五・五話「折鶴」
いつの間にか外からの光はなくなり、部屋は暗くなっていた。
それを感じていることに喜びさえもはや沸かなかった。
センコウが消えた。
あの時始めに分かったのはそれだけだった。
何も分からず、すべてを分かり、ただ虚空を眺める。
空っぽの心に何かが入ってくるのから逃げるように絶叫した。
そして狂乱した心が次に考えたのは救出だった。
車から飛び降りセンコウを助けようと、ただ分かりきっている事実から逃げるようにそう思った。
しかしそれはイシカの乱暴な運転とその後の押さえ込み、そして増援によって私は薬を打たれて眠らされ防がれた。
最初は薬を使われたことに驚いたが、少し冷静になった今ならその判断が正しいことに気づいた。
あのままだったら恐らく私は衝動的に自殺していただろう。
そんなことがあり、私は今、ベッドの上で身じろぎもせずにただ息をしていた。
考える思考はただ空白で、思いは募らず崩れていく。
何かを感じればその瞬間張り詰めた何かが溢れてくることを、ただ本能的に分かっていた。
しかし、それさえ無為な時間により落ち着いてきた思考では無意味であり、本能は圧倒的な理性に食いつぶされていた。
いなくなった、消えた、この世界からなくなった、もう会えない。
どんな言葉でその一言を隠そうとしても、もはや隠してるのを分かった頭は圧倒的な現実を見るために言葉を削っていく。
消えた消えた消えた消えた消えた消えた消えた消えた消えた消えた消えた消えた消えた消えた消えた消えた消え・・・・・・・・・・
そんな言葉じゃない、この現象を表すただ一言、こんな思考を重ねるだけじゃ逃げることのできない言葉。
いなくなったいなくなったいなくなったいなくなったいなくなったいなくなったいなくなったいなくなったいなく・・・・・・・・・・・・・・・・・
その言葉だけですらぼろぼろと壊れていく心、最後の言葉だけを残しただ外見も何もなく壊れきった心。
センコウは・・・・・・
本能が危険信号を発する、もし薬を打たれずただ泣き叫んでいたら、こんなことさえ考えずにすんだのか、あの薬は、何かの感情を思う時間をすべて奪っていた。
センコウは・・・・・・・・・・・・・・・・
体さえその思考を危険と判断したのか、頭から強烈な痛みが発せられる。
センコウは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何かの感情が発することができなかった心は、変わりにドス黒い何かを満たしていた。
センコウは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これ以上は心が持たない、ドス黒い何かは徐々にその量を増やし、ギリギリで保っていたラインを侵食していく。
今まで違う言葉で、違う思考で、自分の心を把握することで耐えてきた感情は、逆にそれらを考えるたびにリアルに浮き上がってきた。
センコウは・・・
すべてを塗りつぶす圧倒的な感情と、その言葉。
センコウは・・・・・・・・・・・・・・死んだ
ギシッ!!!
心が悲鳴を発した、一瞬の虚無の後、得体の知れない何かが心を満たして、崩していく。
体が耐え切れないように、ベッドの上をのた打ち回る。
ここに居る人間は全員が未来への希望は持っていない。
みんなはただ死ぬまで楽しくすることが目標だった。
だから死ぬということはすべて終わることだった。
死んだ人間はもうほとんどそんなに立たない間に存在していた記録も、記憶も、痕跡も何もかもが消える。
この世界での死はそういうことだ。
そして自分の生を半分以上センコウに託していた私では、その消えたものを補う物は残っていなかった。
「あ・・あああ・・ああ・・・・・」
口から無意味な音が発せられる、息さえできないほど胸が苦しかった。
ベッドの上でのたうち回るうちに毛布は地面に落ち、枕は隅っこのほうに押し込められている。
ただ動き回っていた腕が自分の首を握り締めた。
ギシ・・・
腕が壊れるほどの力をこめて握られた首が音を発した。
掠れる世界、回らない頭、空気を求めただ開けられる口、石のように動かない腕。
ああ・・私も、いまそこへ・・・・・・・・・
なぜそう考えたかは分からない、ただ希望へのあまりにも身勝手な言葉だった。
眼が閉じられる、腕以外の何もかもが動きを停止したかのようにもはや何もなかった。
心も頭も体も、何もかもが虚無に満たされている。
最後にとでも思ったのか目が微かに開いていく、掠れた視界には闇しか写らないというだろうに、何かを求めるようにその視線は近くにあるテーブルの上に向けられていく。
その瞬間不思議な色が見えてきた、暗闇の中、ソレだけが存在を発しているかのように、白く浮かび上がっていた。
回っていなかった頭が動き出す、あそこにおいていたものは、視界に移る白いものは・・・・・・・・
『これ!ママとパパに、ほんをよみながらつくったの!!』
頭の中に声が響き渡った、瞬間、腕に込められていた力がなくなっていく。
頭に酸素が供給され、その白いものが記憶と共にはっきりとしていく。
そこに置かれているものは折り鶴だった。
ベッドを降り、テーブルの上の折り鶴を手に取る。
何もなかった心に光が差し込んでくる。
まだ、私は生きる目標がある。
センコウのほかにただ一人残されている、生きるための柱、それを頭が理解すると共に、すでに体は動いていた。
私とセンコウ、そしてユウナを結ぶ『三人だけ』の絆、『誰にも破られてはいけない』ただ一つの絆。
ユウナはいまどこにいるだろうか、私が帰って来たのに遊べなくて大騒ぎしていないだろうか。
やがて秘密基地の中を歩き回っていると、食堂が見えてきた。
中には、昨日会った新人とユウナの姿が見える、どうやら新人が相手をしてくれたらしい。
ユウナと一緒に生きていく、私が死んでしまうまで、今度はユウナのために、ユウナを心の柱に生きていく。
問題はある、まずはセンコウのことをどう説明するか、未来のことに思いをはせながら食堂に足を・・・
「これ」
声が聞こえてきた、それと共にユウナは新人に何かを差し出していた。
スナイパーライフルを練習しまくったせいで強化された視力がソレを明確に捕らえる・・・・・・・
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静かに最後の柱が折られていた、誰も気づかず、ただ日常の狭間に消えていく・・・・・・
思いのほかうまく決めれませんでした。
gdgdな文章でスイマセン。
前回と時系列は一緒の物語、前回の最後で書いたフラグの回収話
ここから物語は崩れていきます。
主人公の未来訪問は一体何を導くのか・・・・・期待しないで待っていてください。