神の正体と妖との戦い
(さっきから決断も何もかも早いな。まぁいい……それでは行くぞ)
そう言うと黒い球体は日和の目の前まで浮かんで来ると、球体から煙のようなものが出てきて日和を包み込んだ。それに驚き、思わず目を閉じてしまう日和。
(終わったぞ。成功だ)
目を恐る恐る開けると目の前にあった球体はなくなっていた。
(あの球体は仮の姿だ。今はお前に憑いているからなくなっただけだ。お前は正式に依り代の対象となったわけで我の加護も受けれるぞ)
「加護って何?」
不思議な気持ちになりながらも尋ねる。
(神仏が力を与えて守り助けることだ。我の加護の力は災厄から逃れられる、悪を悪だと判断する……だな)
頭に直接響く声だったがもう日和は驚かなくっていた。
「そういえば神様はどんな神様なのですか?」
まだどんな神様なのか聞いていなかった日和は尋ねるがこれが驚愕するほどの答えが返ってくるとは知らずに……
(我の名前は禍津日神。災厄の神だ)
「えっ……禍津日神!?」
禍津日神は神様関係のことはあまり知らない日和でも知っているぐらいの神様だった。それも悪神と恐れられた禍津日神だ……日和は恐ろしくなってしまった。やはり憑くのは取り消してもらおうと思い言おうとすると、
(今からお前の体から離れる事はできんぞ。何せもうお前は依り代になったのだからな)
その思いは読まれたかのようにかき消された。
(安心しろ。災厄の神と言えどお前に災厄が降りかかることはない……依り代を潰すようなまねはしないぞ)
「で、でもっ!」
(お前は復讐したいのだろう? 我なしでは今のお前はまともに戦えんぞ)
「うっ……」
そうなのだ。武術を習ってはいたが実際に命を懸けて戦うのは初めてなのだ。それに今の私ではまた震えて足が動かなくなってしまうだろう……もういいや。日和は吹っ切れた。
「でも、どうやって支えてくれるの?」
(我が相手の動きを見て避ける方向を言う、攻撃するタイミングを言う。お前はそれに従って体を動かす。それだけでお前は勝てる。それに相手の動きを止めたりも出来るぞ)
「そうなの?」
(あぁ、さっき妖を吹き飛ばしただろう。ああいうのも出来るんだ。そうだ、お前を襲っていたやつらは妖と言って邪念とかの塊だ。普通の人間がかなう相手ではない)
「妖……」
やはり動物ではないのだ。あの強さは凄かったもの……
日和がそう思っていると禍津日神が、
(噂をすれば何とやらだな……来たぞ)
そう言ったので外に出てみると……
妖がいた。
「あのとき吹き飛ばして倒したのではないのですか?」
(あれはただ吹き飛ばしただけで殺傷能力はないぞ)
何だとがっかりしかけた日和だったがある疑問が浮かんできた。
「どうして妖は私たちが話している間に攻撃してこなかったのですか?」
当然の疑問である。私が禍津日神に憑かれる、話をしている間に攻撃してくればよかったのに何故、今になって来たのだろうか。
(私が奴を結界の中に閉じ込めておいたからだ。さっきも言ったろう? 相手の動きを止めることが出来るとな……まぁ、我も弱体化して結界も破れやすくなっているからな。奴はそれを壊して来たのだろう)
「なるほど……」
日和は兄から託された薙刀を握り締め、心を引き締める。目の前では妖がこちらを睨みつけてきていたが……いきなりこちらに走ってきて殴りかかってきた。
(右に避けろ!)
「!!!」
禍津日神の言葉どうり右に避けると妖の攻撃は当たらなかった。凄い……素直に感心しているとすぐさま次の指示が出た。
(奴はそのまま腕をなぎ払ってこちらに攻撃してくる。姿勢を低くし、そこで妖の腹に刃を突けっ)
妖は避けられたのが予想外だったのか首を傾げていたがすぐこちらに腕をなぎ払って攻撃してきたが
指示どおり姿勢を低くすると当たらずそのまま日和は相手の腹を目掛けて薙刀の刃で突く。
ズブッ……
刃は妖の腹を貫通した。妖の血らしき黒い液体が薙刀の柄に流れてきて日和の手につく。その黒色は本当に人の邪念で出来ていると思わせるほど黒かった。闇……夜のような色。
妖はそのまま血を流し倒れた。前のめりに倒れてきたため日和の体に妖が寄りかかるような感じになってしまう。日和はすぐさま妖を蹴飛ばし刃から抜くと、妖を見つめた。日和の服は血を出しながら寄りかかってきた妖のせいで黒く染まっていた。ベタッと肌に服が張り付いていて気持ち悪かったが、それ以上に命ある者が目の前で……しかも自分が殺した妖の死体。その考えが頭にできるとさらに気持ち悪くなり吐きそうになってしまうが何とかこらえる。
(これからこういう戦いはたくさんあるんだ。慣れておけ)
「は、はい……」
そうだ。これから復讐するためたくさんの妖と戦い、血や死体などもそれに応じてたくさん見ることになるのだ。