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おはよう(仮)Ver.1.0

作者: あんぱん

ノベルゲームのシナリオを書いています。

よければ感想をお願いします。

~背景・教室~

教師「こんな問題も解けんのか、お前は! 」

教師の怒鳴り声が教室に鳴り響く。

何も言えずに立ったまま縮こまる僕。

教師「じゃあ代わりに幼馴染、この問題に答えなさい」

幼馴染「はい」

幼馴染「Livinig on an desert island may be more amusing than living in Tokyo.」

教師「Excellent! 完璧な回答だ。それに引き換え主人公は・・・まったく、幼馴染を見習え! 」

主人公「・・・すみません」

周りの生徒たちがクスクスと笑っているのが聞こえる。

それを聞いて僕は更に鬱屈とした気持ちになった。

授業は嫌いだ。出来のいい奴と悪い奴が比較される。僕とアイツ、幼馴染のように。


~背景・暗転~

彼女とは幼馴染で、昔はよく一緒になって遊んでいた。当時から活発だった幼馴染の後ろにいつもくっついていた。

だがいつしか、何でもできる幼馴染に比べて何をやっても上手くできない僕は、次第に幼馴染に劣等感を抱きはじめた。

比較されることも多くなり、劣等感はどんどん膨れ上がった。もともと内気な性格だったので、だんだん人と会話もしなくなった。中学に上がる頃には、幼馴染とも距離を取るようになり、僕に友達と呼べる人はいなくなっていた。


~背景・屋上~

そして、今に至る。

高校2年生になっても友達のいない僕は、今日も人の来ない屋上でお昼を食べに来ていた。

主人公「今日も誰もいないな・・・」

確認し、日陰になっている目立たない場所に腰を下ろす。

主人公「はぁ・・・」

深いため息と共にさっきの授業を思い出す。

怒鳴りつける教師、嘲笑するクラスメイト、そして____

幼馴染「こんなところにいたんだー」

主人公「うぇっ!? 」

突然の声にびくっと肩が跳ねた。

振り向くと幼馴染が不機嫌そうな顔をして立っていた。

幼馴染「そんなに驚かなくてもいいじゃない」

さっきまで頭に思い描いていた当人が急に現れたので、大げさに驚いてしまった。

主人公「ぇ、ぁ、う、うん・・・」

久しぶりの人との会話に変に緊張してしまい、どもってしまう。

幼馴染「お昼いつもいないからどこで食べてるんだろうって思ってたら・・・」

幼馴染「いつもこんなところで一人で食べてるの? 」

主人公「う、うん」

幼馴染「そっかぁ・・・ね、一緒に食べていい?」

主人公「え、あ、うん」

幼馴染「ありがとっ」

ニコッと笑う幼馴染に思わずドキッとしてしまい、慌てて顔を逸らす。

幼馴染は僕の隣にストンと腰を下ろすと、鞄から黄色い包みのお弁当箱を取り出す。

ちょっと羨ましい。僕の両親は共働きで朝早くから仕事なので、お弁当ではなく昼食代が置いてあるだけだった。今日も僕はコンビニの弁当だ。

幼馴染がお弁当の蓋を開け始めたので、僕も慌ててコンビニ弁当を取り出す。

幼馴染「いただきます」

主人公「ぃ、いただきます・・・」

いつもは言わないのについつられて言ってしまった。

幼馴染「こうして二人で話すの久しぶりだね」

主人公「そ、そうだね・・・」

幼馴染「主人公全然話してくれなくなったから、嫌われちゃったのかと思ってた」

主人公「そ、そんなこと・・・」

幼馴染のことは嫌いじゃない。だけど、一緒にいるとどうしようもなく自分が劣って見えて、情けなくなる。

実際、劣っているのだ。僕は頭も悪い、運動もできない、友達もいない。何もかもが劣っている。

こんな僕に、優秀な幼馴染の隣にいる資格なんて・・・。

幼馴染「こらっ」

ペシッ!

