9話 リュウ冒険者になる
「ここがノエル町の冒険者組合か...」
リュウは目の前にどっしりと構えて立つ木造三階建ての建物を見据えた、そして冒険者組合ノエル支部と書かれた看板を再び確認する。
「間違いなよな...いざ入ってみて間違いでしたは恥ずかしいからね」
リュウは意を決して入るとそこにはキルト町と同じく賑やかな光景が...無かった。
リュウは建物を間違えたかと何度も看板を確認するがどうやら間違いでは無さそうだった。
「すみませ~ん!!」
リュウは受付に立つと奥に向かって叫んだ。
「すみませ~ん!!」
二回言ってみたが返事は無く、日を改めてようかと思っていたときに奥から慌ただしく十代の受付嬢が走ってきた。
「遅くなってすみません!!、何のご用でしょか?はぁ、はぁ、はぁ」
「大丈夫ですか?」
息を切らしている受付嬢を心配してリュウは声をかけた。
「いいえお気遣いなく...で何のご用でしょか?」
受付嬢は両手を横に振ってアピールすると要件を言うように促した。
「なら構いませんが...冒険者組合に登録しに来ました」
「そうですか、ならこちらの説明書に目を通していただき契約書にサインを下さい」
受付嬢はそう言って複数の紙をリュウに渡した。
「え~っと、冒険者についての注意事項、その一、依頼によって契約者が死亡、または体の一部が欠損したとしても当組合は一切責任を取りません、その二、冒険者同士の争いについても原則として冒険者組合は一切責任を取りません、その三、報酬の二割は手数料として冒険者組合に支払われます、その四、魔物の素材の買い取りでも市場の取引価格より二割は冒険者組合に支払われます、その五、原則として冒険者のランクに合った依頼しか受ける事は出来ません、その六、冒険者のランクは上位からO、SS、S、A、B、C、D、E、Fとなります、その七、ランクは依頼の達成確率、達成難易度、周囲からの評価、または冒険者組合の判断によって公平に決められます.....」
十分後...
「....以上の事を理解し承認したら別紙の契約書に名前、性別、特技当を記載の上、承認のサインをお書き下さい」
リュウはすっかり退屈そうにあくびしている受付嬢を見なかった事にして書類に名前と性別だけ書き、特技はあえて何も書かずにサインする。
「出来ました」
リュウは説明書と契約書を受付に渡したのち、しばらく椅子に座って待つと奥から受付嬢がFと書かれた木のネームプレートを持ってきた。
「これで登録は完了となります、依頼につきましては奥の掲示板に依頼書が張り付けてありますのでそれをこちらに持ってきていただければ受注できます、なお、依頼のキャンセルや失敗については説明書に記載されていたと思いますが、いかなる理由だろうと報酬の半額を罰金として徴収するので注意してください」
「ありがとうございました、ところで、なぜこんなに冒険者組合はガラガラ何ですか?」
「え?」
受付嬢はそん事も知らないの?とあきれた顔をする。
「もう知っていると思いますが、キルト町が魔王によって壊滅したそうです、だから国の兵士と冒険者組合が連合軍を作って勇者カイト様と共にキルト奪還に向けて準備しているんですよ」
「勇者カイト?!」
理由の様をつけない呼び捨てに受付嬢は嫌そうな顔をし、リュウはとっさに訂正する。
「失礼、てっきり勇者カイト様はキルト町に向かわれていたのかと...」
訂正したリュウの言葉に受付嬢は少し不機嫌な顔をしながも答える。
「ええ、確かに一度は向かわれたそうですが、勇者様がついたときにはすでに魔王の手にキルトは落ちており、自分達だけでの奪還は難しいと判断して急いで引き返して来たそうです」
「そうですか...」
受付嬢の話しを聞いてリュウ頭にいくつかの疑問が浮かびやがて嫌な考えが浮かぶ。
「(間違いなく勇者は魔王討伐に向かっていたはずだ、でも勇者カイトはノエル町にいる、しかも引き返して来たらし...つまり勇者の
一行は魔王に会いながらも逃げてきたとなる、しかしあの魔王と魔族がただで逃がすとは思えないから...まさか!!勇者に魔物を町へ誘導させたのか?!、そうすれば魔物の侵入が早かった謎が解ける。あの魔族なら勇者に命が欲しければ町を攻めるのを手伝えとか平気で言いそうだし、むしろ勇者が命ごいをしたらそう言うはずだ!!。でも魔族はこれで良いとしても魔王は人間に恨みを持っていたから約束を守ったとしてもあっさり逃がすとは思えない...ああ、チクショウ!!、結局本人に聞くしか...)」
突然黙り混んだと思ったら顔を左右に振ったり、頷いたりしているリュウに受付嬢は若干引く。
(復讐なんかに捕らわれ無いで...幸せに...なって...ね...)
頭をかきむしったリュウにローズの言葉がよみがえる。
「(そうだよな、真実がどうあれ勇者が魔王から逃げたのわ変わらない、会えばきっと勇者を恨むだろう...そしてそれはローズとの約束を破る事になるかも知れない...)」
リュウは自分からこの件に関わらないと心から誓った。
「さて仕事するぞぉ!!」
突然大声を上げたリュウに受付はさらに引く。
「えーとどんな依頼にしようかな?」
リュウはFランクのと書かれた掲示板の前に立ち依頼書を見る。
「ペットの捜索に、牛舎の掃除、店の宣伝に、荷物の配達...所詮Fはこんなものか...」
リュウは誰もが閲覧できるCランクまでの依頼を見通してため息をついた。
「どれもピンと来なかった...」
リュウは適当にFランクの依頼をこなそうと振り向くと視界の片隅に黒い掲示板が写った。
「ん?」
リュウは掲示板の上に書かれている文字を見て「これだ!!」と思った。
「O 超過依頼」