第九話「団長」
イシカの発言があったあと、私は『いざ進もうぞ!!』ぐらいのおかしなテンションだったが。
リーフさんの、
『その前にここらへん調べたほうが良いだろ』
の一言によって一蹴された。
イシカのキョトンとした顔はかなり面白かったが、とくにそのあとは何も無く、イシカとリーフさんが探索、私はユウナちゃんと一緒に後ろのほうで待機だった。
二人があれこれと話し合ってる中、私は暇だったため、そのあたりを適当に見回していると、血に汚れた、鉄製の看板を見つけた。
私はそれに近づいていき、看板の前に座り込み、血が付いていない、唯一読める部分を見つけた。
「イオ・・・ナ?」
『イオナ』看板にはそう書かれていた。
どういう意味かと首をかしげていると、後ろからイシカが歩いてきた。
「どうした?看板の前にしゃがみこんで」
「ああ、それが・・・これ、イオナってなんなの?」
「ん?イオナ?ええっとな、ちょっと待て、思い出す」
イシカはをそういうと、腕を組み、さらに目までつぶって何かをぶつぶつ呟いていた。
しばらくするとイシカは顔を上げ、少しうれしそうな口調で私に話しかけてきた。
「思い出した!イオナって言うのはだな・・・」
「うむうむ」
「ここ、俺たちが秘密基地として使ってるタワーは元々イオナって言う会社の作ったものらしいんだよ、だから、まーなんていうか、ここの元持ち主みたいなものかな?」
「そーなのかー」
「なんか口調が変わったぞ?」
「気のせいだよきっと」
「そうか、それなら別に良いんだが」
「そうだよ」
イシカはそこまで聞くと一度ため息を吐き、少し真剣味を帯びた口調で言った。
「まぁ、ゴッドから最後まで避けられたり、地下室にこんなヤツラがいる会社なんて意味がわからないがな」
イシカはそれだけ言うと、早々と捜索に戻ってしまった。
「イオナねぇ・・・まぁ私には関係ないか」
私はそれだけ考えると、ユウナちゃんのところに戻った。
結局探索で見つかったのは、肩口の辺りから切り取られている途中まで肌が変化している銃を持った右腕と、血の付いた救急箱のみだった。
みんなで探索をおえ、私たちは今、部屋の中心のあたりにいた。
「結局これといったものはなかったな」
最初に口を開いたのはイシカだった。
しかし、私はそれに対して疑問を口にした。
「少なくとも変な化物がいることと・・・それとここが危険だってことは分かったんじゃないかな?」
私の言葉にイシカは少し慌てたような顔をしていた。
「ああ・・・そうだな、それもそうだよな」
イシカの態度に少し疑問に覚えつつも、私たちはそれ以降話すこともないため、イシカの合図で三個の行き先の内の一つの入るつもりだった。
しかし、誰も喋らない沈黙の空間に明らかに異質な音が混じった。
コトコトコトコト・・・・・・・・・
他の二人にも聞こえたのか、あたりを見回していた。
ユウナちゃんだけが状況をつかめていないのか、私たちの行動に首をかしげている。
状況に耐えかねた私が二人に質問した。
「この音は何?」
「分からない・・・ただし、たぶん近くにいる・・・」
「近くに!?でも、さっきまでそんな気配なかったじゃない・・・」
私はさらに質問を言ったが、どうやら二人は対応する気が無いらしく、再びあたりを見渡していた。
となりではやっと状況をつかめたらしいユウナちゃんが私の服の裾を握り締めていた。
私もほかの二人がしているようにあたりを見回した。
しかし、あたりにあるのは死体だけで、どれだけ注視しても何かが動いてるのを見ることはできなかった。
沈黙、誰も喋らないため、部屋には息遣い、そして・・・・・・
コトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコトコト・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋の中にはもはや聞き間違えることができない音量で何かが当たるような音が鳴っていた。
それは部屋中に鳴り響き、もはや音源がどこだか判断するのは不可能だった。
イシカもここまでになるとさすがに焦っているらしく、額に汗が浮かんでいた。
リーフさんもいつ敵が来ても良いように、銃を強く握っていた。
私も貰っていたハンドガンを両手で握り締める。
一触即発の緊張状態、ここにいる誰もが、敵が出てくるのに備えようとしていたとき。
私は、ふと、上を見上げた。
すると、一部だけ板が外れているところに一瞬だけピンク色の物体が見えた。
「上!!」
私は反射的に叫んでいた。
私のその言葉が会津だったかのように、イシカとリーフさんが同時に上を向いた、そして同時に、
ガタン!!
