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新釈 走れメロス

作者: サンセット

 ディオニス王は激怒した。必ず、かの邪智暴虐のメロスを除かなければならぬと決意した。王にはメロスの思考がわからぬ。王は、シラクスの統治者である。戦略を学び、現実的な政治を目指して来た。けれども浅学に対しては、人一倍に敏感であった。


 ある日、不審人物として捕えた男は、自らをメロスと名乗った。短剣を持っていたので問い詰めたが、「市を暴君の手から救うのだ」などと説教を始め、処刑を仄めかすと結婚式のために三日待てと言ってきたり、どうも埒が明かない。

 メロスの言動を見る限り、何処かの国の刺客などではなく、単なる正義感が強いだけの馬鹿のようだ。本当に決死の覚悟があるならば、せめて妹の結婚式に出てから来るべきではないのか。この期に及んで猶予をくれとは、あまりにも厚かましい。

 さらに驚いたことに、セリヌンティウスという友人を人質に置いていくと言い出した。おまけにセリヌンティウス自身も、何の文句も言わずにやってきた。どうにも怪しかったが、調べても何も出てこなかった。とにかく彼らは友情を示すことで、あるべき政治の姿を訴えたいらしい。


 ああ、こんな民のために、真面目に政治を行う奴の気が知れぬ。政治とは無価値である。過去に善政を行ったという王は数多くいるが、長続きはしなかったし、犯罪も無くせなかったのだ。政治は人並みに学んできたつもりだが、しかし嫌いだ。他人を信じることは重要かもしれないが、しかし非合理である。

 三日目の終わり、日の沈みかける頃になって、メロスは来た。これには正直驚いた。あんな無計画な男のことだから、どうせ日限を超えてから来るだろう、そういういい加減な男だろうと思っていた。まさか間に合うとは。既にセリヌンティウスは磔にされ、死は目前であったが、約束をした以上、縄は解かねばならぬ。

 ああ、これは私の負けだ。見ろ、さっきからメロスとセリヌンティウスの二人が、どういう訳か互いの頬を殴り合っている。しかし民は嬉しそうだ。ここはひとまず、彼らに合わせておくのが得策であろう。

「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい」

 その瞬間、民の間に歓声が起った。

「万歳、王様万歳」


 それから一月ほどが経った。あの件があった以上、王も多少は穏便になった。しかし、相変わらず政治は腐敗しており、外においても身勝手な犯罪が絶えなかった。そして段々と、もとの脅迫的な政治に戻って行った。その間にも、メロスのような人間が現れなかった訳ではないが、根本的に政治が変化するには、まだ長い時間が必要そうであった。


<終>

「メロスって王の暴政を止めに行った割に、三日の猶予を頼んだりしていい加減だよね」みたいな話を聞き、言われてみれば確かにそうだということで話を考えました。実際、デュオニス王が正しいとは思いませんが、メロスのような考えで上手くいく訳でも無いんだろうなと思います。

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