2話目 役割
「おい、アキ。アキヒロは長いからお前のことをアキと呼ぶからな!」
騎士さんのぶっきらぼうな言葉遣いに、ぼくはまた泣きそうになってきた。
「は……はい……スンっ」
「だー、いちいち泣くなよお前。かったりいな」
「はい……」
騎士さんに言われた通り、ぼくは目から零れ落ちそうな涙を我慢する。
「おしっ、いい子だ。とりあえず手早く事情だけを簡単に説明するからな、信じようか信じまいかはお前の勝手だ」
「はい……」
「お前はこの世界に異世界転移してきた、ユキコちゃんに召喚されてな。だが言っておくけど、それはユキコちゃんのせいじゃなくて、お前が死にたがっていたから召喚が成立したからな。逆恨みはするなよ」
「え?え?」
異世界転移ってなに? マリアーヌさんに召喚されたってどういうことなの?
「混乱してるのはよくわかるぜ、おれもそうだったから。おれは岸だ、ナイトの騎士じゃなくて日本での本名が岸正孝。こっちじゃキシって呼んでくれていいからな」
「え? じゃあお兄さんも移転してきたの?」
「おう、そうとも。日本で会社と嫁に捨てられてな、無一文になってなにもかも嫌になったから、死のうとしたところをユキコ姫に召喚された。あいつは命の恩人だ」
岸さん、もといキシさんはとても優しそうな顔で微笑んで、それから手のひらで、まるでぼくを労わっているように頭を撫でてくれた。
「ユキコは転生者だ。最強のチートというならこの世界は彼女しかいない。なんせ、日本からおれたちを召喚できるからな」
そっかー、もうこの世界での最強は設定が終わっているのか。ちょっとは強くなって自分が生まれ変われると思ったのに。
「どんな事情があったかしらんが、その若さで死のうとしているのはつらいこともあったろう。いまはなにも言わなくていいから、いつかわけを話してくれればそれでいい」
「はい……」
また泣きそうになってきた。イジメられて以来、誰かに優しくしてもらったのは初めてで、今のぼくは心が溶かされそうになっている。
「それと、あとであれこれ聞かれるのも面倒だから先に言っておくけど、この世界に魔王はいないからお前も勇者なんかじゃないぞ」
「え? ええー! そうなの?」
「内政チートも生産チートも料理チートも武器チートも、全部ユキコちゃんが終わらせてるから、お前にそんなことを期待もしていないし、見るからにできそうにないだしな」
「ええー! じゃぼくは何のために召喚されたの?」
「ユキコちゃんの狙いは一つだけ、お前が持っているスマホだ。それだけが欲しかったんだよ」
ぼくの異世界転移はスマホのため、それも役割は果たしましたのでこれからどうしましょうか。
ありがとうございました。