第五話「秘密基地」
聞きなれた結構音が大きいアニソンが流れてくる。
それを私は、ゆっくりと手を動かし音の発信源である携帯を取った。
そして携帯そ軽く操作すると、音はすぐに鳴りやんだ、携帯の画面を見ると時刻は六時半だった。
いつもは何回かなってから起きるので、これはかなり珍しいことといえる。
しかし、起きる気にはなれず、布団にもぐっているとあの瞬間を思い出した。
脳内に響きわたる呟きと叫び、写真のように残る、リーフさんを押し飛ばしたセンコウさんと直後の空白。
気がついたら体はじっとりと汗をかいている
何も見たくない、何も聞きたくない。
しかし、寝たらまたあの夢を見てしまう、地獄の続きを・・・
そうやって、布団の中でずっとおびえていると、再び携帯から音楽が鳴り出した。
さっきしたように切ろうとするが、なぜかボタンがうまく押せなかった。
指を見ると少し震えていた。
・・・・・落ち着こう、学校は行かなきゃならないんだから、夢が怖かったからなんて理由で行かない訳にはいかない。
私は部屋から出てリビングに着き、すぐ近くのキッチンからコップを取り水を飲んだ、なぜかそこまで行くのにも足元は少しふらつくし、頭が痛みをずっとはっしている。
ゴクゴクと勢いよく飲んでいると、洗濯機でも回してたのか、お母さんがやってきた。
「あら、おはよう、今日は早くに起きれたのね」
「うん・・おはよう」
「どうしたの?」
「どうしたって何が?」
朝が弱いのはいつものことである、まさかいまさらそんなに元気がなくてみたいなことは言わないだろう。
お母さんに聞くと、意外な答えが返ってくる。
「顔真っ赤よ?あと、見るからに具合が悪そう」
「へ?」
※※※※※
「それで風邪をひいたと」
「そうゆうこと、分かったら帰ってくんない?」
同じアパートだからいつもいっしょに登校するが、今日来てみたらこうだった。
いわく、昨日言った変な夢をまた見て、かなりショッキングだったから具合が悪いのかなーと思ったけど、お母さんに言われて体温計ったら39度ぐらいだったー、学校休めるねやったね!
・・・らしい
「はぁ、変な夢ねー」
別にさっさと行っても良いんだが、なんとなく癪だったので食いついてみる。
「そう、変な夢、興味あるのヤマトは」
「まぁ少しは不思議に思うが・・・」
正直言ってみただけでそこまで食いつかれると面食らってしまう、やっぱりさっさと行くべきだった。
「でもなんかお前に影響があるわけじゃないんだろ?なら別に良いだろ」
「影響あったじゃん」
「・・・何が」
「風邪引いた」
「・・・・・・・・・・・・・」
完全に沈黙してやった、しかし考えてみるとこいつが風邪を引いたことをみたことがない。
もしかしたらホントに?と一瞬思うがそんなことがありえるわけが無い。
という訳でここは・・・
「馬鹿でも風邪を引くんだな」
「誰が馬鹿よ」
「お前がだよ」
「あんたに言われたくないわよこの永年赤点丸」
「うるせーよ補修常習犯」
こういう風に話を逸らすことに限る。
正直ユキヒナたちと今までの経験からコイツの意識を逸らすことは簡単である、めんどくさい話は面倒だからな。
そんなこんなで少し話してから俺はマンションを後にした。
※※※※※
再び布団に戻り目をつぶる、すると不思議なことにさっきのような恐怖に駆られることはなかった。
正直私が夢の話に食いついた瞬間、明らかにいやな顔をし露骨に話を逸らしたのは気づいていたが、そのまま流されてよかった。
少なくともあのまま夢の話を愚痴るよりは明らかによかった。
そうやって落ち着いた思考を重ねていくうちに、私はあの夢のことを考えていた。
いや、もはや夢とはいえない、あれはもはや私にとってはただのタイムトラベルだった。
最初から変だとは思っていたけど、今では疑いようも無い、二連続で見たことや、あんなことを私のちんけな頭で考えられるとは思わなかったからだ。
それではなぜ私がタイムトラベルしているのか。
これに関してはさっぱりだった、私は今までなんかしたこともないし、目だった経歴も無い。
とにかく今考えないといけないのは、この先だった。
あそこの世界で死ぬのは現実にどこまで影響を起こすのか、私は一体何をすればいいのか。