主人公「うわっ」

突然幼馴染に小突かれた。

幼馴染「ネガティブなこと考えてるでしょ」

主人公「な、なんで」

幼馴染「幼馴染なんだから分かるよ。主人公って自分のこと卑下しがちだから」

幼馴染「そういう事考えてるときの顔してた」

主人公「・・・・・・」

見抜かれてた・・・。

幼馴染「ねえ、主人公はもっと自分に自信をもっていいと思うよ? いいところ沢山あるもん」

幼馴染「君は自分で思ってる以上にやればできる子なんだから」

主人公「でも、僕勉強も運動もできないし、友達だっていない。今日の授業だって・・・」

幼馴染「あんなの一回失敗しただけじゃん! 次上手くやればいいよ! 」

主人公「でも・・・」

幼馴染「私が協力するからさ! 」

主人公「えっ? 」

幼馴染「主人公が皆と仲良くなれるように、私が手助けするよ」

幼馴染「私と一緒に、頑張ろ?」

主人公「・・・・・・」

何故だろう。その言葉は、とても頼もしく聞こえた。

こんな取柄のかけらもない僕でも、幼馴染とならやり遂げられる。そんな気がした。

奇妙な安心感に流されるように、僕は頷いていた。


~背景・教室~

午後の授業で、僕は頷いてしまったことを激しく後悔していた。

授業開始前、僕は幼馴染にあるミッションを言い渡された。


~背景・廊下~

幼馴染「これからは授業で必ず1回は挙手すること! 」

主人公「えっ」

幼馴染「問題はパーフェクトに答えられるようになろう! 」

主人公「えっ」

幼馴染「まぁ最初からパーフェクトは無理だろうから次の授業の予習しようか。私が教えるから」

幼馴染「あ、ちゃんとパーフェクトに答えられなかったら宿題出すからね」

主人公「えっ」


~背景・教室~

主人公(やばい、緊張して予習した内容覚えてない)

主人公(挙手しないでやり過ごすか? でもそうしたら宿題確定だ)

主人公(どうする・・・一か八か、当てずっぽうで答えるか?)

教師「__細胞内でエネルギーの合成をしている器官はなんでしょう。分かる人挙手!」

シーン・・・。

主人公(くそっ、誰も挙手しない! この空気で挙手したら絶対目立つ! )

主人公 (でも・・・)

幼馴染「じぃ~~・・・」

主人公(めっちゃ見てるっ。これはもう行くしか無い! )

主人公「は、はいっ」

教師「お、主人公が手を挙げるなんて珍しいな。じゃあ答えてみろ」

主人公「え、えっとぉ・・・」

必死に記憶を探る。幼馴染に教えてもらったのは確か、ドリアみたいな名前だった気がする・・・。

主人公(・・・よしっ!)

主人公「ミントコーンドリアです!」

・・・一瞬で静まり返る教室。

教師「・・・お前は何を言ってるんだ。答えはミトコンドリアだ」

教室のあちこちからクスクス笑いが聞こえる。まるで四面楚歌だ。

主人公「す、すみません・・・」

僕は顔を真っ赤にして席に着いた。


~背景・廊下~

幼馴染「ま、まぁ、ドンマイドンマイ! 次頑張ろ! 」

幼馴染「頑張れば絶対結果はついてくるから! 」

主人公「・・・うん」

それから僕は様々なミッションに挑戦させられた。


~背景・廊下~

翌日朝。

幼馴染「挨拶はコミュニケーションの基本だよ! 大きな声で挨拶しよう! 」

幼馴染「声が小さかったらペナルティ! 」

主人公「わ、わかったよ・・・」

主人公(昨日の宿題ハンパなかったからな・・・やるしかない)

ガララッ。

~背景・教室~

主人公「お、おはようございまひゅ!! 」

緊張して嚙んでしまった・・・。

クラスメイト「・・・・・・」

シーン・・・。

主人公(ああ、帰りたい・・・)

