8、俺の自由は
「ご報告致します!此度の戦いでは…」
「どうか我らのお声を…」
口々と言い募る人々。いい加減多いなと彼は小さくため息を溢した。さらさらの銀の髪がゆるりと流れる。それでもなんとか最後まで面談を終わらせ、ようやく一息ついた。
自分の元に頼りに来る者は多い。来るもの拒まずではあるが、基本的に彼は縛られることが苦手だった。ふらふらしていることが好きな彼にとって、今の玉座は重すぎる。
と、そんなふうに思ってると。
「ふぁ…ぁ…。……あー、終わったのー?」
上。
強いていうなら…隙間。そこから欠伸と、眠たげな声が響いた。彼は声につられてそちらを見上げた。
ふわり、とその声の主はそこから飛び降りて、玉座の横に舞い降りる。それから、ドスンと特になんの断りもなくその横に座り込んだ。
「スティ。なんだ、お前そんなとこで寝てたの?」
思わず呆れたように言うと、また1つ欠伸をして頷いた。
「ん…」
「いいなぁ、お前は自由そうで…」
「あっはは!王様ってばおーもしろいっこというなー!」
そう笑うと、彼は癖ッ毛の強い茶色の髪を揺らした。下から王を見上げ、にんまり笑む。
「俺の自由は戦場でしか適応されないっつーの」
そう言って、翳した掌に光が収束し、形を成していく。その果てに造り出されたのは、1本の刃。剣は黒く鈍く光り、彼の右の手に収まっている。たいして、王は丸っきりの丸腰だった。故に、対抗手段となる獲物はない。
それでも、王には彼が自分に刃を振ることはないとわかっていたから、ただ平静に構えていた。
案の定、スティはその刃を突き付けるのではなく、抱え込み、取り出した布で刀身を磨き出した。それでも、最初は切っ先を向けようともしたらしい、どことなく呆れたような表情をしている。
「ほんと、この王様は変わってるよねー黒音ー」
黒音。
そう呼び掛ける相手、は――その、刃だった。スティは刃を大事にする。名前をつけ、愛しく想う。意外にも彼は魔術の適正があるらしく、その刃は魔術によって産み出したものだった。本人は自らの力で切り刻むことが好きなので、魔術なんてめっきり使わないわけだが、少しもったいないと思う。
スティはあるとき、戦場の中で偶然見つけた少年だった。その手に握られた白と黒の刃は赤く光り、彼自身も赤に染まっていた。
少年は、独りだった。
だから、拾った。
(敵方のスパイとかだったらどうするのです、とか色々言われたけど)
彼が自分を裏切る?
――それはしないだろう。
「…まぁいいけど、ね。俺は王様についていーくって決めちゃったしぃね。」
スティは嘘が嫌いだから。
「失礼します、王。入ります」
コンコン。
控えめな音とともに、扉がノックされ、ゆっくりと開く。そこにいた女性をみて、スティはぷいっと子供のように顔を反らした。
《南》は少し暑すぎる。そんなことを思いながら彼は一瞬だけ、遠くにいるであろう少女を思った。