そんなことを延々と考えてるうちに、そういうのが苦手な上に布団にもぐっていた私は、いつの間にか寝ていてしまった・・・
目を開ける、ひどく体が軽い気がした。
布団を押しのけ、大きく伸びをする、心地がよい目覚め。
今だったら何でもできる気がする、こんなに・・・
そこで一気に目が覚める。
周りを見渡すと、机やタンスなど生活に困らない程度のものがそこそこ揃っていた。
ベッドから立ち上がり、閉まっていたカーテンを開ける。
眩しい日差しが目に飛び込んでくる、そこからみる風景は、遠くのほうに砂漠が見えることを除けば普通と変わりがあまり無かった、しいて言えばそこそこ視点が高いことだ、そこらへんにあるビルがちっさく見える。
またあそこに戻されたのだ、しかしなぜか今回は前回とのつながりを覚えていない、私はこんなところで寝た覚えは無いのだ。
それにさっきから妙に体がかる・・・これはさっきまで風邪だったからか。
とりあえず疑問には思ったが動かなければ何も解決しないだろうと思い、私はドアを開け廊下に出た。
すると、すぐ目の前にメモ用紙のようなものが貼ってあった。
内容はこうだ
『眼が覚めたら、上の階にある会議室に来てくれ、頼みたいことがある。 byイシカ』
とにかくやることも無いのからこの指示に従うことにした。
近くの階段から上の階に上ると、その部屋はすぐに見えてきた。
学校の何年何組が書いてあるプレートのように会議室と書かれたそれは、まるで道しるべのように刺さっていた。
扉の前に立つ、少し緊張しながらドアのノックを叩こうとした、すると中から声が聞こえてきた。
イシカとテントの前にたったときのことを思い出し、いたずら気分で耳をドアにくっつける、すると中の声がよく聞こえてきた。
『わー、イシカあそぼーよー』
幼い女の子の声・・・誰だよ?
『いやいや今そんな体力ないから』
今度はイシカの声、どうやらちゃんと中にいるらしい。
『でもすっごく!ひまだってさっきいってたよ』
『それはそれ、疲れてるのは別の理由だよ』
『じゃあなんでひまなの?』
『いつ起きるか分からんやつを待つってかなり暇なんだよ、もう昼だぞ?あいつは普段どんな生活を・・・』
そこまで聞いてドアを開ける、そして第一声。
「待たせてて悪かったわね、どうせ引きニートよ」
「うっ、聞かれてたのか」
イシカがかなり渋い顔をする、まぁ今はそんなことをしてる場合ではない。
「まぁそんなことはいいのよ、それより何で私あんなところで寝てたの?あと今何時?あれからどうなったの?」
「質問は一つにしてくれ」
「おねえさんだれー?」
イシカに色々と質問していると、いきなり誰かが手をつかんできた。
「ひぃ!」
思わず仰け反る、下を見ると可愛らしい女の子がいた。
「ひぃ、ってお前・・・女の子に対してどんな反応だ」
「いや、イシカだって私に驚いたじゃん・・・てかこの子誰?」
「わざとやったのをカウントにいてるのかよ、そいつはだな・・・」
「そいつは?」
「センコウとリーフの子供だ」
「へー、ってええ!?ホッホントですか!!」
「嘘だ」
「嘘かよ!!」
私が驚き疲れていると、イシカはいたずらっぽく口元をゆがめた。
「いやいや、半分はほんとだよ」
「半分?」
「ああ、正確にはその子は孤児なんだ」
「え?それって・・・」
「話せば少し長くなる、それに・・・」
イシカは私の手をいまだに掴んでいる少女のほうを見た、そのしぐさでなんとなく察する。
要するにこの子の前で話すつもりは無いのだろう、当たり前だ、私の腰の辺りまでしか身長がない子の前でその親が死んだ話なんてできるわけがない。
「センコウさんとリーフさんの子供っていうのは?」
「それはな、あの二人・・主にリーフが本気で子供みたいに育てたんだよ」
「なるほど、じゃあさっきの質問に答えてもらっても良い?」
「一つずつなら」
「それなら一つ目、なぜ私はあんなところで寝てたの?」
「センコウが・・・いや、あの時、お前が倒れたんだよ、覚えてないのか?」
「さっぱり」
「まぁ気絶なんかそんなもんか」
なるほど、通りで寝たときの記憶がないわけだ、気絶だったのか・・・
ここで新しい疑問が発生する、それはなぜ気絶したかだ。
精神的ショック?それともタイムトラベル関係での限界時間とか?