涙目になりかけていると助け船が来てくれた。

幼馴染「おはよう! 」

クラスメイト「おはよ~」

幼馴染は挨拶一つでクラスに溶け込んでいった。

助かりはしたが、複雑な気持ちだった。


~背景・体育館~

幼馴染「体育のバスケでみんなに貢献すれば好印象間違いなしだよ! 」

幼馴染「一回は必ずパスをもらう事! 出来なかったらペナルティね」

主人公「うぅ、了解」

勘弁してほしい・・・。

バスケの試合が始まる。

僕は皆の素早い動きに目を回しながらも、何とかついていこうとする。

味方チームのクラスメイトにディフェンスが張り付く。

主人公(今だっ! )

主人公「パ、パス! 」

クラスメイトは焦っていたのか、こちらを見ずにパスを投げてきた。

結構なスピードで。

当然取れるはずもなく、僕は顔面にボールを受けて鼻血を出し、保健室へ連れていかれた。

授業の後、幼馴染がお見舞いに来てくれた。一応パスをもらおうとしたのでペナルティは免除してくれた。



~背景・教室~

昼休み。

幼馴染「思い切ってお昼に誰か誘ってみよう! 」

主人公「えぇ・・・」

幼馴染「こういうのはきっかけさえ作れれば自然と仲良くなれるんだよ! 」

幼馴染「さ、あの子たちに声かけてきて! 」

どんっ、と幼馴染に背中を押される。

主人公(あの子たちって、よりによって女子かよぉ~)

主人公(絶対キモがられるだろ! こればっかりは・・・)

幼馴染「あ、声かけなかったらぺナだよ? 」

主人公「・・・・・・」

前門の虎、後門の狼。いや、むしろ背水の陣か。

主人公(あーもう破れかぶれだ、やってやるっ! )

主人公「あ、あのぉ~」

女子A「?」

主人公「え、えっとですね。そのぉ、あの」

女子B「あの、何ですか?」

主人公「あ、あのっ、い、い、一緒に」

主人公「お、おお昼、をですね、えっとぉ、そのぉ・・・」

女子A「え、何コイツ、キモ」

主人公「・・・っ」

女子B「ねぇ行こう。なんか意味わかんない」

女子たちは逃げるように去っていった。

主人公「・・・・・・」

幼馴染「・・・屋上、行こっか」

主人公「・・・うん」


~背景・屋上~

幼馴染「今日は頑張ったね! ご褒美に卵焼きあげる」

主人公「あ、ありがとう」

幼馴染「主人公は卵焼き好きだったよね~」

主人公「うん・・・」

主人公「あのさ・・・」

幼馴染「ん?」

主人公「僕なんかと一緒に食べてていいの? いつも友達と食べてるんでしょ?」

主人公「友達と一緒に食べなよ。昼まで僕に構わなくたって・・・」

幼馴染「私が好きで来てるの。それに私たちだって友達だよ? 」

主人公「えっ? 」

幼馴染「昔はずっと一緒にいたじゃん。そりゃ、少しの間疎遠になっちゃったけどさ」

幼馴染「主人公とはまた昔みたいに仲良くできたらなって、そう思ってるんだ」

幼馴染「主人公は、どう思ってるの? 」

主人公「・・・僕は」

僕はどう思ってるんだろう? 幼馴染とまた友達に戻りたいのだろうか? 

どうしようもなく劣等感を与えさせる彼女に、そばに居て欲しいと? 

