剣客の妖との戦い
（ちっ、まぁそんな器用なことがまだできるわけないな。ここで妖を倒すぞ）
マガツヒもその気になったらしく日和に対してそう言った。
妖は攻撃を避けられたことで首を傾げていたがすぐにこちらを見ながら刀を構える。お互いにらみ合う。
（我が指示するまで攻撃はするなよ。奴に隙を見せればさっきも言ったとおり斬られるからな……それまで奴の攻撃を避け続けろよ？ 我の言う通りにな）
「分かった」
マガツヒの指示で動かなきゃ今はやられてしまう。ここは避けるのも攻撃のタイミングもマガツヒに頼るしかないのだ。するとマガツヒの言葉が聞こえない妖は独り言を言った日和に対してまたもや首を傾げたがすぐさま地面を蹴ってこちらに猛スピードで斬りかかって来た。
（右に避けろっ。そして奴はそのまま横になぎ払うようにして斬りかかって来る。そこを薙刀で防げ！）
指示されたとおり右に避け、横になぎ払うようにして斬りかかって来た攻撃を薙刀の柄で防ぐ。
「ぐうっ！？」
妖がならばと言わんばかりにそのまま押しかかってきたのだ。身体能力は妖の方が上なので日和は簡単に力負けして押されていく。
（刃に注意しながらそのまま受け流せ！ 奴は力で押してきている。いきなり受け流せば勢い余って隙を作る……そこに斬りかかれっ）
「くううっ……てやっ」
日和は妖の攻撃を受け流した。すると妖は勢い余ってそのまま日和がいた場所に突っ込んでしまい、日和から見れば妖は背中を見せている構図になった。
「そこっ！」
薙刀を大きく振りかぶって斬りかかる……が瞬時にこちらを向いて刀でそれを防ぐ妖。攻撃を受け止めた妖はニヤリと笑うと懐から小刀を出した。
「しまった！」
今日和は薙刀を受け止められている……薙刀はその長さ故他の武器を持っている者と対峙したとき長さを生かして攻撃できるがその長さが悪い所でもある。何故なら攻撃を受け止められたときに大きな隙が生まれてしまうのだ
妖はがら空きになっている日和の懐に素早く潜り込む。受け止められていた薙刀を引き戻し攻撃を受け止めようとするが既に遅く妖が日和の腹を目掛けて小刀を突き刺そうとしているところだった。
やられる……そう思ったとき突如妖が吹き飛んだ。
（やれやれ世話の焼ける奴だな。あんなに大きく振りかぶって斬りかかろうとすれば防がれるに決まっているだろうに……）
妖が吹き飛んだのはマガツヒが力を使ったからだろう。妖は吹き飛び竹を折りながら遠くに飛ばされて行った。
（お前は武術を習っていたのではないのか？）
「確かに習っていたけど実戦経験はないの」
日和は武術を習っていたがそれは兄上を守るためにやっていただけだったし、それに国は平和だったので実戦を経験できなかったのだ……まぁ、それにこしたことはないのだが。
（実戦経験はないとは言ってもどんな攻撃をすれば良いかぐらいの判断はできるだろうに……攻撃方法も指示しなくてはいけないのか？ それとも私がお前を操って代わりに戦ってやろうか？）
マガツヒの言葉を聞いて日和は首を横に振ってそれを否定する。これは復讐なのだ……自分の手で妖を倒したいのだ。今はマガツヒの指示で動いているが将来的には自分自身の力でたおしていきたいのだ。そのためにも今は多く実戦を経験しなくてはいけないのだ……自分の力で、そのためにも日和はそんな操り人形みたいなことになるのは嫌なのだ……とそうこうしている間に妖がこちらに向かって走ってきていた。
（ちっ、今度はしくじるなよ）
「分かってる」
薙刀を妖に向かって構える。それを見た妖は突如横に跳んで竹に自分の足をぶつける……すると竹がしなり妖は宙に飛んだ。
「なっ！？」
そんなことしてくるなんてと驚き声を出す。宙に舞った妖はそのまま違う竹に足をぶつけ、さらに速度を上げ次々と竹から竹に飛び移りこちらを翻弄してくる。そしてもはやどこにいるのかすら分からなくなってきてしまった。目で追うとするが速すぎてついていけない……あちこちを見る日和は隙だらけだった。
そして背後から音が聞こえたと思い振り返ると眼の前に刃が迫っていた。竹を利用して妖は素早く移動すると日和に隙が出来た所を見計らってそのまま日和の後ろの竹に飛び移り勢いをつけ、背後から襲い掛かってきたのだ。
（ちっ、結界！）
マガツヒがそう言うと紫色の結界が張られ日和を刃から守る。ギギギッと刃と結界がぶつかり合う音が竹林に響き渡る。妖は破ることは出来ないと判断したのか攻撃をやめ、日和から距離をとる。
「はぁはぁ……」
心臓がバクバクと音を立てている。マガツヒが結界を張ってくれていなかったら目に刃が突き刺さっていたのだ。
（本当に世話が焼ける奴だなお前は……我が結界を張っていなかったらやられていたぞ）
「ごめん……次はしくじらないから」
日和は再び薙刀を握り締め、妖を睨みつけながら言った。