これに関しては不明だ。
そしてもう一つ疑問がとれた、私があっちにいる間、もしくはこっちにいる間もう一つのほうでの私はどうなっているのかと時々疑問に思っていたのだ。
「二つ目は?」
そんなことを考えていると、イシカから疑問符がとんできた。
一つ目の質問でえられる情報はもうとくになさそうなので、私は質問を口にする。
「二つ目は、あの後どうなったのかを」
私がそういうと、イシカは再び女の子のほうを見た、恐らくこの子に気づかれないような言い方を考えているのだろう。
しばらくしたら考えがまとまったのか、イシカは私の質問に答えてくれた。
「あの後、暴れるリーフを俺が抑えて、後は仲間を呼んでそれぞれ運んだ、お前はお前で気絶していたから重くて大変だったぞ」
「女の子に重いって何よ」
「この感想を言ったのは俺じゃないからそっち文句を」
「オブラートに包みなさい」
「残念だったな、その言葉の意味は分かっても俺はオブラートをみたこともないし食べたこともない」
「私だって知らないわよ」
「知らずに使ってるのかよ」
「この時代だったら見れるものも限られているんじゃないの?ことわざのどこまで言えるのよ」
「サルが木から落ちるさえ無理だ」
「ですよねー」
なんか話が流されている気がするが、きっと気のせいだろう。
とりあえず次の質問へ
「じゃあ、えーと今何時?」
「軽い質問だな」
「そう思うなら時計ぐらい部屋に置いてよ」
「いきなり来たんだからしょうがないだろ」
「で、何時なの?」
「午前11時ごろ」
「へえー」
思ってた以上に遅い時間でもなかったらしい。
「えーと、あの時って何時ごろだったの?」
「ここに戻ったのが3時ごろ」
「それじゃあ何時間ぐらい寝たのかな?」
「その前にも寝てただろ?第一お前は気絶だから寝てるって言うのか怪しいがな」
「気絶も睡眠も変わりません」
「ほんとに?」
「知りません」
そこまで言うと私は長き息を吐いた。
「取り合えず質問はないかな、それじゃあ私は部屋に戻って」
「させねーぞ」
私がドアから出ようとしたらイシカに思いっきり肩を掴まれた。
「ナニカヨウカナ?」
「分かってるよな?」
「ナンノコトダカサッパリ」
「はぁ」
ため息をつかれた、地味にショックだった。
改めてイシカの方向を見る。
「仕事って何よ、昨日はいったこの私にさせる仕事って」
「ここぞとばかりに嫌味をを言うな、簡単な話だ、これからここで過ごすお前にもとくになる話だ」
「私にも?」
「ああ、仕事は簡単、今日一日、というより半日もないぐらいをコイツの案内でそこらへんを周ってくれ」
「何でこの子と行く理由は?」
「そいつはいつもリーフとセンコウに遊んでもらってた、だから探索に行ってた昨日は暇だったんだよ、で帰ってきたらきたでこれだろ?遊んでやれるやつがいないんだ」
「イシカたちが遊べば良いじゃん」
「お前が思ってるほど俺たちは暇じゃないからな」
「こんな時間まで私を待ってたのに?」
「それはそれで仕事だったからな」
「便利だな仕事って言葉」
社会の悪を見た気がする。
「まぁ見回るって言うのは悪くないかな?」
「だろ?まぁそいつと仲良くしてくれ」
イシカはそういうと会議室から出て行った。
会議室のは私と子供ちゃんが残される、しかし名前を知らないのは不便だな、私はそう考えると、しゃがみ子供ちゃんと目線を合わせた。
「名前はなんていうの?」
「わたし?わたしはユウナだよ!」
「そ、そう」
はっきり言って元気すぎる、私みたいな引きこもりが対処できるテンションじゃなかった。
「えーと、よろしくね、ユウナちゃん」
「よろしくー!」
そういいながら両手を上げて喜びをを体全身で表していた。
一体この元気はどこから出てくるのか、精神力がドンドン削られていくようなものを感じながら私は彼女に連れられて外に出ていた。
そこそこ涼しい建物の中から出てくると、直射日光が肌に突き刺さってきた。
