーナ王妃に拾われなければ私達は奴隷として売られていたし、シルフィ隊長でなければ私達はここまで戦えませんでした」
「そうですよ」
「隊長には感謝しています」
それぞれ言葉にシルフィは涙を流した。
「皆ありがとう、バカな隊長でごめん。私と共に死んでくれ!!」
「「「「はい!!」」」」
女騎士が覚悟を決めてゴブリンに立ち向かったとき、どこからともなく間抜けそうな声が聞こえた。
「すみま~せん!!ここはソルト村ですかァ~!!」
あまりにも場に合わない声に女騎士もゴブリン達も驚きの表情で声の主をみる。するとそこには白髪で蒼い瞳に金の薔薇のイヤリングをした少年が両手をメガホンのように口元に添えて立っていた。
一瞬なにを言われたのかわからなかったシルフィは少年に向かって叫んだ。
「何をやっている!!逃げろ!!」
ゴブリンキングは少年に戦闘の邪魔をされた事に怒りゆっくりと少年に近づいた。
「(あれ?、聞こえなかったのかな?)」
リュウは首を傾げるともう一度叫んだ。
「ここはソルト村ですか~!!」
「そうだから逃げろ!!」
シルフィは腹の底から少年に向かってさぶ、する少年から帰って来た答えは意外なものだった。
「了解!!、なら仕事を始めるか」
少年はゆっくりゴブリンキングに近づくと間合いにリュウが入ったのを確認したゴブリンキングは巨大な鉈を大きく振りかぶった。
「バカ!!逃げろ!!」
シルフィの叫びにも少年は反応せずただ鉈が振り下ろされるのを待った、そして大きく振りかぶった鉈を持ち前の筋力を使って高速でゴブリンキングは振り下ろす。
ドドドドドド!!!
まるで隕石が落ちたような地響きと砂埃が広がりシルフィは少年の死を確信する。
「何故逃げなかったのだ?!、私が、私が最と強ければ彼は死なずに...」
シルフィは膝から崩れ落ちて地面に両手をついた。
「私のせいで...彼は...」
「勝手に殺すな!!」
砂埃が徐々に晴れてゴブリンキングの鉈を鷲掴みにして止める少年の姿が目に入った。
「まったくもう...こちとりゃ半日走り続けて来てみれば村は壊滅寸前だったし、勝てるかどうかハラハラしていたゴブリンキングが予想以上のカスだったし、本当についてない...」
少年はそう言うとゴブリンキングの鉈を粉々に握り砕き、鉈の残骸をゴブリンキングに見せるように地面に落とした。
「こっちは仕事で来てるんだ、ささと終わらせる」
少年は後退りするゴブリンキングに近ずくとてを真横に真っ直ぐ伸ばした。
【氷蓮花!!】
少年が名前を言うと伸ばした手に綺麗な花の模様が描かれた氷の刀が現れた。
「グオオオオ!!」
ゴブリンキングは一か八かとリュウに拳を振り下ろすがリュウは片手で軽く止めると氷蓮花でゴブリンキングを真っ二つに斬り伏せた。
「斬られる覚悟が無いなら相手を斬りつけない事だな」
リュウは地面に倒れたゴブリンキングに言い捨てた。