主人公(分からない・・・だけど)

主人公「・・・仲良くしたい、って思ってるよ」

幼馴染「ほんと?」

主人公「うん」

幼馴染「そっかぁ、良かった~」

幼馴染「嫌だって言われたらどうしようかと思ったよ」

そう言って幼馴染は嬉しそうに笑った。

この笑顔は曇らせたくないな、と思った。

それだけは確かな本心だった。


~背景・暗転~

それから数日間、僕の友達作りは続いた。


~背景・廊下~

一週間後、朝。

主人公(何だかんだ友達作りを始めて今日で一週間か・・・)

結局、まだ友達は出来てない。

でも、幼馴染と一緒にいるのは楽しいし、続けていればきっと結果はついてくる。

そう思えてきていた。

主人公(よし、今日もいっちょやりますかっ)

ガララッ。

~背景・教室~

主人公「お、おはよう! 」

クラスメイト「・・・・・・」

シーン・・・。

主人公(相変わらずか・・・。そろそろ挨拶返してくれてもいいのに)

どことなく冷たい空気に身をすくめながら自分の席に向かう。

席に着こうと椅子を引くと、机の中からくしゃくしゃに丸められた紙が落ちた。

主人公(なんだ?)

紙を拾い上げ、広げてみる。

「キモい、死ね」

・・・なんだ、これは。

机の中を見てみると、他にも紙があった。

「お前最近うざいんだよ」

「調子乗んなカス」

「出しゃばってんじゃねぇよ」

こんなことがびっしりと書いてあった。

ショックで足が震える。

その場で固まって動けずにいると、後ろのほうから声が聞こえた。

女子A「ちょ、あいつ動かないんだけどwwwうけるwwww」

女子B「マジいい気味だよねー。調子こいてんじゃねぇっつーの」

女子A「お?なんか震えてね?泣いてんのかよアイツwwwwww」

女子B「はぁ?キモいんですけど。小学生かよ」

あの時話しかけた女子たちだ。他にもチラホラと笑い声が聞こえた。

もう耐えられなかった。

僕は走って教室から逃げ出した。

幼馴染「あ、主人公おはよ__」

幼馴染とすれ違ったが無視して走った。


~背景・暗転~

もう誰も信じられない。

僕が今までやってきたことは全部無駄だったんだ。

少しずつ良くなっていくと思ってたけど、そんなことない。

そもそも僕なんか出しゃばっていいような人間じゃなかったんだ。

そんなことはもうずっと前から分かっていたじゃないか。

僕が馬鹿だった。幼馴染を信じたばっかりに。

こんなことになるなら、ずっと独りの方が良かった。


~背景・校門~

主人公「ちくしょう・・・」

涙がこぼれる。悲しくて、悔しくて、情けなくて。

主人公(もう、帰ろう・・・)

校門を出ようと足を進めた。その時。

幼馴染「主人公! 」

声に振り向くと、幼馴染が息を切らせて膝に手をついていた。

走って追いかけてきたのだろう。

幼馴染「どこ行くの? 授業始まるよ! 」

主人公「・・・ほっとけよ」

幼馴染「ほっとける訳ないでしょ! ほら、教室戻るよ! 」

主人公「ほっとけって言ってるだろ!! 」

教室に戻るという言葉に、思わず強く言い返してしまった。

幼馴染「主人公?・・・泣いてるの? 」

主人公「・・・っ」

見られたくなくて、顔を背ける。

幼馴染「何があったの? 教えて。私、主人公の力になりたいの」

幼馴染「今までだって助けてあげたでしょ? だから今度も私が助けてあげるから、ね?」

主人公(助けてあげる、か・・・)

主人公(こいつも、結局は僕のことを見下してたんだな・・・)