日焼け止めとか使ったことないなー、たぶん外を動き回る女子はいつもこんなことを感じてるから日焼け止め塗ってるのかー、などと適当なことを考えながら後ろを見る。
どうやらさっきから私がいたのは、安全地帯の中心にある巨大な塔の様なところだったらしい。
周りを見ると、結構巨大でさらに何に使われているのか分からない建物がたくさん並んでいた。
「こっちこっちー」
ユウナの声が聞こえた方を見る、相変わらず楽しそうなオーラを体全身から発してる彼女は少し走り気味にコンクリートの道路の上を歩いていた。
置いてかれないように私も早足でそっちに行く。
やがて4、5分ほど歩いただろう、ユウナがある建物の前で止まった。
建物の名前は車両修理所、中からは明らかに誰かが何か作業をしている音が聞こえてくる。
「ここ?」
「そうここ!」
「ここに一体何があるの?」
「ムクがいる!」
「ムク?」
「ムク!」
会話になっているのか怪しい会話を繰り広げた後、ユウナは早々と中に入ってしまった。
慌てて追いかけ、建物の中に入る、中には机などが置かれてはいたが、一つを除いてすべてに埃が積もっていた。
さらに見渡すと、奥のほうに出口がありそこに人影が入っていくのが見えた。
その出口からは、例の作業音と日差しが入り込んでいる、やっと建物の中に入れたかと思ったが再び太陽光線に焼かれなければならないらしい、こっちの世界の日焼けがあっちに響かなければ良いんだが。
普通に歩いて出口を出ると、すぐ近くに車両が置いてあった。
「この車両は・・!」
最初にぱっと見たときは分からなかったが、その車はあの時の逃走に使用した車だった、もっと近くで見てみようと近づいたら、ユウナが地面に這い蹲るような体勢で車の下を見ていた。
「何をやっているの?」
質問したが一切を無視され、ユウナは口もとに手を当て息をためていた、そして・・・
「ムク~~~!!新人さんーーーー」
と大声で言った、何事かと思ったが次の瞬間さっきまで鳴っていた作業音がいきなりピタリと止んだ。
すると車の下から声が聞こえてきた。
「新人さん?ああ、昨日きた子か、ちょっと待っててね・・・そぉい!!」
謎の掛け声と共に、車の下から人が出てきた、車のCMとかで見たことがあるような、なんか板に車輪付けました見たいな物に寝そべっていた、その人物は車の中から出きったことをちゃんと確認すると、勢いよく立ち上がった。
「わしがムク!人類最後のエンジニアだ!!」
「わーいかっこいいー」
先に言っておくが、わしやだ!!などと言っているが、その超えは明らかに高く、容姿もどこから見ても女性だった。
「あれ?反応がないねー最近の若いもんはなっとらん!!」
「きょうはテンションがたかいねムク」
「そりゃこんなときに下がってどうする!新人なのだよ!絶望していた新人さんだよ!」
私だけを置いていき、二人は楽しげに会話をし始めた、これはフレイムとユキヒナのときと一緒のこのままにしたら完全に蚊帳の外状態になること一瞬で知覚できるあの雰囲気と一緒だった。
このままではヤバイと慌ててムクと名乗った人物に話しかける。
「えーと、ムク・・さん?」
「ムクで良いよムクで」
「え!?あっはい・・・ム・・ムク・・・・・・・・・・さん」
「おねえさんおかしいー」
ユウナに思いっきり笑われてしまった、連れられたのかムクさんも笑っている。
正直対人スキル0の私に呼び捨てをさせるなど10年早いわ!!という気分なのだが、自分で言っててへこむので一切口には出さない。
「まぁ言ってるうちに慣れるさ新人さん、で何か用なの?」
「えっ」
いきなり聞かれ一瞬言葉が詰まってしまった。
「えーと、イシカからユウナちゃんの案内でこの辺りを見て回れって言われて・・・その・・・」
「ほう、なるほど、それじゃあユウナ」
「なにー?」
「何でここに?」
「ムクがいるからー」
「可愛いことを言ってくれるな、油まみれじゃなかったら抱きしめてあげたい」
再び二人の世界に入り込まれそうだったので軌道修正。
「ムクさんはここで何を?」
