31話目 自覚
「アキ君、あんたはあたしたちと違って、頑張ればあっちの世界でも可能性が残されているのよ。ユッキーはあんたのことを思って言ってあげてるんだから ちゃんと考えたうえで返事してあげてね」
ハルカお姉さんがぼくの頬を温かい手で軽く触れると、さっと身を翻して部屋の外へ消えていってしまった。ここに残っているのはぼくとキシさんだけ。
「アキ。お前はここへ来てからよく頑張った、お前を見守ってきたおれが言うんだから間違いない。元の世界に戻ってもきっとやっていけるはずだ、なんだってお前はおれの弟子だからな」
「でも、みんなと会えなくなるんだ。それは、嫌だよ」
「勘違いするなよ、小僧!」
キシさんの怒鳴り声にぼくはビクッて身体を震わせてしまった。
「お前はなにも選んじゃいない。イジメっ子たちはお前をイジメることを選んだがお前はイジメられることを選んでいない。この世界にお前を召喚したことを選んだのはユキコでお前は召喚されられることを選んでいない。おれがお前を鍛えたこともダンジョンアタックしたことも、お前はなにひとつ自分の意志で選んでいない。たった一つ選んだことがあるとすれば、それはおまえの親友を自分の意志で選んだくらいだ!」
言葉が心を突き刺さる。
ぼくは他人のせいにして生きてきたかもしれない。だけれど、それはしょうがないことじゃないですか? だって、あのときのぼくは物事を自分で選択できるほど大人じゃないんだ。
「お前が悪いって言いたいわけじゃない。ただ、ユキコもハルカもおれもみんなはお前が選べるような強さを身に備わて来たと思っているから。ユキコはお前のことを思って、自分の道を選ばせようとしているんだ。そこはわかってやれ」
キシさんの言葉はいつになく優しくなっている。ぼくは涙が自分で止められないほど流れているがカッコ悪いとは思っていない。
「アキ。ここで漢を決めて見せろ。この先の世界はどこであったって、お前が自分で道を作り出さないといけない」
キシさんの拳はぼくの心臓あたりを軽く当てるとその顔からは晴れやかな笑いを見せてくれた。
「頑張れよ。お前はやればできる子だ。どっちの世界を選んでもお前はきっと生きていけるはずだ」
キシさんも石室からいなくなった。部屋の中には号泣するぼくだけが取り残されている。
ありがとうございました。