主人公「もういい、放っておいてくれよ・・・」

幼馴染「待ってよ! 主人こ__」

主人公「善人面するなよ! どうせお前も、僕の事陰で笑ってたんだろ!! 」

幼馴染「っ!! 」

幼馴染はショックを受けたような顔をした。

そんな顔を見て、心がチクりと痛んだ。

僕はその場から逃げ出した。幼馴染はもう追ってこなかった。


~背景・自室~

僕は家に帰ると、自室に閉じ籠った。

両親は共働きで昼間は家にいないので、特に何か言われる心配はなかった。

僕は布団に籠り、ひたすら泣き続けた。


~背景・暗転~

翌日になっても僕は学校に行く気になれず、部屋に閉じこもっていた。

両親は心配したが、無理に連れ出すようなことはしなかった。

そしてそのままずるずると、僕は不登校になっていった。

部屋に籠り、ネットやゲームばかりしていた。何かしていないと、あの日のことを思い出してしまうのだ。

だが寝るときだけはどうしても思い出してしまう。夢にすら出てくる。

紙に書かれた悪口、わざとらしい陰口、嘲笑、嘲笑、クラスメイトの、幼馴染の、嘲笑。

あの日から眠ることが怖い。

だから僕はなるべく寝ないように、ネットやゲームに逃げ込んだ。出来るだけ起きていられるように。思い出さないように。

ちょくちょく幼馴染は家に来た。だが、絶対に部屋には近づけさせなかった。

あんな事を言ってしまった手前、合わせる顔がないし、何より会うのが怖かった。

夢に出てくる幼馴染は僕を嘲笑しているか、別れ際のショックを受けた表情で僕を見てくる。

僕に、幼馴染の顔を見る勇気は無かった。


~背景・自室~

不登校になってから、一か月ほど経ったある日。部屋をノックする音で目が覚めた。

母「主人公、ちょっと話があるんだけど、入っていい? 」

主人公(なんだよ、こんな朝っぱらから・・・ダルい)

母「嫌ならそのままでもいいから聞いてちょうだい。あのね・・・」

母「幼馴染ちゃんが、事故に遭ったって」

主人公「・・・・・・えっ? 」

母さんの言っていることが理解できない。母さんは今何て言った? 

幼馴染が、事故に遭ったって? 何を言ってるんだ? 

母「車に撥ねられて意識不明の重体だって。今は、総合病院で入院中らしいわ」

母「事故に遭ったのは昨日、うちの近くの大通りで・・・」

母「・・・ノートを、届けに来てくれてたの」

主人公(・・・ノート? )

母「あの子、毎週うちに授業のノートを渡しに来てくれてたのよ」

母「主人公が勉強に追いつけるようにって。だけど主人公には自分の手で渡したいって言って、いつも持ち帰っていたわ」

母「きっと今日も、来てくれるつもりだったんでしょうね・・・」

母「ねぇ、主人公。幼馴染ちゃんに会ってきたら? 」

母「あなたの事、誰よりも気にかけてくれてたのは幼馴染ちゃんよ」

母「今からでも、顔を見せに行ってあげなさい」

主人公「・・・うん」

主人公「行くよ」


~背景・暗転~

僕は混乱していた。

正直、何が起きたのか理解できていない。

だから、この目で直接確かめたかった。

何が起きて、何が失われてしまったのかを。


~背景・病院~

総合病院は家からそう遠くない場所にある。

受付に行き、病室の番号を聞く。


~背景・病院廊下~

主人公(ここが幼馴染の病室・・・)

病室の前まで来た僕は、ここに来て怖気づいていた。

主人公(顔を見るのが、怖い・・・)

主人公(だけど、確かめなきゃ)