「見てのとおり車のメンテだね、あんたたちが逃げてきたとき機銃ごともってかれたりしたから、いろいろと修理中」
「どれぐらいで直せるんですか?」
「今日中に終わらせてやる!!」
「そっそうですか・・・」
謎の自信だった、とくにこれ以上はなすことも無かったので黙っていたら、ユウナがムクさんに対して質問をした。
「ほかのみんなはどこにいるの?」
「うーんこの時間だからみんな食堂じゃないかな?わしも一緒に行くからちょっとまっててね」
そういってムクさんはさっきここに出てきた扉とは違うドアに入っていった。
暑いから中で暇に待っていると、2、3分でムクさんは戻ってきた。
「ふーさっぱり、シャワーっていいねやっぱり」
シャワー入ってたのかよ!と突っ込みたくなるがぐっと我慢する。
そのあと再び4、5分かけて塔に戻り、エレベーターで食堂のある階についた。
すると中から声が出てきた。
『_んで、___が無_んですか!』
『だから____だからだよ』
『断固反対です!___差別反対!』
『だから別に__はしてな・・・あ!___さん!』
『どうしたの?それより_____は?』
『在庫切れです』
『_____サベツハンタイ!!』
『二人に増えた!?』
「一体何をしてるんですか?」
「食べ物戦争、よくあることだよ」
ムクさんはそういうと中に入っていった。
私も中に入っていく。
中では二人の男女が一人の女の子を相手にカウンター越しに話していた。
「ういーす、今日も元気だねー」
「ん?、ああ、ムクさんですか、後ろの方は?」
ムクさんが入ってすぐに挨拶をすると、男女のうちの女の人がこっちを見て言ってきた。
いきなり振ってこられて一瞬あせる。
「えーと・・・」
「あれでしょ?新人さん」
すると男の人が今度は女の人に答えていた。
ちなみに話がそれて、カウンターの奥にいる女の子が一瞬安堵の息を上げていたのを私は見逃さなかった。
「例のあの子ですか、なるほど、じゃあ自己紹介ですね!」
「だね」
二人はそういうと私のほうによって来た。
「私はユカリです、好きなものはおはぎと大富豪、よろしくお願いします」
「俺はグルト、好きなものはヨーグルトとダウト、よろしく」
「あっはい、よろしくお願いします」
とりあえずお互い自己紹介、そして質問を一つする。
「二人は一体何を言ってたんですか?」
「「そうだ!!おはぎ(ヨーグルト)が無いんですよ(だよ)、酷くないですか!!(ない?)」」
二人にほぼ同時に言われた。
ムクさんがあきれたようにユウナとカウンターに食べ物を頼みに行った。
一体何分縛れていたのだろう、私が机に顔を突っ伏したころには、ムクさんのうどんの8割が消失していた。
「つかれた・・・」
「アハハ、お疲れ様」
その声を聞いて顔を上げると、そこにはお盆を持ったさっきの女の子がいた。
「えーと・・・始めまして?」
「だね、僕はクロト、よろしくね」
「よろしくです」
私はそこまで言うと、クロトは私のすぐ横に座って、お盆を机の上に置いた。
「食べる?」
彼女はそういいながら私にチャーハンを渡してきた。
「あ、ありがとう」
ありがたく食べさせていただく、二人ともしばらくもくもくと食べ始める。
沈黙に先に耐えれなくなったのは私だった。
「あの二人はいつもあんな感じなの?」
「アハハ、おはぎやヨーグルトがあると大丈夫なんだけどね」
「大変だね」
「楽しいものだよ、少なくとも何も無いよりは・・・」
その言葉に少し驚き、クロトのほうを向く、するとクロトは慌てたように話を逸らした。
「ああ、えーと・・・この後どうするの?」
「それは・・・」
正直ここまでもユウナに連れて来られらようなものだから、私はこの先など何も知らない。
「分かんない、たぶんユウナが何か用意してるんじゃない?」
「えと・・もし暇ならトランプでもしない?暇だしさ?」
「えっうんもちろ」
「「トランプ!!」」
いつの間にか近くにいた二人が露骨に反応してきた。
「大富豪?大富豪だよね!!」
