18話目 包容
あれだけ買い込んだ食べ物が、もう子供たちに食べ尽くされて、お金はあるんだから、もうちょっと買えばよかったとぼくはアルと二人で反省した。
食後は子供たちとこの世界のトランプや孤児院の中で隠れん坊して遊んだ。
「アキ、遊ぼ?」
みんなと遊び終えて、ひと段落が付いたところ、耳が尖ってる可愛らしいエルフの女の子がぼくの手を引いて、手作りの積み木がある所へ連れて行こうとする。
妹が小さい頃はよくお相手を務めたぼくに、この誘いを断る理由なんかない。
「ああ、なにして遊びたい?」
「積み木で城塞を作りたいの!」
この世界の子供のスケールは大きいね。妹とはお城を作っていたけど城塞なんて初めてだよ。ぼくにそんなものが作れるのかな。
「おいアキ。女と遊ばないでおれとチャンバラしろよ!」
横から長い耳をしている山猫みたいな獣人の男の子が、紙で包んだ剣をぼくに突き出してくる。それをエルフの女の子がぼくの前に出て来て、両手を広げて拒む体勢を取っている。
「ダメー。順番なの、あたしが先なの」
「そんなの知るか! 女は女と遊んでろよ」
二人がケンカになりそうなところでイワシタさんが間に入ってきて、二人の頭を撫でてからケンカをやめるように宥める。
「これこれ、せっかくアキくんが来てくれたのにケンカはダメでしょう」
「「はーい、ごめんなさい」」
「アキくんはお仕事でお疲れだから今日の遊びはここまで。お風呂に入って寝る準備しなさい」
「「はーい。アキ、またね」」
二人は仲良くこの場を離れて、奥の部屋へ走り去った。大きい子が小さい子の手を引いて、ぼくに別れの挨拶と手を振ってからお風呂に入ろうと、みんなが孤児院の広間からいなくなった。
「さてと。アルとアキから話を聞こうかな」
イワシタさんはテーブルにお茶と菓子を用意して、ぼくとアルを椅子に座るように招く。お茶からは緑茶のような匂いがしてきて、少しだけど懐かしい気がしてくきた。
「頑張って緑茶を再現してみたから飲んでみて。お姫様もお気に入りだよ」
両手でコップを持つぼくに、イワシタさんがお茶を勧めてくれる。お城では日本食みたいなのを食べることはできる。キシさんの家でアーリアさんが作る料理はとても美味しいけど、この世界の家庭料理ばかりだ。
お茶のお代わりをしながらぼくは自分のことをイワシタさんに話した。アルはとても興味津々に聞く耳を立てて、イワシタさんはずっと黙って聞いてくれている。
イジメられてたこと、それで死にたいと思ったこと、この世界でマリアーヌお姉さんとキシさんによくしてもらっていること、今日にアルとダンジョンアタックしたこと。
それらのすべてを話し終えると イワシタさんはぼくの頭を優しくなでなでしてくれた。
「今までよく頑張ったね、アキくん。なにもできないかもしれないけど、いつでもここへ遊びに来なさい。みんなで歓迎させてもらうからね」
イワシタさんの温かい言葉に涙が久しぶりに出そうになった。ぼくは受け入れてもらえることがなによりも嬉しいと思った。
ただ、それだけのことをしてほしかったんだ。
ありがとうございました。




