神との出会い
日和は兵士が引き付けている間に洞窟から飛び出し、走りだした。目的地はない……ただただあの正体不明の敵から逃げ延びるまで走り続けなければいけない。
どうやら兵士はやられてしまったようで日和を標的にし、追いかけてきた。
「はぁはぁはぁ……っ!」
必死に逃げ続ける。木の根に足をとられないように気をつけながら雨の森の中を走り続ける。
メキッ……バキバキバキッ……ドゴッ!
木が折れる音や岩が壊される音を耳にして分かった。木や邪魔な物を破壊しながら強引に追いかけてきているのだ。
「はぁはぁ……」
武術を学んでいて良かった。武術を学んで体力をつけていなかったらとっくに足が動かなくなっていただろう……そう思いながら走っていると先ほどまで草木で他には何もなかったのだが地面に階段のようなものが上れと言わんばかりに上へ続いていた。そこに導かれるように日和はコケやところどころ砕けた古そうな階段を駆け上がっていった。
正体不明の者もそれを見て階段を四足歩行で駆け上がっていく。正体不明の者が階段を駆け上がるたび階段はいとも簡単に崩れていく。
「うううっ!」
体力が限界に近づきわき腹の辺りが痛くなってくる、呼吸が荒くなっていくがそれでも諦めず夢中で駆け上がり階段を上った先には……
古びた神社があった。敷地の石畳にはところどころひびが入っており、手入れがされていないことが分かった。
「しまった……」
神社以外には何もない、開けた場所に出てしまったのだ。こ逃げ場所がない……そう思っていると、
ドガン!
音を聞いて振り返ると正体不明の者が階段から一気に跳んで来て石畳を壊し、こちらを見ていたのだ。すると目が合ってしまった……その瞬間蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。
だんだんとこちらに近づいてきているが体が動かない。そのままこちらに近づいてきてとうとう
日和の目の前まで迫ってきた。その存在に恐怖し、涙が出てしまう。
グゥゥ……
正体不明の者の声が聞こえる。地の底から響いてきているようなおぞましい声だ……そして、手を振り上げた。
あっ、死ぬ……そう思ったときだった。正体不明の者が階段の所まで吹き飛んでいったのは。
「えっ? い、一体何が」
突然吹き飛んでいったことに驚いていると、
(我の領域に妖が入り込んでくるとは良い度胸だな)
頭に直接声が聞こえた。どこからだろう?そう思いながら辺りを見回しているとまた声が聞こえた。
(そこの娘よ。神社の方へ来い)
娘……ここには今私しかいない。日和は警戒しながら神社の方へ向かった。
「うわぁ……凄い埃」
神社の中に入った日和はその荒れ果てように驚いていた。この神社を作り上げている木材はところどころにヒビが入っており崩れたりしないか心配なほどだった。おまけに埃も凄いし、畳も荒れていた。
ここは本殿だろうか?外観が小さく倉庫みたいだったので神社というのに相応しいのかそんな知識がない日和にはわからなかった。
神社の中の一番奥には黒い球体のようなものが浮かんでいた。
「何だろう? これ」
気になり触ろうとすると、
(おい! 気安く触るな。我は神だぞ)
「えっ!?」
触ろうとするとまた頭の中に直接声が聞こえてきた。さらに自分のことを神だと言っていた。気安く触るなということはこの黒い球体が神様?
(まったく、大神に封印されてこんな姿になってしまい力があまりないところに妖がくるとはな……娘よ感謝しろよ)
やはりこの球体が神様らしい……はたから見ればただの球体だが。
「神様、有難うございます。危ないところを助けていただき、本当に有難うございました」
日和は球体の前で跪き頭を下げる。こういうことがすんなりとできるのも兄上といたからである。
(ほぉーーこんな人間久しぶりだな。すんなりと頭を下げた人間は何百年と見ていないぞ)
感心したように言う神様。だがすぐに感心するのをやめ、
(だが、どうして妖に追われていたのだ?)
何故追われていたのかを聞いてきた。それに正直に日和は今まであったことを全て話した。すると……
(そうか……お前はそいつらに復讐したいとは思わんか?」
「えっ?」
そんなことを聞いてきた。復讐は確かにしたいけど私じゃあ力不足だし……その考えを読んだかのように神様がこう言った。
(心配いらん。我がお前の戦いを支えてやる。お前に憑いてな)
「本当ですか! でも憑くって……」
(安心しろ。悪い影響は出ない。さぁ、するか? しないかどっちだ)
憑かれてどんな感じになるのか分からない……だけど復讐はしたい。そう思っていた日和はすぐ憑くことを了承した。