恐る恐る、扉を開ける。


~病室~

真っ白い部屋。その右手に白いベッドがある。

ゆっくりとそこに近づく。

ピッ、ピッ、という音が一定間隔で鳴り続けている。

ベッドに近づき、わざと逸らしていた目線をベッドの頭の方に向ける。

そこに横たわっていたのは、紛れもなく幼馴染本人だった。

体中に管をつけて、口元には酸素マスク。それを見た瞬間、理解した。

____本当に幼馴染が事故に遭ったんだ。

目の当たりにして初めて実感する。事の重大さを。

寒気がして、僕は震えた。何かにすがるように視線を移すと、一冊のノートが目に入った。

それを手に取り、開く。

そこには、授業の内容がびっしり書かれていた。

しかも細かく解説も書かれているので、文字量が物凄いことになっている。

主人公「・・・これじゃあ、逆に解り辛いよ」

完璧だと思っていた幼馴染のちょっとした欠点を見つけ、思わず苦笑する。

ページをめくっていると、ふと折り目のついたページを発見する。

そのページをめくってみる。

「主人公、嫌がらせに気づけなくてごめんね。

主人公の気持ち、分かってあげられなくてごめんね。

嫌だったよね、いきなりあんな事やらされて。

私のせいで沢山迷惑かけたね。ごめんね。

ただ、昔みたいにやり直したかっただけなんだ。

本当にごめんなさい」

ノートにぽたぽたと涙が落ちた。

__違う、幼馴染のせいじゃない。僕が悪いんだ。

僕がいつまでも卑屈だから。自分に自信がないのを幼馴染のせいにして逃げていた僕が悪いんだ。

ねぇ、あの時傷つけちゃったこと謝るから。今までの事全部謝るから。

だから目を覚ましてよ。

これからはちゃんと勉強もする、運動も、友達だって頑張って作るからさ。

ねぇ、起きてよ。起きてってばっ。

主人公「幼馴染ぃ・・・」

僕は声を上げて泣いた。涙が枯れるまで、ずっと。


~背景・暗転~

その日から、僕は再び学校に通い始めた。

最初は陰でいろいろ言われたけど、もうあんな嫌がらせはされなかった。

後で幼馴染の友達に聞いたのだが、どうやら幼馴染が主犯格の生徒を上手く丸め込んだらしい。さすがとしか言いようがない。

その効果なのか、陰口は2,3日で聞こえなくなった。

なんだか幼馴染に守られてるみたいで、ちょっと恥ずかしかった。

勉強の方は自分なりに頑張っている。幼馴染のノートのおかげで何とかついていけてる。

運動は体育でしかやってないが、それでも一回一回を真剣に取り組むようになった。

友達の方は・・・正直あまり上手くいってない。やっぱり時間の溝を埋めるのは簡単じゃない。

でも・・・。


~背景・教室~

ガララッ

主人公「おはよう! 」

クラスメイト「おはよー」

挨拶は返してくれるようになった。

幼馴染友「おはよう、主人公君」

主人公「おはよう! 」

少しづつ、前進していた。


~背景・暗転~

そして、僕には一つ習慣ができた。


~背景・病室~

主人公「やぁ、幼馴染。今日はちょっと良いことがあったんだ」

主人公「幼馴染友さんが僕に挨拶してくれたんだ。しかも名指しで! 」

僕は毎日、幼馴染へその日の成果を報告しに来る。

あの日から欠かさずにやっている事だ。

主人公「少しづつだけど、みんなとの距離が縮まってきてる気がするよ」

主人公「それもこれも、全部君のおかげだよ」

主人公「君は前に言ってたよね。きっかけがあれば仲良くなれるって」

主人公「君がきっかけをくれたおかげで、みんなと仲良くなれそうだよ」

主人公「まぁ、こんな大げさなきっかけじゃなくても良かったんだけどね」

主人公「・・・でも」

主人公「僕が一番仲良くなりたかったのは・・・君なんだよ」

主人公「また、一緒に遊ぼうよ。一緒にご飯食べようよ」

主人公「昔みたいにさ・・・」

主人公「ねぇ・・・」

こらえきれなかった涙が、ぽつぽつと落ちた。

嗚咽を漏らしそうになって、幼馴染の手をギュッと握る。

するとかすかに、その手を握り返してくる感触があった。

主人公「・・・?」

不思議に思い、顔を上げる。

今までずっと開くことのなかったその瞼が、ゆっくりと開いていく。

僕は驚き、目を見開く。

彼女は眩しそうに瞬きすると、こちらに目を向ける。

僕も彼女と視線を合わせる。

彼女は、幼馴染はゆっくりと微笑んだ。

幼馴染「おはよう」

僕も、涙を流しながら微笑んだ。

主人公「おはよう! 」


~END~


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[良い点] 安定してました。 [気になる点] 良くある話かなって思いました。 [一言] 頑張ってください。
[良い点] 普通に面白かった [気になる点] 王道な話だからこそ安定して読めるんだけど、個性がない 「よくある話」みたいな感じ [一言] ちょっと誤字があった
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