4話目 鍛錬
あれからキシさんの家まで連れて行かれて、ぼくはそこで寝泊まりすることとなった。キシさんの家には緑色のドレスを着た耳が尖ってるとても綺麗なおねえさんが玄関で待ってくれた。
「エルフのアーリアだ。一応この世界での妻なので、宜しくしてやってくれ」
「キシの妻のアーリアです。あなたがアキくんなのね、宜しくね」
アーリアさんは美味しいご飯を作ってくれて、部屋の片付けもしてくれる優しいおねえさん。ただ、時々ぼくとキシさんを黙ってずっと覗き込むように見つめてから、くふふと一人で笑い出す。
キシさんの家にいると、そういうなんとなく居心地が悪いときがあったりする。
「あいつ、ユキコ姫のせいでクサってやがるから気にするな」
「はあ」
クサってやがるということは、やはりアーリアさんって腐女子ということなのかな。
キシさんはよくお城の騎士団へぼくを連れて行く。マリアーヌお姉さんは一度、ぼくのことを見てからキシさんに話しかけた。
「アキヒロは太刀と火の魔法が使えそうよ。鍛えてあげなさい」
それからキシさんはぼくに日本刀と木刀を渡して、キシさん本人による猛特訓が始まった。
キシさんは容赦がない。木製の大きな剣でひたすらぼくを叩く、これでもかと毎日剣で叩いてくる。木製の二つの短剣がキシさんの一振りだけで飛ばれててしまい、木製の大剣にぼくが叩きつけられる。
特訓のきつさにぼくは泣いた、そして吐いた。それでもキシさんは攻撃の手を緩めることはない。そのうちに少しずつだが、キシさんの攻撃を避けれるようになった。
「生意気な小僧め、きっちり急所だけは外してくるな」
倒れているぼくを介抱するように、キシさんは身体を起こしてくれた。それはまるでぼくがキシさんに抱えられてるみたいな構図だ。
「くふふ。マリ姫、これはキシ×アキで決まりだね」
この日はマリアーヌお姉さんとアーリアさんに、いつもマリアーヌお姉さんのお供で黒髪の可愛いらしいおねえさんが練習場にきている。
「わかってないわね、ここはあえてアキ×キシにすることが鉄板でしょう。アーリア、あなた勉強不足ね」
お供の黒髪のおねえさんがアーリアさんにダメ出しを出した。それを見てるマリアーヌお姉さんはぼ、くとキシさんに怪しい視線を送ってくる。
「アーリアにハルカ、あなたたちは来週までにキシ×アキとアキ×キシの本を作ってきなさい」
「はい」
「ユッキー、ここはアキ×騎士団ってのはあり?」
お供の黒髪のおねえさんがマリアーヌお姉さんにとんでもないことを聞いた気がする。マリアーヌお姉さんはそれを聞いて、目を輝かせている。
「もちよ、大いに書き上げなさい。期待しているわよ? ハルカ」
ハルカと呼ばれるお供の黒髪のおねえさんの頭の中で、ぼくはいったいなにをさせられているのだろうか? 気になるけど聞いちゃいけない気がするので、ここは無言を貫くことにした。
ぼくを抱えているキシさんは苦虫を噛み潰したよう顔をするだけで、おねえさん3人に何も言おうとしない。子供のぼくでもわかるように、きっとキシさんはあの3人からBLの話作りのネタにされてるんだ。
世の中には関わっちゃいけない人がいることを、異世界に来てから初めてわかった。
ありがとうございました。




