第4章:オサナナジミ
「おっはよー、隼!」
大和の声だ。
隣には遥奈もいた。
いつもの合流地点で待っていた俺は2人に歩み寄っていく。
「昨日電話したのに出てくれないからどうしたのかと思ったぜ」
大和は少しふくれっ面になりながら言った。
確かに大和から携帯に電話が来ていた。が、出る気にはなれなかった。
「ああ、ごめん。ちょっと色々あって出れなくて」
「いいよ、別に大した用じゃなかったし」
そう言って大和は軽く笑う。
「そういえば、映画。面白かったぜ! な、遥奈?」
「うん、ちょっと泣いちゃった」
そうだ、先週末この2人は映画を見に行ったんだったな。
「どんな話だったの?」
ちょっと気になるので聞いてみた。
「主人公の魔法使いが自分の強すぎる力を制御しきれないばっかりに自分の親しい人を傷つけていっちゃうっていう話だったかな。
それでも主人公のことを信じてくれる仲間がいっぱいいてさ――むぐぅ!」
「ちょっと、ネタバレはさすがによくないんじゃない?」
遥奈が慌てて大和の口を押さえる。
「いや、いいよ。で、最後はどうなったの?」
俺は気にせず聞いた。
「強くなりすぎた力は完全に制御できなくなっちゃうんだけど、恋人にだけは手を出さなかったの。それで主人公は恋人に自分を殺してくれって……うぐぅっ」
映画のシーンを思い出したのか、遥奈が少し涙目になった。
「それで主人公と恋人は心中しちゃうの……うぅぅっ」
「そうか、バッドエンドか」
「いや、でもある意味じゃグッドエンドだよな」
大和が反論してくる。
「主人公はこれ以上親しい人を殺さずに済むし、少しは救われた気分だったんじゃないかな。最後には孤独から解放されたわけだし……」
いつでもこいつはポジティブに物事を考える。昔から変わってない。
だけどまあそれにも一理あるか。
「ま……まあ、とりあえず面白かったんだよ!」
沈黙していた俺を見て拗ねたと勘違いしたらしい大和が無理矢理フォローを入れた。
「そうか……」
そう言って俺は無意識に空を見上げる。
今日は、曇天だった。
その日の放課後、桜花からテレパシーで連絡が入った。
(ちょっと用事頼まれてくれない? 今撮影で手が離せなくてさ……)
用事……? 何だか嫌な予感がするが一応聞いてみる。
(いったい何をすればいいんだ?)
(お使いだと思ってくれればいいわ。 案内する家に侵入してちょっと取ってきてほしい物があるの)
それって盗ってくる、の間違いだろ、おい。
(決行は今日の21時。 その時間ならその家に誰もいないわ)
(わかった、じゃあ時間になったらまた連絡してくれ)
「しゅ〜ん〜!」
突然目の前に大和の顔が現れる。
「うわっ!?」
テレパシーを使うとき、無意識のうちに思考に意識を集中させてしまうので、完全に周りの声が聞こえていなかった。
「さっきから何回も呼んでるのに……返事ぐらいしてくれなきゃ悲しいだろ」
真面目な顔で大和が言った。
「わ、悪い。少し疲れてて……」
「まあ、気にすんな! さあ、帰ろうぜ!」
そういうと大和は俺の手を強引に引っ張り外に連れ出そうとする。
「ちょ……ちょっと待ってくれ! まだ帰る支度終わってないんだよ!」
色々なことがあったおかげで、いつもの3人で帰るのが久しぶりに感じる。
いつも通り、俺は目の前を歩く大和と遥奈の後を付いていく。
「そういえばオレ、今日外食なんだー!」
大和が自慢気に言う。
こいつが外食と言って自慢するときは大抵かなり高めの店だ。
少し目を輝かせながら遥奈が食いつく。
「えー、ズルーイ! どこ行くの?」
「いやぁ、本当は連れていってやりたいんだけどさー!」
ははは、と笑って俺の方を振り向く。
「もちろん、隼もな」
「あ、ああ」
いきなり話題を振られて少したじろぐ。
「だがしかし諸君、朗報だ」
大和は立ち止まって急に表情を引き締め、変なキャラで語り始めた。
「実は……」
「実は……?」
「友人を2人まで招くことをお父上が許可してくださった! うちの奢りで!」
俺と遥奈は思わずおおー、と歓声を上げてしまった。
「ということで突然で悪いんだけど2人とも今日の夜暇? 多分21時くらいになると思うんだけど」
「アタシ大丈夫ー!」
遥奈は元気良く手を上げて答える。
「隼は?」
大和は真正面で俺と向かい合う。
「いやー、悪い。今日の夜ちょっと用事が……」
いくら本当のことは言えないとはいえさすがに苦しい言い訳だったか……?
「そっか、やっぱ突然だったからな。こちらこそごめん」
「次、行くときは誘ってくれ」
「ああ、必ず!」
「じゃあな、また明日!」
大和が手を振ってくる。
「ああ!」
そうして、いつもの分かれ道で俺たちは分かれる。
左に曲がる道は俺、まっすぐ行く道は大和と遥奈の帰り道だ。
いつも、俺はひとり取り残される。
今の関係だってそうだ。
遥奈は、俺よりも大和を選んだ。
まあ、大和はなんでもできるからな……。
“才色兼備”。
俺が知ってる人でその言葉が1番似合うやつだと思う。
俺に勝ち目なんかなかったのかもしれない。
「このこと考えるの、やめたはずだったんだけどなぁ」
望むものをくれる、と言われてつい色々な希望を持ってしまったのかもしれない。
だけど、こっち側では何も変わっていない。
あんな力を手に入れたというのに、大和に対する嫉妬、劣等感もそのままだ。
いつもの平凡な日常が相変わらず続いていた。
「ん……」
ポツリ、ポツリと雨が降り始めた。
「マジかよ、雨降るって予報じゃなかったのに……」
俺は家までの道を急いで走りだした。
「好きだ、遥奈」
ああ、そうだ。
これは半年前のことだ。
俺は思い切って遥奈に告白した。
放課後、俺は彼女を体育館の裏に呼び出した。
あの時の緊張と気持ちの高まりは今でも憶えている。
「あ……隼、返事は……ちょっと――」
「いいよ、待ってる。」
もちろん、その時の遥奈の困った顔も、しっかりと目に焼き付いている。
俺は、その時、返ってくるであろう返事はわかりきっていた。
だけど、待った。待ち続けた。
そうするしか、希望がなかったから。
だが、その3日後、遥奈は大和と付き合い始めていた。
メールで1言『ごめん』と送られてきたが、詳しいことは何も聞いていない。
聞くことで3人の仲が崩れるのが怖かった。
いや、それ以上に大和と遥奈に仲間はずれにされるのが、怖かったのかもしれない――
(時間よ、隼。起きて)
頭に響いた桜花の声で目が覚めた。
どうやら帰ってすぐ寝てしまったようだ。
(わかった、すぐ支度する)
顔を洗って、一応汚れてもいいフード付きの服に着替えると、俺は家を出た。
今日は誰も殺さずに終われるといいな、などと甘い願望を抱きながら。
雨は激しさを増していた。雷まで鳴っている。
歩けば歩くほどに雨が強くなっているようにも感じられる。
(そこを右折してすぐだ)
俺は指示に従いながら、デジャヴに襲われた。
この道、知ってる気がする。昔よく通ったような――。
そう思いながら、右折した。
そして、そこに建っていた家を見て、絶句する。
「おい、ここは……」
そうだ、昔はこの道を通ってよく遊びに来た。
大和の家だ。




