プロローグ 石室
ここはどこ?
見たこともない石室の中にいるぼくの周りに人が一杯だ。怖さで急に体が震え出して、両手で自分を抱きしめて身体を屈めてしまってる。人に囲まれるのは嫌だ、殴られるし蹴られる。雑草とかムシとかを食べさせられるのはもう、我慢できない。
教師は話を聞いてくれたけど、クラスのホームルームのときにみんなに注意だけして定時で帰ってしまう。そのあとはいつもよりきついお説教とか言って、あいつらに暴力を振るわれてしまう。
初めは形だけ守ってくれてたメガネ委員長もこの状況に麻痺したのか、なにもいわなくなっている。転校してきたこの学校には相談できる友達も幼馴染もいない。
「だれか助けてよ。」
逃げ出したいけど親に心配されるだけは嫌だ。頑張ってローンを組んで、家族のために新しい街でようやく中古の家を買った父さん。パートを増やして昼夜働き続ける母さん。新しい小学校に友達ができて、この街が好きになってきた妹。
ぼくだけがこの中学校のやつらに睨まれて、毎日いじめられる。一緒にゲーセンへ行くことを断っただけなのに、生意気とか言い掛かりをつけられて、それからは毎日が苦しくて悲しい。
なんでぼくだけなの?なにをしたというの?
「もう、死んだら楽になるかな。」
ノートに今までのイジメを遺言として詳しく書いた。あいつらに仕返しはできないけど、せめてイジメのことだけは書き残してやる。あいつらの人生をめちゃくちゃにしてやるんだ。
部屋にも遺言は残してきた。お父さんお母さんごめんなさい。可愛い妹にもごめんなさい。
学校のグラウンドの横に川が流れてる。屋上から飛び降りることも考えたが痛いのは嫌だ。真冬の今なら川で凍えて溺れて苦しまないで死ねるのかな? 野球部の熱血先生なら遺言のノートと上履きを見つけてくれるのかな?
夜の川は真っ暗。
来てみたのはいいけど、川に飛び込むことが怖くなってきた。冬の夜風は冷たくて寝間着のままじゃ寒すぎる。所持品はスマホだけを持ってきた。この中には好きなネット小説やアニメ動画に同人誌のデータが詰まっている。
学校へ持って行くと、あいつらに取り上げられそうだからいつもは持って行かないけど、今から死ぬぼくはこれだけは一緒に死んでほしかった。
「死ぬのは怖いよ.....」
死んでしまうとどうなるのだろう。でも、今のぼくは死にたい思いで胸が一杯だ。逃げて、楽になりたい。目を瞑って、涙が流れる。
そして、目を開いたぼくは人だかりの石室の中にいる。
ありがとうございました。