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1話目 宝物

「あら、今回は可愛らしい子わね」


 お姫様みたいな綺麗な黒髪のおねえさんが、ぼくを見て隣にいる鎧を着た同じ黒髪の騎士さんに話しかける。だれかこの状態を説明してくれないかな。



「ああ、そうみたいだぜ。それよりスマホを持ってるみたいけど見てみるか?」


 騎士さんがぼくが持っているスマホを見て、お姫様のお姉さんに質問する。これはぼくの最後の宝物、誰にもあげないよ!


「そうね、当たりならいいなんだけど」


 お姫様のお姉さんがそう返事すると騎士さんは軽く手を振って、ぼくの横に同じ鎧を着た二人の騎士さんが ぼくからスマホを取り上げようとしている。



「やめてよ! それはぼくのだから返してよ!」



 二人の騎士さんに取り押さえられて、いつものようにぼくは何もできないまま、宝物までもが簡単に奪われてしまった。



 お姫様のお姉さんは手早くぼくのスマホをいじって、保存しているぼくのデータを見ているようで、その綺麗な顔が見る見るうちに喜びに満ちてきて、満面の笑みで隣の騎士さんに笑いかける。


「当たりよ、大当たりだわ。この子、BLも見ているみたいだわ。もう最高ね」


 うわー、嫌だ。綺麗なお姉さんにぼくの趣味がばれてしまったみたい。別に男が好きなわけじゃないけど、ボーイズラブの耽美な絵柄がとても好きなだけなんだ。



「うわーうわー!」


 わけがわからなくなって、恥ずかしくて思わず叫び声をあげてしまった。



「あらやだわ、照れているのかしらね。いいわ、キシくん。この子に20000ゴールドを差し上げなさい、それでここに慣れるまであなたがこの子の面倒を見てあげなさいな」


「おい、2万ゴールドだとよ」

「今まで最高の金額じゃないか」

「マジかよ!おれの年収の10倍じゃないか、やってらんないぜ」


 周りの騎士さんたちがお金のことでざわめきだした。2万ゴールドの価値がわからないぼくは、みんなの顔を見まわすことしかできない。お姫様のお姉さんの隣にいる騎士さんは不満そうな顔で、髪をくしゃくしゃと自分の手でかき回している。


「えー、おれがか? ほかの誰かにしてくれよ、ユキコ姫さま」


「そのユキコはやめなさい。わたくしにはマリアーヌという立派な名前があるのよ」


「ユキコの顔をしてか?」


 綺麗なお姉さんが怒った顔して騎士さんを睨みつけている。その顔に見覚えがある。母さんが本気に怒ったときの顔と一緒だ。


「いい加減になさい、本気でぶつわよ」


「へいへい、わかりやしたよ。言う通りに致しますぜ、マリアーヌお姫様」


 マリアーヌと呼ばれる綺麗なお姉さんは尊大そうに頷くと、ぼくに向かって話しかけてくる。


「そこのあなた、名前は何ていうの?」


「え? え?」


 咄嗟なことでぼくはどう返事すればいいかわからない。



「おかしいわね、日本語で話してるのに意味がわからないのかしら」


 綺麗なお姉さんから日本語とかいう言葉が出てきて、この状況がますますわからなくなってきた。


「ユキ……マリアーヌお姫様よ、こいつは来たばかりで混乱してるだけだ。ここはおれにまかせてくれ」


「今度名前を間違うとひっぱたくわよ……いいわ、キシくん。その子の名前を聞いてあげなさい」


 キシくんと呼ばれた黒髪の騎士さんがぼくに近づいてきて、音程が低い声はまるで脅すようにぼくに話しかけてきた。


「おい、小僧。日本語はわかるんだよな、お前の名前を言え。今すぐだ」


 怖い。


 この人からの凄味はぼくをイジメてたあいつらよりすごい。逆らったら殺される。


「む、村上明弘です……ひっく……」


 情けないことにぼくは泣いてしまった。あいつらにイジメられても家でしか泣かなかったのに。


「おいおい、泣くやつがいるか。おれがイジメてるみたいじゃないか」


 黒髪の騎士さんが困ったような顔して、右手で頭を激しく掻いている。ぼくはどうしたらいいかわからず、とにかく泣き続けるしかない。



「キシくん。あんな弱そうな子供をイジメてカッコわるいわよ。あなた、いつからそんなくだらないやつになったのかしら」


 綺麗なお姉さんが騎士さんに冷たく言い放つとぼくのほうに顔を向けてくる。



「ムラカミアキヒロくんって言ったわね、今日からアキヒロと名乗りなさい。しばらくは我が国にいなさい、いいわね」


「は、はい!」


 綺麗なお姉さんの迫力にぼくは断ることができなかった。


「よろしいわ。あなたのスマホは預かるけど、データを取り出したらちゃんと返すからね。心配はしなくていいわ」


 それだけを言い残すと、綺麗なお姉さんは石室の扉へ向かって退室しようとしている。いまでも状況はよくわからないけど、なぜかお礼だけは言わなくちゃいけない気がした。


「あ、ありがとう……マリアーヌおねえさん……」


 ぼくの、おねえさんという言葉に、綺麗なお姉さんは喜んだみたいで美しい笑顔をみせてくれた。


「アキヒロはいい子ね。気が済むまでこの国で寝泊まりするといいわ」


 今度こそ綺麗なお姉さんは、騎士さんたちを連れて部屋から出て行ってしまった。石室にいるのはぼくと黒髪の騎士さんだけとなった。


ありがとうございました。

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