妖退治の旅(復讐)始まる
チュンチュン
聞こえてきた雀の声で日和は目を覚ます。体が重くもダルくもない……どうやら本当に風邪を引かないようになっているらしい……運良く引かなかっただけかもしれないが。
(起きたか。早速妖退治に行くか)
起きたばかりの日和に妖退治をしようと言うマガツヒ。
「私はマガツヒと違って朝ごはん食べなきゃいけないのです。それに顔も洗わなきゃ」
うんざりしたように言い返す日和。日和は人間なのだ。神様とは違うので朝起きたらやることがたくさんあるのだ。
(むぅ……ならば川に行き、そこで顔を洗え。食事についてはそこになっている木の実で済ませればいい)
「川ってどこにあるのですか?」
(ここから東に行ったところだ。わりと近くにある……歩いていけば十分で着くだろう。そして敬語はやめろ。戦闘中に敬語なんて使っていたら不便極まりない)
「……わかったよ。マガツヒ」
日和は敬語をやめ、タメ口にする。それに満足したようにマガツヒは笑った。その笑い声を聞きながら東に歩いていきやがて川に出ることができた。
川の水で顔を洗う。手ぬぐいがないので服の袖拭く。もちろん血がついていないところでだ。
顔を洗った後日和は近くの木になっていた木の実を取るとそれを食べた。毒があるか分からなかったのだがマガツヒが毒はないと言ったので安心して食べることが出来た。だがいつまでもこうして過ごすわけには行かない。どこか村、人が住んでいる所に行き安定した生活を送らなければいけない……その場しのぎの今の生活を続けることなど難しいのだから。
「まず村を見つけなきゃね。妖退治(復讐)は後にする。いいでしょマガツヒ?」
(最優先しなくてはいけないのは生活面の方か……分かったそれでいい。だが村がどこにあるのか分かるのか)
「それは分からない。今私がいるところは城から随分離れた場所だろうし……それに早目日城の城下町の人たちに見つかったら妖退治どころじゃなくなりそうだからもっと離れた場所でひっそり暮らさなきゃ」
今は生き残ったか分からないがもし城の者たちが日和を見つければ跡取りとして城主の座に縛りつけ外に出ることが困難になってしまう。だから日和は離れた場所に行かなくてはいけないのだ。
(歩いてる途中でも気を抜くなよ? まぁ、妖が近づいてきたら私が知らせるがな)
「それも邪心を読むことが出来るからだね」
(あぁ、そうだ。呑み込みが早いな)
それから日和とはとにかく歩くことにした。今どこにいてどこに住める場所、村が在るのか分からなかったからだ。前に進まないと出来ることは限られてくるのでなるべく早く人がいる場所に出たい……その一心で歩いていると徐々に竹が増えていき、いつの間にか竹林に迷い込んでしまったようだ。
「神社に戻ってそこから進めば良かったかも……」
だがもう遅かった。何故なら戻ろうとしても何処から来たのか既に分からないからだ。
(迷い込んだのはまずいぞ。夜になる前に早く出なくては……妖にでも襲われたりでもしたらこちらが圧倒的に不利になるぞ)
夜の闇で目が利かなくなり妖の居場所がわからなくなり、しかもここは竹林の中……どこから襲ってくるかマガツヒが分かっていても私が避けることは難しくなる。一刻を争う問題だった。
「とにかく歩いて森から抜け出さなきゃ……ん? あそこに誰かいる」
日和が前を見ると後姿しか見えないが、髪の長い女がこちらに背を向け立ち尽くしているのだ。日和はこの竹林を抜け出せる方法を知っているのではないかと思い、女に駆け足で近づいていくが、
(止まれ日和、奴は妖だ!)
マガツヒの言葉を聞いて走るのをやめて止まった瞬間だった。
ピュン!とかなり甲高い音を鳴らしながら目の前に何かが横切ったのは……。
「うわっ!?」
いつの間にか女が目の前に立っていた。日和にはこの甲高い音の正体が分かっていた。武術を習っていたときに自分は刀を扱ったときがあった。この音は刀を振ったときに出る音……つまり刀で攻撃されたのだ。
(次が来るぞ。刀を水平にお前の胴体を狙ってくるところを薙刀で守れ!)
マガツヒの言うとおりに薙刀の柄で攻撃を受け止める。その時相手の顔が見えた。目がギラギラと光っておりその様子は暗闇にいる猫のようで肌はやはり前の妖と同じく黒色だった。着ている服は違ったが。
「くうっ」
柄で攻撃を受け止めながら長さを利用して刃を相手の方に向け突き刺そうとするが、妖は攻撃をやめて跳び、こちらと距離をとった。
(奴は剣客の妖と言ったところだな。武器の長さはこちらが上回っているがそれ故下手な攻撃をしたら懐に入り込まれて斬られるぞ。身体能力は相手の方が遥かにある。この竹林の中戦うのは厳しいぞ)
「敵に背を向けることなんて出来ない。ここで倒さないと……それに竹林から戦いながら出ることなんて出来ないでしょ」
日和は薙刀を強く握った。