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花びらひとひらてのひらに 前編(1)


―-それは小さな、小さな花びらで

  誰も気づかない花びらが、手のひらに落ちてきたら

  おれはそれをぎゅっと掴んで離さないだろう

  小さくて、

  他人から見たらちっぽけで

  でも、確やな感情をこの胸に与えてくれる

  暖かなそれを、 きっと。





0



『この電話は、お客様のご希望によりおつなぎ出来ません』

「はっ?」


 ——プツッ、ツー、ツー。

 まあ、待て。落ち着け。なんかの間違いかもしれない。

 宛先は、中村充、と。

 うん、これで大丈夫なはず。さてもう一回。


『この電話は、お客様のご希望によりおつなぎ出来ません』


 おっと。またこれかよ。おっかしいな。

 なんて思ったのでスマホで検索。

 判明した事実を受け止める。

 いやまあ、わかってはいた。

 まあ、待て。落ち着け。

 たまたまなんかのなにかしらのあれがああなって、こう……! 宇宙誕生的確率で生じた偶然の産物なのかもしれないじゃないか!

 ということで、ワンモアタイム、ワンモアチャンス!

 

『この電話は、お客様のご希望によりおつなぎ出来ません』


 はい。間違いありませんでした。

 認めたくないけど。

 どうやらおれ。

 着信拒否、されてるは。

 それも親友であるはずの存在から。

 なんの前触れもなく。

 ははは。


 なんで?




     $      &      $




 雷が落ちてきたような衝撃が走り、手を震わせながらスマホをベッドの上に置いた。

 なあ信じられるか?

 休みの日の予定を立てようかと、軽い気持ちで親友に電話したら、着信拒否されていることが判明したんだぜ?

 軽く死にたくなるよな。

 なんでこうなったのかと立ち尽くして幾星霜。

 ……実際は数分といったところだろうか。

 悲しいを通り越してなんだか笑えてきた。

 考えてみればこうなった理由はいくらでもありそうでいて、どれも違うように思える。


「は、やめだ」


 これ以上考えるとおれのガラスのハートがこなごなになってしまう。今度会ったときに問いただせばいいよな。また会えれば、だが。

 それにあいつのことだ。

 きっとおれを嫌いになったから、というありきたりな理由ではあるまい。……とおれが思いたいだけなのかもしれないけど。


「……ったく、どういうつもりなんだか」


 おれは小説を書くため、背水の陣を敷いて26になっても定職に就かない、というこの世界ではある意味勇者的存在である。

 その現状とはバイト生活に明け暮れる日々だった。

 ファミレスではF・Kとこなすオールラウンドプレイヤー(都合よくワークスケジュールにラインを引かれる存在)になり、24時間営業をしているスーパーではレジもすれば魚も捌く万能戦士(ただの雑用)と化す。そのうえ新聞配達をしているので、休みなど一か月に一回か二回。それもほかのバイトと重なれば消滅する。

 ゆえに、休みの日は、貴重だ。

 貴重なのだ。

 大事なことなので二回言った。しかし。


「はあ、休み、 なにすっかな」


 仕事をしているときは、こうして予定を立てながら休みの日を楽しみにして過ごすのだ。

 しかし、結局は一日を有用に使えず終わってしまうこともしばしば。

 時間というやつはいつもおれを困らせる。いっそ休みの日だけ48時間にしてくれないかなって思う。思ったあとすごく虚しくなる。気力値なるものが減少する。ならば無駄な想像はしない方が賢明なのだろう。

 そう、世の中にはどうしようもないことがある。

 中には考えたって覆らず、一生付き合っていかなければいけない問題というものがあるのだ。そうした問題をいちいち真剣に考えていたらどうなるか。

 言うまでもないだろう。だがあえて言おう。

 うつになる!

 たとえ、親友にあたる存在から着信拒否されていたとしても、この場合は直接問いただすまで考えないことこそ得策なのである。

 気晴らしに何かをしようとたまたま目についたリモコンの電源をつけ――、


『星河天音さんが引退を発表しました。有名アニメの声優に抜擢され、朝ドラの主役になったことから一気に有名になった——』


 釘付けになった。

 テロップを食い入るように見る。


『星河天音さん引退。人気絶頂の中の表明。なぜ?』

「……やりやがったな」


 キャスターやコメンテーターが口々に戸惑いの声をあげている中、唇の片側がどうしようもなく引っ張り上がってしまうのがわかった。

「そういうことかよ」

 ため息をつき、テレビを消す。

 なぜ着信拒否されたのか。

 答えを確かめるために、おれは部屋の隅にあるパソコンが置かれた机の、一番上の引き出しから一冊のノートを取り出した。


『Top Of The Fantasy』


 題名の下には、古代の甲骨文字とラテン語を組み合わせたような不可思議な文字列。

 引き寄せられるようにおれは文字をなぞっていた。

 解読すればこうなる。

 久保眞人、中村充、西森康平。

 甘い思い出の香りに誘われるがまま、交換小説が綴られたノートのページを開いた。

 

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