「いやいや今回はダウトでしょ」
二人が言い争いを始めると、ムクさんとユウナがこっちにやってきた。
「え?トランプするの?ユウナもするー」
「わしも頑張っちゃうよー」
「あ、え?ちょっと・・・」
私が混乱しているうちに話はドンドン進んでいった。
するとクロトが私に話しかけてきた。
「楽しくない?」
その言葉を聞き、周りで騒いでいる数名を見た。
なぜか口元に笑いがこみ上げてくる。
「もちろん、最高に楽しい」
時刻はいつの間にか夕方をすぎ、みんなは夜ご飯を食べ、いまはもうこの食堂にいるはユウナと私だけだった。
私が疲れて机に突っ伏している横でユウナはさっきからずっと一生懸命に紙を折っていた。
しばらくすると、ユウナが私の肩を叩いてきた。
ゆっくりと体を起こしてユウナのほうを向く。
「どうしたの?」
「これ」
そういうユウナの手のひらの上には折り鶴が乗っていた。
「これは?」
「おりづるっていうの、おねえちゃんがあそんでくれたからあげる!」
そういって、ユウナは私の手に折り鶴を握らせた。
私はそのきれいに折られている折り鶴を見て、ふと気になって尋ねた。
「これをパパやママにあげたことは?」
「もちろんあるよ!あと・・・その・・・・」
最初は元気よく言ったがすぐに言葉がちっちゃくなっていく。
「どうしたの?」
「・・・ちょっとおねえちゃんこっちに来て」
そういうとユウナは出口に走っていった。
「あ!ちょ・・・」
私も慌ててそれを追う。
着いた先はユウナの部屋の中だった。
ここわたしのおへや、それだけをユウナは言うと私を放り出して、棚の中をあけていた。
「あった!」
彼女は探し始めてからすぐにそういうと、棚の中からソレを取り出した。
「これは・・・」
「どう?すごいでしょ!」
棚の中から出てきたのは、千羽鶴の完成途中のものだった。
「これを、どうして?」
さまざまな意味から私はユウナにそう聞いた。
「おりづるのことしらべてたらでてきたの、せんばあつまるとねがいがかなうんだって」
確かにそういう話を聞いた覚えが無いわけでもない。
「それとね、きれいだからつくれたらパパとママにあげるの!」
ユウナはそういって鶴を棚の中にしまった。
私は、ユウナに近づき、頭をなでながらこういった。
「優しいね、きっと喜んでくれるよ・・・」
片方が消えても、もう片方だけでも、きっとこれで救えることがあるはずだ・・・
私はこれはママとパパにはひみつだからね!と念を何回も言われた後、大浴場に来ていた。
いろいろあって疲れが無かったわけじゃないし、心のほうはもっと疲れている。
温泉の中でうとうとしていると、後ろのほうの扉が開いた。
誰かと思い後ろを向くと、そこにはイシカが立っていた。
なんだイシカか、そう思って姿勢を直し再びうとうと・・・
「できないよ!!ってええええええ!!!」
私が大声を上げるとイシカも驚いた。
「わぁ、どっどうしたんだ、いきなり大声を上げて」
「いや、てか・・・ええええええ、だってここ・・女湯だったはず?ってええええ?????」
考えが一切まとまらない、ひたすら混乱するしかなかった。
「え?ああ、そうだよ女湯だよ?」
「え?うん、そうだよね、ってなんで平然としてるの!?ここ女湯だよ!?」
「女湯だが?」
「だから何でそんなに冷静なのーーーーーー!!!!!!」
「俺は女だぞ?」
「へ?」
改めてイシカの体を見る、その姿は明らかに女子のものだった。
「よく間違えられるからいまさら驚きしないけど、とりあえず落ち着けよ」
「はう?へう?・・・クゥ」
「何でそこで寝る!?てか気絶!?ちょ、なにが・・・おーい誰かーー!!って窒息する窒息!!」
私が覚えてるのはイシカのその叫びだった。
こうやって私の平和だが平和じゃないとても楽しい一日が終わった。
たとえ、何かが崩れていても、それに気づかず、もはや手遅れになってしまったとしても、もう・・・すべては終わっていた。
疲れました、次回は五・五話、頑張って今週中にうpできるようにします。