という音と共に、天井から次々と化物が降ってきた。
「逃げろ!!さすがにこの数はヤバイ!!」
イシカが叫ぶと共に、私たちは入り口から見て真正面にある出口に走っていった。
通路は薄暗く、数メートル先はほとんど何も見えなかった。
後ろからは雄叫びを上げながら化物たちが迫りよって来る。
「っ!!この、調子に乗るな!!」
リーフさんが怒号と共に、スナイパーライフルの変わりに持ってきたアサルトライフルを乱射した。
壁のように押し寄せていた化物たちに次々と鉛の雨が突き刺さる。
しかし・・・
「グギャァァァァァアアアアアア」
化物たちは怯むどころか、むしろ怒り狂い、触手のような両腕を振り上げながら襲ってきた。
「嘘!?銃が利かないの!?」
「今は考えてる暇はないだろ!とりあえず走れ!!」
「そうは言っても、ユウナちゃんも居るのにいつまでも逃げられないよ?」
ちなみにユウナちゃんは、私が手を引いて走っている。
しかし、それでもやはり動きが遅くなることは回避できず、さらにこのスピードを幼い子供の体力で走るならば、そう遠くないうちに体力が無くなるのは目に見えていた。
「それでも走るしかないだろ!!」
「なんかあいつらを一掃できるようなものはないの?」
「爆発物は手榴弾ぐらいならあるが、この数だと意味がない」
「っ!イシカ、前!!」
リーフさんが前の指差しながら、イシカさんを呼ぶ。
「どうした、まさか前にもあいつらがいるのか?」
「違う!」
「じゃあなんだよ!!」
「道が分かれてる!!」
「んな!!」
その言葉を聞き、前を注意深く見ると、確かに道が分かれていた。
「どっちに行くの!?」
「それじゃあm「ガァァアァァァァアァァァ」
イシカの台詞中に、後ろの化物の一匹が雄叫びを上げる、私たちは反射的に後ろを振り向いた。
するとそこには、一匹だけなぜか突出して早い化物が、確実に私たちと距離を縮めてきた。
「話の邪魔をするな!!」
イシカが後ろにアサルトライフルを向け、引き金を引いた。
ズガガ!ズガガ!
イシカはあまり連射をせずに、三発づつ狙いを定めて撃った。
一発目の連射が化物の右腕を吹き飛ばし、一瞬怯んだところで、二発目の連射が化物の右足を確実に捉えた。
そのままその化物は地面を転がり動かなくなった。
それを見てから、私は前を向いたが、明らかにタイミングが遅かった、分かれ道はすぐ目の前に迫っていた。
「やばっ!」
イシカが珍しく焦っていた。
先ほどのイシカとの会話を思い出す。
『それじゃあm・・・』
最後のほうは明らかに右と言おうとしていたようだ、私は分かれ道を一気に右に駆け出した。
しかし・・・
「ええ!!左ィィィィ!?」「しまった!!直感で行ったらさっき自分が言ってたことを忘れてた!!」
私のイシカが同時に絶叫した。
「ていうか、イシカの後ろを適当に付いて行けばはぐれないでしょうに」
そしてリーフさんの冷静なツッコミが入った。
私はすぐに今来た道を戻るために向きを変えようとした。
が、体を半分ほど傾けたところで、イシカたちのほうに化物が入っていった。
「クソ!逃げろ!!こいつらに出会ったらひたすら四肢を狙え!!」
「っ!!分かった!!あとで絶対合流してよね!」
「こっちの台詞だ!絶対二人とも死ぬなよ!」
二人とも?と一瞬疑問に思ったが、すぐに自分がずっとユウナちゃんの手を握っていたことを思い出した。
できるだけ後ろを振り向かないようにしながら、私たちは薄暗い通路を走った。
心に不安と恐怖を抱えながら。
※※※※※
「やっと片付いたか」
私たちは今、通路の先にあった部屋に立て篭もり、入り口が狭いことを利用し、一体ずつ敵を処理していく戦法をとり、時間はかかったが何とか敵を全滅させたところだった。
「かなり時間がかかったな、あっちは大丈夫だろうか」
イシカが心配そうに言っていた。
「ねぇ」
「ん?どーした?」
私はそのイシカに対して疑問符を浮かべた。
まるで世間話をするような感じでイシカは返答をした。
「あの言葉はどういうこと?」
「あの言葉?」
「最後にあのあの子に言った言葉よ」
「ん?ああ、あれか・・・」
イシカはそういうと、少し悩んだように頭をかいた後に答えを返してきた。
「ほら、あそこにあった死体は全部四肢が切られてただろ?それで逃げる途中に試したら倒せてたからああいっただけだ、とくに深い意味はない」
「そう・・・」
当たり障りの無い回答、しかしだ
あの時イシカは相当慌てていた、それなのに『試した』?
