死にたがりの集まり
真っ暗な部屋に一人、男がいる。
髪は無造作に伸び顔が確認することができない。
この物語は彼の物語なのだろうか。
それは私にもわからない。
だがこの物語はこの場面からはじまるのだ。
男が消えそうな声で呟く
「死にたい」
第一話「死にたがりの集まり」
「はじめまして!僕、今日からヒーローになりますマコトです。よろしくお願いします!」
自分でもびっくりするぐらいとても大きな声が出た。
これからの自分の人生に期待を込め、夢と希望に溢れんばかりの声を出したのだ。
とても緊張しているので笑顔は強張っているのだろう。
その場にいた人達がみんな僕を見ている。
「新人君だ!ボクねーボクねーハイっていうんだ。よろしくね」
ハイと名乗る少年は、僕の目の前に立つと手に持っていたクラッカーを思い切り引っ張り、
目の前で鳴る音に僕はびっくりして思わず後ずさりをしていた。
「ようこそ!死にたがりヒーローズへ」
大きな音と一緒に少年・・・
ハイが口にした言葉に、頭にハテナが浮かぶ。
「死にたがり?ですか?」
「うん!死にたがりー。ボクたちは死にたがりだからって政府の人はそう呼ぶんだよー!
君も・・・そうでしょ?」
「いや、僕は……」
「違うのー?!だったらなんでヒーローなんかになったの?」
ハイテンションで話しかけてくるハイに対して聞きたいことがたくさんあったが、
衝撃的な事を言われたせいで僕の言葉は喉に引っかかってしまい上手く口に出すことができなかった。
すると部屋の奥から綺麗な髪の長い女の人が僕とハイの元へとやってきた。
「ハイ、あんたちょっとうるさいから、テーブルに置いてあるケーキみんなで先食べて待ってなさい。」
「はいはーい」
「返事は1回」
「はぁい」
女の人の声は低く、よくみると喉仏がでていた。
そうか、そうなのか、と心の中で呟き、僕は失礼のないようにしなきゃと身構えた。
そして女の人……いや、その男の目をまっすぐ見つめた。
「あの…」
「やーね、とって食ったりしないからそんなビビらないでよ……って、まぁそれは置いといて、あなたがここに来た理由聞かせてちょーだいよ」
ニカッと笑う彼の笑顔は男だとわかった後でも見惚れてしまうものだった。
僕は恥ずかしくなって顔をうつむき、そして口を開いた。
「僕は、テレビで見たヒーローがかっこよくて憧れていたんです。僕にも能力があるってわかったときに人のために戦いたいって思いました。」
「ふーん。ねぇ、生きたい?死にたい?って聞かれたら何て答える?」
「そりゃ死にたくないので生きたいですよ」
なんで突然そんなことを聞くんだ?
不思議に思いながらも男の次の言葉を待った。
「私たちはね。みんな死にたいって即答するの」
「っえ?」
「この世界に絶望してるのよ。まぁ詳しくはみんなと一緒に話しましょうか」
「あの、すみません」
「なあに?」
「あなたの名前聞いてもいいですか?」
「ああ、そうだったわね。私のことはケイコって呼んで」
憧れていたヒーローになったと思ったのに、
いきなり死にたいだの、絶望してるだの言われて僕の頭は混乱しまくっていた。
とにかく話を聞かなければ、と思い男についていく。
テーブルには僕の歓迎会用のケーキだろうか?
置いてあったが既に半分は消えていた。
そのテーブルにはハイを含め、4人が座っていた。
「やっと来たか」
黒髪で短髪の爽やかな男が待ちくたびれたぜと言わんばかりの顔つきで僕に話しかけてくる。
「俺はセイ。こいつらまとまりないから一応俺がまとめ役をやってる。よろしくな」
「よろしくお願いします。えっと僕は……」
「さっきアンタがでかい声で言ったから知ってるわよ」
もう一度しようとした自己紹介は女の人の声によって遮られてしまった。
「あらやだーこわーい」
「うるさいオカマ」
「別にオカマなわけじゃないわよ!どっちかっていうとバイなんだから!襲っちゃうわよ」
「あっそ……」
なにやら言い合いが始まってしまった。
どうしたら良いのだろうかとそわそわしていると
セイさんが手をパチンと叩き、ものすごい笑顔を見せると二人は大人しく席についていた。
「悪いな。こいつらいつもこんな感じで、さっきからケイゴと言い合いしてたのがヨル。口が悪いんだけど悪いやつじゃないから、そっちの端に座ってるのがユメ。ヨルと比べると大人しいな」
「その名前で呼ばないでって言ってるでしょ!ケイコ私はケイコなの!」
「そうだよー!ケイちゃんはケイちゃんなんだよー!」
「悪い悪いケイゴのほうが俺は呼びやすいんだよ」
ケイゴと呼ばれたのがそんなに嫌だったのかケイコさんはすごい形相でセイさんを睨んでいた。男の顔だ。その隣でハイもケイコさんの真似をしてセイさんを睨んでいた。
「ユメです。よろしくお願いしますね」
重くなった空気を変えようとしたのか端に座っていた女の人が立ち上がり僕に挨拶をした。
この人がユメさんか……
ヨルさんは黒髪の似合う見た目からちょっときつめの女の人だ。
一方ユメさんはお嬢さんという印象のふわふわした感じだ。
「まぁ今のところはここにいるメンバーが主要かな。他にも数人いるんだけど一緒に行動してないんだ。聞きたいことがたくさんあるだろうからとりあえず君も座って、話をしよう。」
僕はごくりと喉をならして席についた。