4、リーティ
私が小さい頃から、リーティは傍にいた。
今とあまり変わらない無愛想で、よく私の面倒を見てくれたものだ。時々やんちゃをやらかしては長いお説教を食らうことも1度や2度ではなかったと思う。元々彼は孤児だったようで、私の母親……もう病気で亡くなってしまった母様が連れてきた少年だったらしい。正直いって、初めて彼に会った日のことを私は覚えていなかったりする。
「でも、リーティはほんっと短気なんだよね…」
それはもう、ため息がつくぐらい。あとケンカっぱやいのも難点かもしれない。
「最近姫様そればっか。」
「だって!リーティすぐ怒るもん。先生とかは全然怒んないのに」
「おまっ…あの人は例外だろ、あの人は優しすぎんだよ!」
「さしずめリーティのは愛の鞭?」
「そうそ…いや、愛?愛はねぇよ?」
「ないの?!」
めっちゃ純粋な瞳で首をかしげられた。
リーティは私の剣の師匠だ。
恐らくだけど、この《北》では彼に敵わない剣士はいないだろう。それだけ彼は強い。
その裏には確かな努力があることも知ってる。だからこそ、私はこの青年が、従者が誇らしい。
はずかしいから、口には出さないけど。
と。
くすくすと、そんな忍び笑いが聞こえてきた。否、これは隠す気も毛頭ないのだろう。2人揃ってそちらをみる(リーティは睨み付けたが)と、笑いの主はハッとし、慌てたように咳払いをする。
……が、やはりこらえきれなかったようでまた肩を震わせた。
案の定というべきなのか、やはりリーティがキレた。
「お前なぁぁ!!いつまで笑ってんだよ!!」
怒鳴られた青年は手をひらひら振ってから、そっと目頭を拭った。
「ご、ごめんごめん…2人が楽しそうで、つい」
鮮やかなオッドアイの瞳にじわりと涙が浮かんでいた。近くを通り掛かった衛兵が、リーティの怒りにびくっとしてしまっている。
「姫様とリーティ仲良すぎて…」
「うんまって?それ嬉しいんだけどねなんかタイミング変だよね?」
先ほどの会話でどうしてそうなった。
かろうじてリーティは私の前だから、というのを意識しているらしい、腕組みをして苛立ちをこらえてはいるが、今にも抜刀しそうである。リーティは言う。
「大体てめぇ、救護班の援助に向かったんじゃなかったのかよ、エン」
闇夜の髪色をした青年は、ようやく落ち着いたのか、にこりと笑って唇に指を当てた。