私はさらに質問を重ねていった。
「そういえば、何でユウナを連れて来たの?」
「あいつに言ったときに聞こえてなかったのか?」
「聞こえてたけど?」
「それなら・・・」
「だからよ」
「・・・」
イシカが喋るのを止め、真剣なようであり、見かたによっては表情が無いような顔を浮かべた。
イシカの返答を待たずに、次々と言葉を重ねる。
「ついこの前、砂漠の上であの子と私たちが合ったのはもちろん覚えてるよね?」
「・・・もちろんだ、まだボケてねえよ」
「それで、ゴッドから逃げるときに、例えば、あの子と私が倒れていて、どっちかしか助けられない状況だったらどうしていた?」
「それは・・・」
イシカの顔が少し苦しげに歪んでいく。
「イシカだったらあの子を迷わず選ぶよね」
「・・・」
「イシカ、あなたはゴッドに誰かが殺されるとかそんなことよりも、第一に目の前の目標だけを達成することを選ぶ人間よ、たとえそれにどれだけ犠牲が出ようとも、最後にこっちがプラスになっていれば勝ち、それがあなたのいつもの性格よ」
「・・・何がいいたい」
「少なくとも今回のミッションでユウナは邪魔になる、何で連れて来たの?」
「・・・」
「そういえばあの子への態度も変わってるよね、この前は何が合っても助けるぐらいだったのに、今は自分のみは自分で守れでしょ?」
「・・・」
と言っても、実は最後のは怪しかったりする、理由は、あの二人と別れたときのイシカの慌てようだった。
あの四肢を狙えという謎に指示が無ければ私もここまで疑問を持つことは無かった。
「あなたは何を知ってるの?」
「・・・」
最後の質問、イシカはたっぷりと時間をかけて悩み、そしてとうとうその重い口を開いた。
「ここの全地形、そしてアイツら化物たちのこと、そして・・・最初に入ってきたら間違いなく奇襲されることぐらいなら知っている」
「・・・」
今度は私が黙る番だった、化物たちのことをある程度知っているならともかく、全地形まで知っていたのだ。
目を一度強く瞑り、心を落ち着かせる。
すると、一つ恐ろしい事実に気づいた。
「それなら・・・それなら最初にここに先遣隊をしてきたグルトたちは?」
「・・・」
「まさか・・・最初から使い捨てにするつもりだったの?」
「・・・」
「イシカ!!」
イシカの肩に手を置き、思いっきり壁に体を押し付ける。
「・・・そうだよ、お前の言うとおりだ」
「何で!!何でよ!!あなたはそんなに自分の命が大切なの!!」
「それは違う!!!」
イシカが突然大きな声で否定する。
その気迫に押され、イシカから手を引いてしまった。
「お前には分からないだろうし、教えたとしてもいい訳しか聞こえないだろうから詳しくは言わない、ただな・・・」
「・・・」
「大切なのは俺の命でも、お前でも、他の団員でも、ゴッドの命でもない」
「じゃあ、あなたは何を守ろうとしてるの?」
「『ユウナ』だ」
「・・・え?」
再び思考が停止する。
ユウナ?
おかしい話だった、もともとユウナは両親と共にここに来たが、たまたま発見が遅れ、親だけ死んでしまった、ただの孤児なのだ。
それが、他の団員、そしてゴッドよりも大切なこと?
「どういうことよ、まったく意味がわからない」
「だろうな」
「説明してよ」
「さっき言ったように、説明しても意味が無い」
「っ!!このっ!!」
私はできる限りの剣幕でイシカを睨みつけるが、イシカはまるで見えてないかのようにそれを無視し、部屋の出口のほうを向いた。
「俺は行くが、お前はどうするんだ?」
「・・・行くよ、あなたが何を考えていようと私には関係ない、私がやりたいのはセンコウの敵討ちだけだ」
「そうか・・・なら行くぞ」
そういって、出口に歩いていったが、途中でイキナリイシカは足を止めた。
「ん、危ないわね、なによ」
「何でかって聞いたよな」
「ええ、聞いたわよ?でも答えてくれないんでしょう?」
「それじゃあ、一つだけ、ヒントってわけではないけど、この言葉を聞いたらさすがのお前でもあまり聞く気にならないだろうって言葉をいってやる」
「何よ」
「俺にはな・・・」
イシカは一瞬だけためをつくり言い放った。
「『神様』が付いてるんだ」
「・・・」
少なくとも、この世界の人にとっては最悪の、冗談でさえ言わないような言葉を、イシカは平然と言ってのけた。
という訳で、イシカさんの裏には何が?前回の『神様』との関係は?そして『ユウナ』に隠された秘密は?
物語が動き始めたこともあり、次々と問題が提示されていきますね~
ちなみにこの小説は、6割の予定と、4割の突発的な考えでできています、後半辻褄が合わないことも出てくるかも知れませんが、どうか暖かい目で見てください。
それでは、この小説を読んでいただきありがとうございました、できれば、今後とも見てやってください。




